第9話 その時は突然やってくるのか①
新太たち1年生にとって、基本的にはデビュー戦とも言える新人戦を明日に控えたバスケ部は、試合形式での練習で調整をして切り上げた。
新人戦だって立派な大会であり、来年の春以降の大会での注目選手も、この大会での活躍次第。
「明日はいよいよだな!」
「やべぇ、緊張してきたー!」
と更衣室で着替えながら各々明日への気合いも十分といった感じだが、
「そんなんじゃ、試合までもたないぞ。」
テンションが上がっている同級生の背中を叩く。とは言え、3年生の先輩たちがいない、これは夏から大会に出場していた新太にとってもプレッシャーだった。
「ん?新太まだ帰らないのか?」
着替えずにバスケットボールを持っている新太を見てチームメイトが不思議そうに見る。
「あぁ、ちょっとだけシュート練してから帰るよ。」
「そっか、じゃあお先~。」
「また明日な」
「さて、やりますか。」
倉庫からボールを大量に取り出して、シュートをうち続ける。
ガラガラ
「新太、そろそろ終わりにしろ。」
体育館の重たい扉が開く音と同時に顧問の先生が入ってくる。外の景色は真っ暗で、自然ともうかなり遅い時間だとわかる。
「試合の前日にやりすぎだ。明日の試合もたないぞ?」
ついさっき、自分で言った言葉をかけられる。
「・・・はい、大丈夫です。」
ゴール下には20個くらいのボールが散らばっていて、スリーポイントライン、フリースローとそれぞれにボールを入れるカゴが置いてある。
「外からのシュート・・・か。」
新太が得意としているのは、ドリブルと持ち前のスピード、ボディバランスを駆使した斬り込む力だ。夏の大会では3年生がスリーポイントを決められるメンバーだったから新太も大きな活躍ができたが、新人戦メンバーには3年生ほどスリーポイントの決定力はない。バスケットで大切なのは外からの攻撃力と中からの攻撃力がバランス良く強いこと、どちらかが強いだけでは勝てない。それを理解しての練習であることは、すぐにわかった。
「新太、お前は一人で抱え込む癖がある。」
夏の大会で負けたときも、新太は責任を感じて塞ぎ込んでしまったことがあった。
「確かにお前に外の攻撃力がつけば今よりも何倍も戦いやすくなるし、お前は強くなる。だが、それは今じゃない。お前は1年生だ。もちろん、1年生だからと言って甘えが許されるわけじゃない。それでも、チームの全てを背負うなんて、それはただの傲慢だ。」
「っ!」
顧問のきつい視線に背筋を伸ばす。
「もっとチームを信じろ。明日、お前は自分にしかできない役目を果たせばいい。」
そう言って散らばったボールを1つずつ丁寧に片付け始める。
「わかりました。」
顧問が片付けとモップかけを手伝ってくれたおかげで、早めに片付けを終えて着替え、帰路につくことができたが、その頃にはもう7時をとっくに過ぎて8時に差し掛かっていた。暗い中で余計に寒さを感じる。
「ただいまー。」
軽くランニングして帰ると、
「新太ー!おそいよぉー!」
例のレン姉がダッシュでリビングから出迎えに来てくれた。
「ごめん、居残りで練習してた。」
「もぉー!心配したんだからね!」
「ごめん。」
こんな会話を夏の大会前もした気がする。
「もうっ!とにかくお風呂入って。夕飯はハンバーグにしたから。」
「おっ!」
ハンバーグは俺の好きな料理ベスト3に入る大好物である。
その時、レン姉の顔にいつもの明るさがなかったことに、まだ幼すぎた俺は気づけなかった。
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