第二話
「ねぇねぇ、しゅうくんー! 無視しないで話聞いてよー」
また居る…………。
入学式から数日、クラス内にはグループが作られ、それに入れなかった人は自分の席で本を読むかスマホを触るかのどっちかだ。僕もそれになるつもりだったのにあれから毎日、結城坂が話掛けてくるんだ。そのせいでレナに『誰? あいつ』と毎日の様に聞かれる。それも、冷や汗が止まらなくなる程の威圧感で言われるから結城坂には止めて欲しい。それに秋森からいつの間にか『しゅうくん』と言うあだ名まで付けられてるし。
「あー! 煩い! 僕なやってるか分かる!?」
「スマホで何か見てるんでしょ? それぐらい分かるよ」
「だったら、一人にしてくれ」
「うーん。なら、マスク取ってくれたら良いよ」
何で、そうなる? こいつは人の話を聞かない奴なのか。
マスクは取るなってレナに言われているから取れない、でも、結城坂は取らないと何処かに行ってくれない様子。我慢するしかないのか。
「絶対マスク取ったらカッコいいと思うんだけどな~」
僕がカッコいい? それは自分では何とも言えないが、レナがカッコいいと言ってくれてたから僕はカッコいいのだろう。
レナは決して嘘は吐かないから信じれるんだ。これでも、中学ではそれなりに告白もされた事ある。でも、レナにしか興味がなかったし、レナを馬鹿にしてた奴らだったから少し強めの言葉で断ってやった。
そしたら、何故か次の日から学校に来なくなったけどまあ気にする事はない。
「ねぇ、ねぇねぇ!」
こいつは、ねぇねぇしか言えないのか? 早くどっか行って欲しい───そこでメールが届く。レナから、
『早く引き離せ💢』
とこめかみマークと一緒に送られてきた。これは、怒って、いや、ヤキモチかな? レナが焼き餅か、嬉し過ぎる。あー、ヤバい今直ぐにレナをぎゅ、っとしたい。でも我慢! 今は学校で家に帰ってからだ! まあ、残念な事にさせてくれないんだけどね、あはは……。
「はあ。マスク取ったらどっか行ってくれるの?」
「うん! 取ってくれるの?」
「まあね。あ、あれ」
僕は斜め右方向を指差す。結城坂はそっちに顔を向け、その瞬間に一瞬だけマスクを下げて一瞬で上に上げる。
「ああぁぁぁ!? ずるい! 卑怯だ!」
「ん? 何が? 君が取った時に此方を見てなかっただけでしょ?」
ちょっと意地悪かも知れないが、これもレナとの約束を守るため。一瞬だけなら良いよね? レナ。
「で、取ったけど、どっか行ってくれる?」
「いやいや! 一瞬じゃん! 取った姿見せてくれないと行かないよ!」
「うーん、でも取ったは取ったし。約束だろ? で、その約束を守れないのなら、次のやつも守れないって訳だ。それでも見せるとでも?」
「くっ……」
歯を強く噛み締めて此方を睨んでくる結城坂。
「言っとくけど、睨んでも見せないよ」
「むぅ、絶対外した方がいいのに~!」
「それは知らないけど、僕は絶対に外さないから」
頬膨らませブーブー言ってくる結城坂は放っておいて、レナから来ているメールはどうしようか。あはは、ヤバい本気で怒ってる。
『早くどっかやれ』
『は・や・く💢!!』(これが四回も送られてきている)
『今日はお説教ね。部屋で待ってなさい』
『ねぇ、今一瞬マスク外してなかった? 気のせい? お説教とご飯抜き!』
あ、見られてた。これは返しておかないと。
『外したけど一瞬だけだし、見られてないよ』
『そう、それも含めてお説教だから。後、今日は何時もの場所で待ってなくて良いわよ』
なんで、すと…………!?
