月の御子


物質体マテリアル・ボディーへの侵入を確認


第一、第二階層を抜け情報次元までの侵入を確認しました


情.報世■での防ヰ御を展 しmす―― /……【Щnθ$色@kの……妨gi¢£∂失敗―j―しま……


Wかheヾの◆$ろ○戯nい2ら■¢Щ£のA@3な、θ--




――Error


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物質体マテリアル・ボディーの再構成を確認――成功しました


種族“妖狐あやかしぎつね”へと進化します



続けて意思の存在独立を確認


魂の部分解放を開始――成功しました


称号【色欲の証】を獲得しました


これを元に能力の一次解放に移行――成功しました


固有能力【霧の妖尾あやしび】【真偽の瞳】を獲得しました


以上で能力の授与を完了します》





………………

………





 満月が辺りを明るく照らし中天に差し掛かる頃。


 何時もなら一日の活動の大半を終えて森の木々や昼行性の動物が眠りに付き、逆に夜行性の猛獣なんかが活動を始めている時間帯である。

 人の手が行き届いていない大森林は彼らのホームであり、いつ命が奪われても可笑しくない戦場でもある。この大自然に放り込まれれば人間などあっという間に蹂躙されよう。


――だがこの日は違った。


 昼夜問わず繰り返し行われる食物連鎖はこの瞬間為されず、大型の肉食獣から始まり植物までもが文字通り息を潜めて必死に存在を薄くしていた。


 こうなった理由はハッキリしている。それは環境汚染でも、急速に発生した異常気象でもない。もっと強大で生物の真相心理に宿るモノ。


 それは“恐怖”


 森の支配者たる彼等が、立ち向かう事さえ許されない生物としての圧倒的な“格の差”

 森に生きる全ての動植物はソレが過ぎるのをただ只菅ひたすらに願うしかない。


 そしてソレはそんな生物の事など頭の片隅にも置かず“荷物”を持ったまま悠然と歩を進めていく。


「~~~♪」


 その足取りはとても軽く上機嫌だった。ソレの歩みを阻むモノは当然現れず、心なしか左右にある樹木さえ道を開けているようにも見える。


「~~~♪」


 しかし周囲にそれだけ恐れられていながら、彼女・・はどうしようもなく美しかった。


 ソレは見るだけなら二十代半ばの超がつく美女だ。


 唄う姿は、吟遊詩人が好んで使うようなありふれたモノ。

 だけれども一流の詩人がどれだけ言葉を並べたとして彼女の美しさを形容するなど不可能だし、それを想像するだけで酷く烏滸がましいとさえ思う。

 どんな綺麗な言葉で飾ったとしても彼女に似合うモノなど出来やしないのだから。


 雲の隙間から月の光が漏れ、地上にいる彼女をより際立てる。

 唄も中盤まで終わり、蕩けるような声音と共に光が絞られ彼女と天とを結ぶ一筋の道となる。


 それは月の御子と呼んでも何ら不思議では無かった。


 理由の一つとして、ソレは人の姿をしながらも人ではないのだ。

 後ろに生える九つの尾・・・・がその証拠。ゆらゆら揺れるその姿はまさしく羽衣を纏った天女のようで。


 全身を彩る白い肌は彫刻に使う石の中でも最高級の輝きを放つ白英石に勝るとも劣らない艶かさ。

 地面に付きそうなほど伸びた白銀・・の髪が、より一層の透明感を持たせ、現実に居ながら実は全て幻想なのではないかと疑ってしまう。


 彼女が身につけているのは地球で云うところの和服ドレスであった。日本で和服といえば黒や赤などが多いが、それは灰白色をベースに青や金色で彩られた花川を模様として施している。

