第一話

桜が咲き乱れる大道。道端には立派な大木になり淡い桜の花を咲かす木々が立っている。それが両端にあるから桜のトンネルとも言えるだろう。


そこを通るのは、スーツを着こなした社会人だったり、詰め袖で黒一色の学生服(←学ラン)を着た男の子だったり、白が主に使われ青色のラインが入ったセーラー服に紺色の長めのプリーツスカート履いた女の子が視界に入る。ここら辺で一番有名な貴高きこう高校の制服だ。お金持ちが多いと聞くが、普通に街道を歩くんだ。


「お金持ちの人も普通に歩くんだね」

「は? あんた、何言ってんの? 歩くでしょ。分かんないけど」


横に居るさらさらした銀髪をリボンで一纏めにしたレナに言葉を振ると僕の常識を少し否定された。

黒一色で所々に白いラインが入ったブレザーに、黒色強めの紺色の短めのプリーツスカートを履いている。胸辺りには青色のリボンを付けている。僕は下がズボンかの違いぐらい。


何だか嬉しい気持ちが湧き上がってくる。レナと同じ制服、へへ、”同じ“というだけで嬉しいなんて初めて知った。うん、最初は同じ学校じゃなくても、って思ってたけど、今は同じ学校じゃないと悔み、哀哭してたって確信を持って言える。


「何、にやけてんの?」

「え。あー、嬉しくてつい」


顔に出てたのか。まあでも、嬉しいんだから仕方ない。幸い周りから見られてるって感じはしない。


「嬉しい? 何が?」

「ん。レナと恋人になれたってね」


そこで僕の脚の脛部分に足蹴りが入る。思わずしゃがんでしまい、ジンジン痛む脚を手で抑える。


レナはふん! っと顔を振り前に歩いて行ってしまう。これは彼女なりの照れ隠しだ。もう、素直じゃないなあ。でもそこが彼女らしいと思えるし可愛いから許せる。言っとくけど、レナは怒ってないよ。だって、耳が赤くなってるのが見えるし。


脚が痛まなくなり、立てる様になったら先に行ったレナの後を追いかける。


少し行った所の道端に佇むレナの姿があった。髪を指に巻いて弄っている。どうやら、 待っててくれたようだ。僕は足を早めレナの側まで行く。


「遅いわよ」

「そんな、理不尽な」

「はあ。良いから行くわよ」


先に行こうとするレナ。その時ふわ、っとレナの髪が揺れる。僕はレナの横に立ち小幅を合わせながらレナと一緒に歩く。






「レナ、お花見行かない?」


ふと、桜を見た時に思った事をレナにそのまま伝えてみた。

レナは凛とした表情のまま、


「今度ね」


今度、今度一緒に行ってくれるのか! これ以上ないぐらいに嬉し過ぎる。ああ、 もう死んでも良いかも。

何故こんなに嬉しいがると言うと、付き合って一ヶ月近くは経つのにデートの一つもした事がない。はは、悲しい事にね。


普通、恋人になったらデートの一つでもするだろう。それも一ヶ月だよ? 一ヶ月!! そんな長期恋人としてのお付き合いをしてるのに、デートをしてない僕達って恋人と言えるだろうか。


いや、恋人だ! お互いに好きだっ、て………そう言えば、まだレナから一度も好きって言って貰ってない。まあそこは、レナらしいから良いとして。レナは恥ずかしがりやで素直に物を言えないから”好き“と率直には言わないが、行動だったり、反応で示してくれる。さっきみたいにね。


レナの手をそっと握ろうとする。

だが、レナは僕の手を弾き、スタスタと前に歩いて行ってしまった。うん、照れ屋だなあ、レナは! 


手を繋ぐのは諦めて隣に立って一緒に歩く。


「ねえ、もうあんな事しないで」

「え。あんな事って?」

「だから、手を繋ごうとするを止めてって!」

「う、うん。これからは、止めるよ」

「分かれば良いの! 早く学校行くわよ」


そんなに恥ずかしいとは、ごめんね、分からなくて。少し残念だけどしないでおこう。レナはやっぱり可愛いな~。


**


学校に着くとレナはそそくさに離れて行き、一人で校舎の中に入って行ってしまった。僕はそれを気にする事なく遅れて昇降口から校舎に入って行く。


昨日、レナに『学校で余り関わらないで』と言われた。だから、レナが先に行くのも納得がいくし、僕もそれに従う。僕が一番嫌うのは”レナが嫌がる事を決してしない“だ。

レナの機嫌を損ねたくない。レナは笑っているのがとても似合う女の子だ。


不機嫌な顔。

悲しい顔。

笑ってないレナなんてレナじゃない。レナは笑顔が一番で。僕はそれを守りたい。



それから、形式だけの入学式を終え、それぞれのクラスに戻り自己紹介が始まった。



「じゃあ、最初に|秋森『あきもり』君、お願いね~」


さっと席から立ち上がる。その時一斉に教室に居る生徒全員から視線を受ける。名字のせいで何時も一番に何かをやらされるからこういうのは慣れているから上がったりはしない。最初に何をすれば良いのかも分かっている。