何時も学校で関われないから帰りだけは一緒に帰ろうって言ったら渋々といった感じだったけど、了承してくれた。なのに、それすら無くなってしまうのか。
「……ごめん、もうどっか行ってくれない?」
「嫌~。マスク取ったら行ってあげるって言ってるじゃん!」
はあ、本当に話を聞かない奴だな。レナが怒ってるんだから分かれよ。このままじゃあ、一緒に買い物に行くってのも無くなってしまう可能性がある。それは駄目! 絶対に避けなければならない事だ、それには結城坂を離すしかない。
「うーん。てかさあ、何でマスクを取らないの?」
「そ、それは………」
それは彼女から言われているから。と言っても良いのだろうか。うーん、レナの名前を出さなければ良いの、かな。
「彼女に言われてるから」
「ふーん。彼女居たんだ。何て言われてるの?」
「学校じゃあ、マスクは取るなって。あと、前髪もだから。分かったら自分の席に戻ってくれない?」
もう、納得して行って欲しい………。
「そ、そんな自分を縛る様な彼女の何処が良いの?」
「全部!!」
「即答……」
がく、っと頭を俯かせ、上目遣いで此方を半目で見て呆れた視線を送ってくる結城坂。
レナに縛られるか、悪くない。と言うか、縛って欲しい。
「はあ。仕方ない、今日は諦めよっと」
「いえ。今後も諦めて来ないで下さい」
「はいはい~!」
るんるんで走ってとあるグループに入って行く結城坂。やっと行ったと僕は肩を落とす。
あいつは絶対に明日も来る。あの会話だけは昨日もしたからな!
そして、ちょっと目を向けるのは怖いレナの方にこっそり視線をずらす。
レナは此方を目を細くさせ横目で見ていた。そして、目が合う。僕は逸らせずずっとレナを見ている。
ちょっとするとメールが飛んでくる。
『遅い。オキ〇〇ールを買っておくように。じゃないと後から困るのはアキよ』
そ、そこまでヤキモチを妬いてくれているのか………。ヤバい、今直ぐにでもレナを抱き締めて誤解を解きたい! でもその気持ちはぐっと抑える。学校では関わるなっと言う約束がある。
※※
冷や汗が止まらない。
眉間に皺を寄せて正座をしている僕を見下す様に見ているレナ。レナの片手には硬い画用紙で作られたハリセンがある。手元はテープでぐるぐる巻きにされ持ちやすくされている。あれは、かなり痛い。暫くジンジンした痛みが止まらなくなってしまう。
流石に僕もあれには叩かれたくない。だって、本当に痛いから。
レナもそこまで鬼でもない、ただ、それで地面を叩き威圧してくるだけ。そこにはレナの優しさを感じる。
「で、早速他の女に乗り替えたの?」
「へ? いやいや! それは違うから!! 僕はレナだけにしか興味ないから!」
「そ、そう。なら良いわ。じゃあ、何で最近あの女とつるんでるの?」
良かったあ、一瞬焦ったけどレナの顔から険しさが少しだけ薄れたから信じてくれたんだろう。
で、つるむ? 僕が何時結城坂とつるんだ? うーん、身に覚えがないんだが。
「えっと、つるんだ───ひぃ!」
バシンッ! と床をハリセンで叩き威圧をしてくるレナ。
「嘘を吐かない! 放課は何時もあの女と居るじゃない! 一人で居てって言ったよね!? 言わなかった!」
「いえ! 言いました!」
「だったら、何で一人で居ないの?」
「いや、それは、あの人が勝手に来るから」
また、バシンッ! と音を立てて威圧をしてくるレナ。
「ねぇ、まさか、あんな奴に素顔を見せたの?」
「いや、見せてないけど?」
「ふーん。どうだが」
「本当だよ? レナの言いつけは守ってるから───な、にゃに?!」
レナに小さな手が僕の両頬を力強く引っ張ってくる。
「なーーにが! 守ってるですって! さっきマスクを外したって言ったわよね!? それは守れてるのかしら!!」
「ふへんなしゃい!」
「何を言ってるか分からないわよ!!」
り、理不尽だ。レナに頬をつねられて上手いこと喋れないだけなのに。くっ、仕方ない、我慢するしかないか。
それに、レナの可愛らしい顔が間近にあるのも悪くない。えへへ、レナが近い!
「何にやけてるの!!」
「ぐふぅ!」
レナの膝頭が力加減無しで腹に直撃する。
僕は嗚咽を上げて、腹を抑えながら床に倒れ込む。
「良い? 明日からは眼鏡も掛けること! じゃあね」
レナはバンッ! とドアを閉めて行き、僕は一人部屋に放置される。
眼鏡、あったかな? 小学校以来付けてなかったからあるかちょっと不安だ。
その後、引き出しにしまってあるを見つけ、レナに変か聞きに言ったら、即答で変と言われ暫く落ち込んだ。
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