このキーぜったい使わないでしょ!?

ちびまるフォイ

使わないキーなら捨てちゃえば

「おい聞いたか。キーボードリストラがおきるらしいぞ!」


エンターキーの言葉にキーたちは思わずざわついた。


「り、リストラ!?」

「もうずっと同じメンバーだったじゃないか」

「今さら誰かが欠けるなんて……」


もはや固定メンバーだと思っていたキーだったが、

リストラの4文字を聞いて震え上がった。


涼しい顔をしているのはエンターや「A」などの文字キー。


「はっはっは。底辺共が慌てとるわ」

「まあさすがにオレらのリストラはないわな」

「私がいなくなるとエンターを"ッターン"することができなくなるからな」


「他人事だと思いやがって!」


けれどキーたちは他人にかまってられる余裕などない。

明日にはキーボードからリストラされるかもしれないからだ。


「どうしよう……F12のオレなんて使われてないよ……」


「大丈夫だって! ほらネットするときに"開発者オプション"を開くときに使うじゃないか!」


「そんなの使う人いないもん!」


Altキーの双子はお互いを見合わせた。


「「 なんで俺たちって二人もいるの……? 」」


Ctrlキーは慌てて自己弁護を繰り返す。


「やめろ! その疑問を持つんじゃない!」

「どちらか片方だけでいいみたいになるだろ!!」


お互いの必要性を話し合っているうちに口数が少ないキーが出てきた。

それはしだいにキーたちから孤立し、うっすらどのキーも気づき始めた。


「おい、本当にいらないのって……」

「見ないほうがいい。同族に思われたらこっちだってリストラ候補になるぞ」

「あのキーたちって使ったことないよな」


「ちょ、ちょっとまってくれよ! どうして距離を作るんだ!」


NumLockキーはスペースキーにかけよった。


「だってお前……使いみちないだろ……?」


「あ、あるよ! ナムをロックするんだよ!」


「そんなのいつ使うんだよ……」

「こないだ使われたよ!」

「押し間違えたときだろ?」


「うぐっ……!」


最後に使われたのは数字を押しても反応しなくなり、

必死に原因を探した結果に間違えて押してしまった「NumLockキー」が原因。


「まるで俺がヘイトを貯めるストレスキーみたいな扱いじゃないか!」


「実際そうだろ。数字のキーのなかに紛れ込んでさ。お前だけじゃん、数字じゃないの」


「7キー! こんなに隣で一緒だったのに突き放すような事言うなよ!」

「もうお前みたいなお荷物キーとは別れたいんだよ」


「だ、だったら! 無変換キーはどうなるんだ!」


Numキーがロックオンしたのはスペースキーの横にある「無変換」キーだった。


「無変換だとか言っておきながら、勝手にカタカナにするじゃないか!

 この大嘘つきめっ! たまに押し間違えて焦らせるだろ!」


「か、カタカナ入力するときは便利だろ!?」


「それ僕の仕事……」


F7キーはつぶやいた。


「無変換キーの僕を悪くいうのならCapslock英数キーだって同じだろ!」


「なんで私が悪いみたいになるのよ!」


「CapsLockなんて意味わからないし、Shiftキーの横で押し間違えるし!

 半角/全角押してもひらがなに戻らなくて焦る原因の80%はお前だろ!」


「無変換キーみたいに嘘つきじゃないわよ!」


「嘘つきに思うのはお前の心が汚れているからだ!」


「InsertキーやScrollLockキーはどうなるのよ!

 あっちだって必要性がまるでないじゃない!」


「あいつらはまだつつましく離島にいるから許されるんだよ!」

「不公平よ!」

「うるせぇNumLockすんぞ!!」


ギャーギャーもめるキーたちはリストラ候補として多数決を取り、

圧倒的大多数の投票を得て、右下にあるCtrlキーの左にいるなんだかよくわからないキーが選ばれた。


「……あいつ名前なんていうの?」


「さぁ……絵が書かれているだけだから……」


「リストラされたキーにはどんな新しいキーが来るのかな?」


生贄候補を決められたキーたちは安心し、

ウキウキしながら新しいキーボードの配置を夢見て配置に戻っていった。





その後、すべてがフリック入力に差し替わった

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