昆虫

黒咲 千那

昆虫

私は昆虫が大嫌いだ、この世界は名状し難いもの達で溢れ返っている。

これは私がまだ若くて世間知らずの愚かな子供の時の話、、



薄暗くて広いところにいる、ここに集められた意図は理解してる、、つもりだった。


成人儀式、“社会”の一員に成る為だ。


ここ辺りの人間は特別な社会体制を持っていて15歳で成人を迎える、成人儀式が済めば立派な“社会”の一員と云う訳でこの訳が分からないほど広い建物に集められている。


「立派な“社会”の一員にしてやろう」

そう言われて怪しげな色の錠剤を渡されて1人ずつ個室に呼ばれて行く。

疑問がなかったか?と言われば嘘になるが両親はこれを済ませれば幸せになれる、自分達もやって来たことだと繰り返すばかりだった。


そろそろ私の番だ、広場よりさらに暗い怪しげな物が吊り下げられている部屋へ招き入れられる。

何か大きな虫のようなものの羽音?カチカチと硬いものを擦り合わせるような気味の悪い音が聞こえた。

あの怪しげな薬が効いてきたせいか身動きが取れないのに意識は妙にハッキリとしている、白衣の男に金属製の台に寝かされる、ひんやりとした質感だけがハッキリと感じられる、妙な音は聴こえ続けている、、


此処で起きた事を語るのは筆舌にし難いのだか、記録に残しているのだから書かねば意味が無いだろう、、

私は拷問され脳を抉じ開けられ名状し難いあの不気味で嫌らしい昆虫を脳に押し込まれたのだ!


人生最初の“社会経験”が無事に済んで良かっただろう?と笑う周りの大人達に未だ怖気が立つ。

後から知った事だが私が育った英国ブリチェスターのゴーツウッドの町の辺りは怪しげな神を信仰する狂った信者の集まりのある地域らしく私の両親もそうだったのだ。

ゾッとするようなあの不気味な昆虫達に操られ白痴の神に祈さられている。


思い出すのも嫌だがあの昆虫達は鳩くらいの大きさで汚らしい柄のてんとう虫のような形の虫で知能も高い様だ、地球の生き物では無いような事を言っていた。

あんな虫が地球の何処で進化すると言うのだろうか、外宇宙から来た侵略者と言われる方がまだ理解が出来る。


兎に角私の頭蓋の中にはあの嫌らしい虫けらが“居た”のだ!


居た、と過去形なのは何故かと云うと私の頭蓋の中は居心地が余程悪かったらしく虫けらは拒否反応を起こしたのだ。

両親は私を信心が足りない人間の屑だと罵った、地域の人間たちは私を遠ざけ垂れ死ねば良いと影口を叩いた。


それから幾らもしない内に私は家出をした、ロンドンで知り合った米国人の伝で米国へ渡った。

そこでこういう訳の分からない事を調べていると言うマサチューセッツ州アーカムにあるミスカトニック大学へ行く事になった。

そこで色々と調べて行くうちに大学で本格的に学ぶ事になり人類学部へ入学した。


私の両親達が信仰するのは白痴の魔王アザトホースと呼ばれる旧い邪神らしいと言う事が解った。

いずれは故郷のゴーツウッドにも調べに行かなければならないだろう。


現在私が所属しているミスカトニック大学自体も怪しげな物で溢れる場所で狂えるアルハザードの魔導書の翻訳版が保存されていたりする。

図書館には頼り甲斐のある番犬もいる。

あの訳の分からない連中は犬が苦手らしい事が分かったので私も立派なマフティフ犬をボディガードに迎えた。

彼の仕事ぶりは優秀で危険な調査にもよく付き合って色々な場所へ伴をしてくれる。

私のあの気の狂った拷問で病んだ神経も彼のお陰で大分良くなっている。


だが、つい昨日庭で彼が尋常じゃ無い程吠え狂っていて何事かと思って見に行ったらあの嫌らしい昆虫共の脚が1本落ちて居た。

ゾッとしてそれに触れる気にもならず、記録だけでもしておこうとカメラを用意している間にすっかり溶けたように消えてしまった、土の上には濡れた様な跡が残っていただけだった。


それ以来あの時の恐怖が悪夢として甦る、、


1926年9月

ミスカトニック大学人類学部助教授 ジョセフ・エリック

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昆虫 黒咲 千那 @lluluyer

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