第4話 7月24日(2)
レストランは前面がガラス張りになっていて、ダムや、併設する公園の風景を眺めながら食事をすることができた。なかなか高級感のある作りだ。店内は家族連れで賑わっていた。
「いいな、このレストラン」
「よくこんなところ知ってたね」
咲良はすっかり普段どおり元気になっている。
「いや、昨日の夜、適当に調べてたら見つかっただけ」
「使える、ミヤちゃん」
「ほんと、カケガワとは違うね」
「あれ、呼び捨て?」
女の子たちは掛川を見てクスクス笑った。
褒められて悪い気はしなかったけど、宮本は会話に入っていく気分になれなかった。どうしても長谷川さんの言葉を考えてしまう。
どうしよう、今日が終われば、合宿はあと3日しかない。
「どうしたの?ミヤちゃん、元気ないね」
咲良が少し心配そうに聞いてきて、掛川が答えた。
「今の自分にしかできない曲を作れって、言われてるんだよ、コイツ」
「え、誰から?」
「プロデューサー」
「プロデューサーって何してる人なんですか?」
「ううん、プロデュースっていうか、音楽を作る上で、方向性を決めたり、アドバイスをくれたり、かな」
「ふうん」
「ほら、マジメだから、ミヤちゃんは」
「なんだか大変そうですね」
3人の視線を感じる。
どうやら空気を重くしてしまったらしい。
「あ、ごめん。空気重くしてた?」
「そんなことないよ」
3人は笑顔を作る。声が綺麗に揃った。
「こんどプールで一緒に泳ごうよ、良い気分転換になるよ」咲良が提案した。
「いいね、それ」
「まじか、掛川」
「いいじゃん、二人の水着姿を見て癒されようぜ」
「てか、2階からいっつも覗いてんでしょ、私たちの水着姿」
咲良がニヤけながら掛川の二の腕をつつく。
「ばれてた?前から思ってたけど、二人ともスタイル良いよね。茉奈ちゃんも意外と、バスト大きいし」
「しね」
「こら、口が悪すぎるよ、咲良」
「プールは嫌?そんな時間はない?」
咲良が少し心配そうに宮本を見た。
なんだか気を使わせてしまっているなあ、と思う。
「水着買わないとな。ここプール併設してるから売ってんじゃない?」
掛川は乗り気だ。
ただ、4人でプールで泳いでいたら完全に夏休みになってしまいそうな気がする。
「うーん、考えとく」
*
「ふう」
ノートパソコンをパタンと閉じ、宮本はため息をついた。
柱にかかった時計を見ると22時を少し回っていた。
今日作った何曲かを聞き直してみて、やっぱり長谷川に送るのはやめておこうと思った。聞いてもらうような曲がない。そんないい曲が作れなかった。
「曲が書けないのか?」
声のするほうを見ると、掛川が、ドアのところにいた。
肩にタオルをかけている。
「風呂上りか」
「ああ、まあな」
「そんな時はさ、女に癒してもらったらどうかな、俺からのアドバイスなんだけどさ」
またその話か。女に癒してもらう。それも一つの考え方かもしれないが。
「ああ、考えとくわ、俺も風呂行こ」
掛川の横を通り抜けて部屋を出ようとした。
「ああいう子、好きだろ」
咲良のことを言っているのがわかった。
「わかるんだよ。ヘルメットみたいな髪型で、おっぱいが大きくて、それでちょっと気が強い子。いつもそのタイプだもんな、付き合う子はさ」
「ヘルメットか」
宮本は立ち止まって、笑った。
たしかにその通りだった。咲良は好みのタイプだ。宮本はショートカットの女が好みだった。そして、掛川にも言ったことがなかったが、宮本には独特の性癖があった。艶のあるヘルメットみたいな髪型に性的な興奮を強く覚えてしまうのだ。
「たぶん咲良ちゃん、お前のこと好きだせ。だから、拒絶はされないよ」
「ばか、ハタチだぞあの子は」
「ハタチだったらいいだろ、てかハタチのほうがいいだろ」
「エロオヤジが」
「なんでそんなに堅苦しく考えるんだよ。甘えてこい、あの巨乳ちゃんに」
掛川はそう言い残して部屋から出て行った。
曲が書けるのなら、宮本はあらゆることを試したかった。掛川が言うように咲良を抱くことで書けるようになるのなら、そうしたかった。だが、咲良のほうの気持ちは?愛情でなく、曲のために手を出すのか?
それとも自分は、あの子のことが好きなんだろうか?
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