三話

「レナ、その、休みの日にさ、出掛けない?」

「買い物には行くわよ?」

「いや、そっちじゃなくて、いや、それも行きたいけど。僕達って付き合って結構経つよね?」

「そ、それが?」

「ちゃんとしたデートに行きたいんだ」


そう、前にも言ったけど付き合って一ヶ月近くは経つんだ。なのにデートを一度もした事がない。


良く出掛けはする。スーパーに行ったりはする。最近は減ったけど二人で散歩もする。あ、駅前にも良く行くね。


これを誰かに話すと『デートしてる』と返ってくるんだ。僕にとってそれは、


付き合う前からしてるんだからデートではないんだ。


じゃあ、僕の言うデートは? と聞かれると、やはり、普段行かない場所だったり、二人でまだしてない事をしに行くのが僕にとってのデートかな。


「はあ。分かったわよ。その、デー……行けば良いんでしょ! 一緒に出掛ければ!」

「え。良いの?」

「良いって言ってるでしょ。それ以上何か言うなら行かないわよ?」

「うん! ありがとう、レナ!」


えへへ、レナがデートに行ってくれるのか、嬉しいな~。やべ、顔の緩みが戻らない。



「なら、早速行くわよ」

「え。今から?」

「うん、今じゃないと駄目なの」


袖を掴まれ、頬を朱色に染めて上目遣いで言われる。


はい、今直ぐ行きましょう!



**


「………ねぇ、何でさっきから落ち込んでんの?」

「ん。落ち込んでないよ」


いや、実際は落ち込んでいる。でも、途中から勘づいていたからそれ程落ち込んではいない。でも、期待もしてたから、それなりのダメージが心に入った。


だってねぇ、出掛けるのに学校と同じ変装させられるんだよ、誰だって勘づく。それでも


今、僕達が来ているのは昔馴染のスーパーだ。


でかでかと『サクラスーパー』と書かれた看板を飾っている僕達が小さい頃からずっと通っている馴染深いスーパー…………デート、じゃないよね、これ。何時もと同じだよね…………レナさん!?


まあ、良いけどさ、レナは照れ屋さんだからきっとまだデートは恥ずかしいんだろう。


でもね、一ヶ月は過ぎたんだよ、そろそろしてくれても…………いや、こんなわがままはレナを困らせてしまう。レナのスピードに合わせてあげるんだ。レナが困る事もしたくないからね。


「……手を繋ぐのも駄目かな」

「そ、それは……!! 良いから行くわよ!」

「うん」


スーパーの中に入り、手を繋ぐ事は出来なかったけど、そこは照れ屋なレナらしくて可愛いと思う。まあ、ぼちぼちやって行けばいいさ。


その選択が後にあんな出来事を起こす何て今の僕は知らない。





**



「ねぇ、そう言えばあいつって本当に何なの?」

「ん、あいつ……?」


あいつ、あいつ、まさか、結城坂のことか?

いや、でも、何で今そんな話が……。


スーパーからの帰り、皆無だった会話の初めが”あいつ“ と言う、結城坂の話から始まるとか僕的には嫌なんだけど。あいつは僕の逆鱗に触れた。だから、名前も声も顔も全部見たくもないし、聞きたくもない。


どんなことで逆鱗に触れたかと言えば、そんなの決まっている、レナの事だ。思い出すだけで苛々が積もってくる。



レナの背が低い? 撫でやすくて良いじゃないか。


レナは平行線? それを気にするところが可愛いんだろ。あ、僕は小さい方が好みだよ? 割りとマジで。でも、知り合いには『溺愛し過ぎだろ』とか『ロリ……良い趣味だな』とか若干引かれて言われた。何でだろ?



「大丈夫、僕はもうあいつ嫌いだから」

「? そう。なら、良いけどさ、その、余り仲良くしないでね」


最後は何だか声のトーンが低く感じた。はあ、レナは心配性だなあ。大丈夫、安心して、俺はレナのものだから。


「レナ、大丈夫だよ」

「何が大丈夫なの??」

「僕はこれからもずっとレナの側に居るから」

「…………何、キザってるのよ。バーカ」

「あはは」


僕は苦笑する。レナはずっと、『バーカ、バーカ』と言いながら軽めの足蹴りをくらわせてくる。痛い、痛い。でも、これはレナの照れ隠しだから我慢出来るし、最近少なくなっているスキンシップが出来るだけ僕は嬉しい。


「やっぱり、眼コンタクトに変えていいよ」

「ん? そう?」


眼鏡の方が付けやすいと改めて思い知ったから、僕的には眼鏡が良いけど、レナが言うならコンタクトに変えよう。


**



「わあ~眼鏡取ったんだ! うん、そっちの方が良いよ! 後はマスクも取ったら良いと思うな~」


さらさらした茶髪を生やした女──結城坂が何時もの様に軽い感じに話掛けてくる。僕らは別に友達でも何でもないのにな。


だから、無視をしたって良いよね。


「ねぇねぇ。しゅうく~ん?」


机の前で屈み込んで、手を伸ばし、ばんばん、と机を叩く結城坂。


本当にうざったい。

何で、こいつは僕に構う?

 別に僕に好意があるって感じはしない。どっちかと言うと、”好奇心“ だと思う。


ただ気になっただけで知りたい事が分かればもうそれで良いって感じがする。


そう、考えると、結城坂を早く追っ払いたいなら、素顔を見せれば良いのだが、それはそれでレナとの約束を破ってしまう。それだけは絶対に死守しなければならない。



「ねぇねぇたら!」

「うぜぇよ」

「…………最近、何か言葉使い荒くない?」

「そんな事ねぇだろ。


結城坂の言う通り、僕はこんなに言葉使いを荒くはしたりはしない。でも、レナの事をバカにするならそれなりの対処は取るけど。


結城坂は僕にこう言った。



『高城さんって可愛いとは思うけど、それって子供みたいだからだよね。童顔で、言っちゃ悪いけど、幼児体型だよね』


そこから聞く耳が持てなかった。と言うか、記憶がない。覚えている事も少しある。

でも、何故か結城坂に対する怒りの感情はあった。


何時もそう。ぷつん、と意識が途絶える様な感覚がして、そこから記憶が殆ど無くなってしまう。それで、毎回”怒りの感情“だけが僕の中に残っているんだ。


でも、僕はその理由を知っている。だって、毎回同じ様な内容の話をされた後で起こる事だから、嫌でも気づく。


何時も起こっているんだ。



「……ねぇ、しゅうくん」


僕はまた無視をしようとした。でも、結城坂から出た言葉は衝撃的過ぎた。



「高城さんと付き合ってる?」

「え」


その時、僕から出たのは素っ頓狂な声だった。

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私の言う事を聞きなさいっ!【連載版】 南河原 候 @sgrkou

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