第2話
何故繁華街に居たのかは分からない。ただ何か忘れたかったことがあったのは覚えている。気が付くと例の地下入口のドアを眺めていた。嫌になるほどの熱帯夜で、ぼうっとしながら例の階段を降りていった。徐々に目の前に広がる電球色の光に、地下街はまだしっかり存在していたのだと不思議な安心感を覚えた。足はずんずんと進み、相変わらず多くの人で賑わっている回廊を掻き分けていく。
他にも飲食店は山ほどあるが、何故かあのカレー屋を探した。もうちょっと下の階かな。再び階段を降りる。あったあった。
「いらっしゃい」
変わらない笑顔で店主が言った。狭く小汚い店内も、客が一人もいないことも変わらない。
「また来てくれたね」
と言うので、
「近くに寄ったので」
と私は適当にごまかした。実際のところ、気が付いたら地下街の入口に居ただけで、ここがどこなのか、家からどうやってここまで来たのかもあやふやなのだ。
それほど時間がかからずにカレーが出てくる。相変わらず、まあまあの味だ。待てよ、前回と同じ流れなら、そろそろ記憶が飛び、自宅のベッドにワープするのではないか。カレーを食べ終わる前に、知っておきたいことは沢山ある。客が私しかいないせいか、自分の挙動一つ一つを店主に見られているような気がして、無理に平静を装う。
「変なことを聞きますが、私はここに来るのは二回目ですか」
「そうかもな、おれの記憶が正しければ」
この店主、私のことは顔こそ覚えているが、それほど気にも留めていないようだ。私がくる時間以外は大繁盛しているのだろうか。まあそれはさておき、私がここに来たのは恐らく私の予想通り二回目で、記憶が飛んでいるうちに何回もここに来ていたなんてことはなさそうだ。連続で何回も質問してもいいが、少しはカレーを食べる素振りも見せておかないと、と思い再びスプーンを握る。
気付くと自宅のベッドの上に居た。この前と全く同じだ。中々の適応力を持つ私はもうそれほど驚かず、代わりに「しまった」という感情が込み上げた。どうやらカレーを完食するかどうかは関係なく記憶は飛ぶようで、大した質問もできないまま帰ってきてしまった。目覚めた時の体勢のまま、私は次はこれとこれとこれを質問しようなどと、頭の中で算段をつけていた。
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