そう、ここでやる事は目立たず、陰キャラになる自己紹介をする事だ。人付き合いが苦手とかではないけど、余りつるむ気はない。だって、どうせ皆はレナの事を馬鹿にするから。そんな奴らとは関わりたくもない。


「秋森秋一しゅういちです。趣味は特にありません。一年間宜しくお願いします」


それだけを言い席に座る。先生からも『次の人どうぞ~』と言う言葉が告げられたから大丈夫だろう。これで、“面白くない奴”と思ってくれるかな。


それから自己紹介は進み、レナの番が回ってくる。


「高城レナです。一年間宜しくお願いします」


ニコッ、と笑い軽く頭を下げるレナ。その光景に誰もが釘付けになっている。レナは容姿がとても良いから誰もが注目する人物になるんだろう。

いや、注目もしないと可笑しい、レナは世界一可愛い女の子なんだから。


**


自己紹介は終わり、今日は式だけだった為、帰宅する事になった。だが、殆どは友達作りをしていて教室には半数以上の生徒が残っている。


さて、レナも誰かと楽しそうに話しているし、僕は先に帰るか。


席を立ち上り、それと同時に今日はまだ軽い学生鞄を手に持ち、後ろにある出入口を目指す。


「高城さん可愛いよな~」


そんな声が前方から聞こえて来る。少し歩く小幅を遅くして聞き耳を立てながらその横を通って行く。


「確かに可愛いけど、あれだぜ?」

「あー、合法ロリってな! 現実に居るとは思わんかったわ」

「こう、もう少しここがあったらなあ(←胸元で山を作る仕草をしながら言っている)」


よし、こいつらとは仲良くしない。後、中村と古谷よ、覚えておけ、何時か酷い目合わせてやるからな。


僕は二人に向けた殺気を出してその横を通り過ぎて行く。


「「!?(な、何か寒気が……)」」


出入口まで来た所でとある視線に気づく。恐る恐るそっちを見ると、近くの椅子に座る結城坂明日香あすかと言う女子がこっちを見ていた。いや、もしかしたらただ壁を見ているだけかも、うーん、でも何かじっと見られている気もする。


さらさらとしている茶髪。小振りながらもふっくらとした唇、筋が通った鼻、ぱっちりと大きいキャラメル色の瞳をしている。端正と言えば端正な顔立ちだ。それに可愛いとも思う。でも、レナの方が可愛い!


入学式だと言うのに淡黄色の長袖セーターを着ている。まあ、人それぞれなのだが、少し固くに言うと入学式ぐらいブレザー着てこようよ。あくまでだけね。僕も明日からはYシャツだけにするし。今日ぐらいはちゃんとした服装で来ようとブレザーを着てきたんだ。


そして、結城坂の口元が軽く緩んだ。何か玩具を見つけた様な緩み方だった。結城坂は椅子から立ち上り、此方へと近づいてくる。僕は何か嫌な予感がするから、直ぐに行こうとするものの、肩を掴まれてしまった。


「ねぇねぇ、秋森君。マスク取ってみて」


なんで、初対面でそんなに馴れ馴れしく出来るんだ? 

確かにレナに言われた通りマスクは学校に着いたら付けたけども、レナに取るなって言われているから絶対に取らない。


「嫌だよ」

「ええ、取った方が良いよ! 後、前髪もそんな風に陰キャぽくしてなくて上げてみよ!」

「嫌だ。僕は帰るから」


前髪は目を隠す様に下ろしている。これもレナに言われ来る前からやっていた、上げるなとも言われているから此方も絶対に上げない。


「じゃあ~一緒に帰ろうよ!」

「え。いや、その、家が逆かも知れないし」

「だったら、駅前まで一緒に行こ!」

「…………」


何でそんなに僕に構う。レナには余り女子とは仲良くもしないで欲しいとも言われているから関わらないで早く帰りたいんだけど。


仕方ない、走るか。


手を叩き、そのまま掴まれる前に前に足を出し、そのまま走って逃げた。

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