第11話その時は突然やってくるのか③

上宮中学は初戦突破から怒濤の勢いで連戦連勝し、上宮中学史上最強とも言える華々しい圧勝劇を見せていた。その中でもやはり、河野新太は別格で、初戦から準決勝までの4試合で

平均30.1得点

8.7アシスト

2.5リバウンド

と、とてつもない活躍ぶりであった。県の新聞でも「天才少年現る!」と取り上げられるほど、記者のインタビューも受けて、まさしく、華々しい新人戦のスタートを切ったのだ。


─決勝戦前日─

地区の新人戦の決勝戦前日、部活は試合形式の練習で調整して終わった。明日の相手は全中出場経験もある強豪の私立。これまでの相手とは格が違う。それは誰もがわかっていたし、そのせいか、今日は連携が上手くいかなかった。新太も顧問から

「今日は帰れ」

と言われてしまったので、大人しく帰ることにした。漫画なんかで強い相手を目の前にテンション上がって実力以上の力を出す、何て展開がよくあるけど、実際に今、自分がその立場になって理解した。あの主人公には自分はなれない・・・と。まだ試合は明日なのに、練習中に手が震えたし、シュートも入らない。帰り道でもつまずきそうになって、足取りが覚束無いことに気づいた。見たこともない“全国クラス“というだけの相手にここまで緊張している自分に驚く。

「ただいま。」

─────。

何とか転ぶことなく家に帰ったのだが、

「おーい、レン姉?」

いない。廊下に明かりもなく、奥のリビングも暗い。

「?」

普段、レン姉は部活をしているわけでもなく、塾にも通っていない。通信制の教材を提供している某ゼミで勉強しているから、塾に行かずとも成績がいいから。友達とかと遊ぶから遅くなるときも必ず連絡をくれるのに、心配になって、LIMUで連絡を取ろうとメッセージを送ろうとしたとき、

ガタン!「ただいまー!」

慌てて走ってきたのか、肩で息を荒くしているレン姉が駆け込んできた。

「っ!どうしたの?」

少し呼吸が整うのを待ってから

「いやぁ、学校で進路面談が長引いちゃって、遅くなっちゃったよ~。ごめんね、今こら夕飯作るから!」

そう言ってスーパーの袋を持ってリビングに向かうレン姉の腕をつかんで止める。

「いや、今日は遅いから出前にしようよ。久しぶりにピザでも頼まない?」

「・・・でも、明日は大切な試合じゃん、ちゃんとした食事しなきゃ」

「それでレン姉に無理させるくらいなら、試合なんてどうでもいいって。」

そう言って笑って見せると、レン姉は顔を赤くして、

「そ、そっか。わかった。」

と納得してくれた。

「出前の電話しとくから、レン姉も風呂入って着替えてきなよ。汗かいてるでしょ?」

と言いながら、持ってるスーパーの袋を取る。

「うん。わかった。」

そう言ってレン姉は一旦家に帰っていく。と言ってもすぐそこなのだが。

とは言っても、

「・・・そっか、レン姉ももう、進学なり就職なりするんだもんな。」

レン姉がいなくなった家の中のせいか、寂しいと思ってしまう自分がいることに嫌でも気付いてしまった。

「レン姉、進路のこと話してくれてないよな。」

そうして、やっと自分がレン姉のことを全然わかってないことに気付くのだった。



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