 おまけにその上から、今度は普通の着物を羽織るように着こなす。

 肩全体が見える着崩しで胸や太股といった絶対領域が惜し気もなく晒されており、本来であれば下品に思うその様相も彼女がやればその美貌と相まって神秘性を醸していた。


「♪---」


 唄が終わり、月の女は閉じていた瞼をゆっくりと開く。新雪を思わせる雪結晶色スノーホワイトの瞳からは光を窺えず、しかし何処と無く愉しそうに微笑んで見せた。



「――くすくす。転移直後に滅多刺しやなんて、湊も可哀想になぁ。幸先悪いさかい、女神様の不興でもうてへんか心配やね。せやけど……」


 心配と言いながら笑みを隠しきれていない。物静かな瞳の奥では悦喜の感情が浮かんでいた。

 しかしそれも次の瞬間にはガラリと色を変える。


「湊を襲うた罰はきっちり受けて貰わななぁ。あの男、次うたら十回は遊んで殺してあげんとね」


 瞬間――。纏っていた雰囲気が湖面の静謐としたものから、生命の輝きさえ凍て尽かせる“凶器”へと変貌した。


 別に意図してやったのではない。ただ彼女から発生した怒気がほんの少し周囲に漏れただけ。

 それなのに。たったそれだけの事で数キロ圏内にいた生き物という生き物は動物も植物も関係なく平等に生の終末を迎える事になった。

 彼女から放たれた死の気配に耐えられず、最低限の生命維持機能すら絶たれてしまったのだ。


 しかも全く同じ表情、同じ声量でそんな事をするのだから、それが余計に美女の不気味さを際立たせた。


「ま、過ぎたことはええわ。そん時はそん時やね」


 そんな理不尽とも言える最期を迎えた有象無象には目も向けず、それでも彼女の怒りは収まった。

 正しく言い換えるなら怒ることに〝飽きた〟と言ったところだろうか。今の彼女には別の興味対象がある。


「あぁそうそう。この子やったな、湊の選んだっていう子は。くすくす。なんやおもろい【戒禁】も持っとるようやし、湊も退屈しいひんね。羨ましい」


「愉快愉快」と微笑みながら視線の先――と言ってもやはり何処を見ているのか分かりにくい――にあるのは右腕で挟んだままここまで彼女の荷物となっていたアルシェだった。

 彼女は本来湊と一緒に落ちたはずだが…現時点で彼の姿はない。

 

「あらあら、本当に可愛い子やないの。流石は【嫉妬】やね。こないなの普通の人間ならイチコロやん」


 アルシェを見てから彼女の機嫌がすこぶる良くなる。


 疲労でだいぶやつれてはいるが、その姿は彼女から見ても可愛らしい。自分とはまた違った魅力を持つ少女に、ほぅと感嘆の息を吐いた。

 彼女にそう思われるだけでそれはもう一種のステータスなのだが、残念ながら当の本人に意識はない。


「くすくす。湊もこないな子が好みなのかしら。少し年下よね?」


 抱えていた右腕から正面へひょいっと移動させ、まるで人形を扱うかのように全身を隈なく確認していった。

 やがてその眼はアルシェのある一点で止まる。


「あらまぁ。見た目に反して中々……くすくす。やっぱり、あの子は大き方が好きなのかねぇ。せやたら夜の方もきっと…」


 酷い誤解も有ったものだ。湊はこの年になっても誰かを好きになったことなど無いし、そもそも興味すら無かった。

 だから此処に本人がいれば勝手なイメージを持つなとでも言うだろう。しかし実際に居ないのだから仕方ない。


 女性はそんな事を考えるでもなくその後もアルシェの身体を触っていく。肌具合はどうだとか、尻はどれくらいかだとか。挙げ句の果てには感度を調べるため胸を弄ったりもした。


 しかしそんな事をされても――途中で声が漏れたりはしたが――起きる気配さえ無い。


 大国の第二王女相手に遠慮も何も無いが、そんな肩書きなど白銀の女にしてみれば些末事でしかない。

 気に入るかどうかは相手によるが、彼女の場合国王や魔王だって虫と同列に考える節さえある。それだけ彼女が特殊なのだが、(何度も言うが)この場でそれを知る者はいない。



 暫くし。漸くアルシェから興味を移すと、今度はその辺の岩に腰を据えて上を仰いだ。

 今夜は月が真ん丸の形をとっている。これを見て時間いっぱいまで過ごそうかと考える。アルシェはその辺の草の上で適当に寝かせておいた。


 この時森の住民たちにとって幸いだったのは、美女がその考えに至った事だろう。

 もしこれが新月とかだったなら、暇を持て余した彼女が森の草木“だけ”を全滅させて動物達が飢餓で苦しむ姿を楽しんでいたかもしれない。


 おっとりしたように見えて残酷。計画的に思えて酷く利己的で狂楽。彼女を言い表すならそんな感じだろう。



「邪魔や。そこ退きいな」


 そんな中、月に懸かろうとした雲を鬱陶しげに見つめると、後ろで揺れていた尾で虚空を払った。


――ズバアァッ!


 その瞬間、満月から美女へ妨げていた障害物が空間ごと裂けた・・・・・・・。 


 それに満足した美女は今度こそ腰を落ち着かせると、再び天を仰いだ。

 割れた空間などは月見の邪魔になるから消しておいた。少し前ならメンドくさがって絶対にしなかった後処理も完璧に行う。



「あぁ……そう言えばやることまだ残っとったなぁ。はあ~、めんどいなぁ」


 暫く月を眺めていると、予定が有ることを思い出し九本の尾を全て広げた。

 その圧倒的な佇まいから生物としての格が窺い知れる。










 「巫山戯たわむれろ 【戯■■色■カ■イ■■ワセ】」








 この日、大陸東方のアトラス大森林がこれを境に魔境となることを人々はまだ知らない。



「くすくす。ダリミル帰還・・を記念して、妾からささやかなプレゼントや。けど試練はここまで優しゅうしいひんよ湊。貴方アンタには早う強うなって貰わなあかんのやさかい。そうでもしいひんと妾…退屈でほんまに死んでまいそうや」



 月の光が消えると同時に彼女の姿がぼやけ、そんな言葉が暗闇に投げ出された時には誰もいなくなっていた。


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