第五話 ワンピース
____クソ、あいつら絶対に許せねえ!
俺はあのあと職員室にて、少しのあいだ尋問を受けさせられた。
男子校の奴らときたら、"他人の不幸は蜜の味"とかいうようなのばっかりなので、俺が担任に反省の意を述べさせられている間も同級生たちが俺たちの周りを囲ってはゲラゲラ笑ってたのがかーなりウザかった。
とりあえず、あの状況を呼び込んだ澤田と木村はぜってー泣かす。具体的には、あいつらが授業中に
……そんなことを脳内で画策しながら、俺は足早に目的地へと向かう。面談とかいう世界で五番目ぐらいにムダな行為に時間を取られたのだ、急がないと海音を待たせることになってしまう。
しばらくすると見えてくる、今回の集合場所であるカフェ『アイディール』。
俺の最寄り駅から下りで三駅のところにあるこのオトナなカフェは、普段俺と編集が打合わせするときにもよく利用しており、行きつけの場所といっても過言ではない。
やがてそこに到着し、俺が店の扉を開けると、『いらっしゃいませ』と店員が出迎えてくれる。
さて、海音はすでに来ていたりするのだろうか。
そう思って俺は、客のいない静かな店内の席をキョロキョロと見まわすと_____
「あ、嶋村くん! おーい、こっちこっちー!」
____なんということだろうか。
奥のほうの席で、満面の笑みを浮かべながら俺のことを呼ぶ海音。
彼女はなぜか___純白の可愛らしいワンピースをその身に纏っていた。
……いろいろと不思議な点もあるが、一つ良いか。
『世界よ、ありがとう____』
「わーー!! 嶋村くんどうしたの!!」
ガチで昇天しかけた俺を見て、あわてて駆け寄ってくる海音。
あ、ストップストップ。それ以上俺の近くに来ると本当に心臓もたない。
過ぎたるはなお及ばざるが如し。過ぎた美少女は時に、俺みたいなスペシャルチェリーを余裕で殺す兵器にもなり得るのだ。
……そんなことを考えるぐらいには、まさに海音とそのワンピースは
今日の朝の制服姿や、昨日の比較的簡素な服ももちろん良かったのだが、俺もワンピース買って着てみようかななんてアホなことを思うぐらい、今のそれは様になっていた。
「あ、えっと、とりあえず席まで行こ?」
そう言って海音が俺の手首を掴む。
あ、今心臓一個割れた。確実に触れられたのが原因、ドキドキのしすぎによる爆死ですよ。絶対に俺の残機が一つ減っちゃったって。
「はい、ここ! 嶋村くん、そろそろ目を覚まして~」
「あっ、はい! おはようございますでゲス!」
ぺちぺちと頬を叩かれて、俺は正気を取り戻す。
いやーヤバかった。もうちょっとで異世界転生するところだったわ。目の前にいる美少女が俺と知り合いだなんてそんな……いやマジかー……。
「あ、起きた。よかったー」
はい、バッチリですマイエンジェル!
俺は心の中でテンション高めにそう唱えると、海音がさっきまでとは打って変わり、急にもじもじとしだす。
「あの……えっとぉー……」
「……ん?」
「その……似合う、かな?」
それはもう素晴らしいぐらいですよ
そんなキモさの極みみたいなセリフが無駄なイケヴォで頭を駆け巡るが、リアルの俺はそこまで気持ち悪い人ではないので、実際は急いで表情を取り繕い、あくまでも平常に、
「最高ですご馳走様です」
うわオタクでちゃった、オタクでちゃったよこれ!
なにがご馳走様ですじゃドアホ、俺はもうちょっとふっつーーーな感じで、それこそラノベとかにあるような、「ああうん……、その、似合ってると思う……よ?」みたいなので行くつもりだったんだよ! なのに何カマしてくれとんじゃこのスカポンタン! おたんこなす! でべそ!
「あ、うん。ありがと……?」
ほら海音さんも引き気味じゃないですかもーー!
とりあえず、俺の中の気持ち悪い人格くんよ。今だけは黙っといてくれ! おねがいします!
……ふう。とりあえず平常に、いつも通りな感じで。
「あー、滅茶苦茶に似合ってるしかわいいんだけど、どうしてワンピースを着てるんだ? 朝は制服だったでしょ?」
今度こそ普通なかんじを取り繕ってそう言った。
まぁ、でもやっぱり疑問なんだよな。なぜ学校帰りのはずなのに、制服から劇的ビフォーアフターをしていらっしゃるのか。
と、すると海音はぶら下げていた右手を胸に持っていきながら、
「うっ、その……。そう! 一回家に帰って着替えしてきたの、ほらちょっと今日転んで制服が汚れちゃってさ」
「転んだのか、ケガは平気か? ……しかしふむ、それで白のワンピースか」
「あー、えっとえっと、ほら、時間が足りなくて急いで適当に引っ張ったらこれだったからさ! いや、流石に気合入れすぎとは思ったんだけど、仕方なく、ね!?」
「お、おう」
……焦ってんなあ。
何に対してかは知らないが、彼女の口ぶりと、右手を胸に持っていくという昔からの癖でもそれはわかった。
でも、そんな焦る要素あったか? あれか、ちょっと俺と一緒に原稿やるだけなのに、おもったより派手な格好をしてきちゃったことが恥ずかしかったのかな。
もしそうだったら、別にもうちょっと服選びに時間をかけて、いくらか遅れて来てくれてもよかったのだが。俺は彼女のためなら5億年は待てる自信があるし。
まあ海音からすればそういうわけにもいかないんだろうな。俺はひとりで勝手にそう納得する。
結果的に俺にとっては役得なわけだし、素直に今は、二度と見られるか分からない彼女のワンピ姿をこの目に焼き付けるとしよう。
「そうだよ、うん。……あ、そうだ。ねえ、そろそろ何か頼まない? カフェにいるのに何も頼まないってのも変だしさ」
どうやら海音の動揺は収まったようで、彼女は俺に対してそんな提案をしてくる。
まあ、もっともだな。
「あー、そうだな。なにか頼むか」
俺は、なんでもないようにそう返した。
その内心を隠して。
……とうとう来た!
そう、これは"チャンス"なのだ!
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