23,茅ヶ崎市全域を知り尽くす幼女
「やっばい! 『果てない海』のところ、里山公園の
6人全員でMVを一通り鑑賞して、映像と歌詞が合っていないと気付いた笑。
「本当ね。これでは海だか山だかわからないわ」
幸来の言う通り、『果てない海』と歌っているのに映像は大空の下、両サイドに鬱蒼と生い茂る高い木々が織り成す森、そこに切り開かれた田んぼと砂利道。海無し県で撮ったと言っても違和感なく、本当にこの街には海があるのかと疑われかねない風景が広がっている。
撮影した日はよく晴れていて、シオカラトンボやモンシロチョウが飛び交っていた。
「なんで!? 歌詞とロケ地を合わせて撮ったのに!」
「よりによって里山公園。茅ヶ崎でいちばん海から遠い場所なんでしょう」
と幸来。
「そうですね、これより北は
思留紅が答えた。里山公園は茅ヶ崎のほぼ北端に位置し、その敷地を出て車で3分走ると、となり街、藤沢市に入る。
「思留紅ちゃん詳しいね。私、ずっと茅ヶ崎に住んでるのに北部のことはよく知らないや」
と花純。茅ヶ崎は東海道線の線路を境に海側と山側に分かれ、海側は海辺の雰囲気漂うセピア色、山側は大型スーパーや建売住宅の多い、ごく一般的な首都近郊の街並みになっている。同じ市内とは思えぬほど雰囲気が大きく異なる。
花純の主な行動範囲は自宅のある平和町を東西に貫く鉄砲道沿いと、
他方、思留紅は聡一といっしょに市内の様々な場所をよく訪れている。
海に近い
紗織がMVを最初まで巻き戻し、確認。
「45秒のあたりから曲より映像が2秒早くなってるなぁ」
「なんてこった!」
映像の編集をしたのは笑。己の失態に頭を抱え、苦痛の表情を滲ませる。
「大丈夫、このくらいなら簡単に修正できるよ」
紗織は言いながら、さっそくMVの再編集を始めた。
「うーう、ありがとうございます! 申し訳ない!」
「いいってことよ。こういうの好きだからね」
紗織は慣れた手つきでちょいちょいと画像を編集していった。こんなことなら最初から紗織にやってもらったほうが良かったのではとよぎった笑だが、できるだけ自分で作りたいという想いがあった。
失敗も経験して、段々と技術が身に付いてくる。それは笑にとって、苦しくもあり愉しいことでもあった。
「よしできた!」
数分後、映像編集が完了。動画と音楽のズレが解消。ウェブに公開して良いと判断できる仕上がりになった。
紗織としては、完成した作品は一晩寝かせて再度見直してから公開したいところだが、笑と幸来が音楽活動をする目的は芸能界デビューではなく人探し。ということで、さっそく動画サイトに作品をアップロードした。
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