4,コミックスを買えない!
「言われてみれば。私は
「そうだね。路面は汚れが目立ったりゴミが落ちてたりしたけど、車はみんな新車なのか、小まめにお手入れされてるのか、色褪せてない」
「それに、警察は犯罪者を追っている」
「ブラックサイダーが改心してからのおまわりさんの仕事といえば、道案内と落とし物を預かるくらいなのに」
「そのはずなんだけど……」
秒針の刻む音が二人の鼓動を抑制する、交番の中。外の雑踏、ロータリーを旋回するバスが発するクリーンディーゼルの音がよく響く。
「ねぇ幸来ちゃん、私たち、死んでもいっしょになれたね」
「うん、そうみたい、だね」
「幸来ちゃん、起きたときから気付いてたでしょ」
「それはどうかな」
「でも死ぬ前にはっずかしーこと言っちゃったから、私に起こされたことのほうが驚きだとか言って、どうにか話を逸らしたってわけだ」
「う、うるさいわね! まぁでも、死んでもこうやっていっしょにいられるっていうのは、素直に良かったと思う」
「そうだね、本当に良かった」
頬を赤らめる幸来と、穏やかに
暫し間を置き、幸来が言う。
「これからどうしよう。あ、そういえばシラス」
二人はバッグの中を確認した。
「ある」
「私も!」
「まだ食べれそう?」
「うん!」
笑は透明パックの封を開け、粉薬を飲むように口中へシラスを流し込んだ。
「美味しい! ちゃんと食べられるよ! 幸来ちゃんも食べてみて!」
幸来は笑と同様に自らのシラスを口中へ流し込んだ。
「ふわふわで美味しい。いつもの味ね」
「ということは、死後の世界では食べものが腐らないのか、または私たちが死んでからそんなに時間が経っていないのか」
「そうね、私たちが下校したのは15時30分。世界が終わったのはそれから約1時間後。それで現在時刻は17時ちょうど」
幸来が時計を見ながら言うと、外から童謡『赤とんぼ』のメロディーが聞こえてきた。
「これきっと、5時の音楽だね。時間はそんなに経ってないんだ」
「そうね、日付も同じだし」
「でも、天国のイメージって、想像してたのと違くない?」
「私もそう思った。川を渡るとお花畑があって、みんな仲良くしてるみたいな」
「そう、それだよそれ。でもここは違う。仲良しどころか生前の世界より他人に無関心で、スマホ見ながらとか音楽聴きながらとか、周囲の情報を遮断してる、閉鎖的な世界というか……」
笑にしては賢いことを言うものだと感心した幸来。しかし誉めると図に乗って話が脱線するので何も言わないでおく。
「もしかして私たち、地獄に堕ちちゃった? 世界を終わらせちゃったから」
「いやいや、地獄にしては穏やかじゃない? マグマぐつぐつしてないし、
「だね。ならいったい、ここはどんなところなんだろう?」
警察官が戻ってくる気配はなく、そもそも何をどう質問すれば良いのかもわからないので外へ出ると、交番の隣に書店があった。
「本屋さんなら何か手掛かりになるものがあるかも!」
「入ってみよう」
二人は書店に入った。店内はやや広く、2階がコミックやライトノベルのコーナー、1階はそれ以外のコーナーとなっている。
まずは1階を見て回ったが、特に手掛かりとなるものは見当たらなかったので、階段を伝い2階へ上がった。
「すごいすごい! 品揃え豊富! 見たことないような漫画がいっぱいある!」
「しーっ、本屋さんでは静かに」
「ごめんなさい」
「でも、本当に品揃え豊富だね。漫画って、こんなにたくさんの作品があるんだ」
「私も知らなかったよ、漫画大好きなのに。やっぱりここ、天国なのかな?」
「うーん、そうなのか、えっ、えっ! なにこれ!?」
「なになに? すごいのあったの?」
棚から一冊の
本のタイトルは『ハートフル少女 ラブリーピース!』
「ええええええ!!」
「さささ、騒がないのっ」
「ごごごごめん! ででで、でも」
本にはラッピングが施され、それを破かないと中は読めない。しかし表紙に描かれているのは間違いなくラブリーピース変身時の笑と幸来もとい、ラブリーピンクとラブリーブルーだ。
「買おう! とりあえず買って読んでみよう!」
そう思って財布の中を確かめる二人。
「私、百円しか持ってない」
「私は2百円。珍しく幸来ちゃんよりお金持ってる」
「でも本の値段は税込み440円だから、二人の所持金を足しても買えない」
「どうしよう、この本、間違いなくすごく大きな手掛かりなのに」
「そもそも天国で私たちの世界のお金、使えるのかな」
「それもわかんないけど、とにかく絶対読みたい! あぁ神様! ここが本当に天国ならばどうか迷える子羊たちに140円ばかりのお恵みを!」
笑に続いて幸来も空にパンパンと手を合わせ
レジでは老いた男の店員が訝し気に二人を見ている。万引きはするなよと。
「この本が欲しいのかい?」
背後から声がしたので二人が振り返ると、すらっと長身細身の縁が細い眼鏡をかけた30か40代ほどのインテリっぽい男と、その娘とみられる小中学生ほどの少女が立っていた。少女はセミショートヘアで凛としながらも、やわらかい雰囲気を放っている。
「すっっっっっっごく、欲しいです!!」
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