第156話 デミカドモン

「わーーおどろいたーーー。まさかブラウニーさんだったとは!」


「やかましぃっ! お愛想の慰めなんていらねぇよ」


 俺が驚かなかった事に狼狽えてたブラウニーさんがあまりにも可哀相だったので、仕方なく驚いてあげたら逆に拗ねられた。

 棟梁の姿に戻って背中を向いて胡坐をかいて膝をバシバシ叩いてる。

 いや、だってしょうがねぇじゃん、シルキーショックに比べたらさぁ、いくら棟梁だからって連続は無ぇって。

 演技しようと頑張ったけど、長い放浪生活で目立たずひっそりと煙に巻くなんて演技には一家言有るけど、こう言うあからさまなオベッカは苦手なんだよなぁ。


「文句なら先に正体バラしたシルキーに言ってくれよ。そんな事より話の続きを聞かせてくれ。なぁ? とうリョニーさん」


「繋げて言うな!! ちっ、姿を消したおめぇを8年前に見つけた時からずっと暖めてきたネタだってのによぉ。チクショー! シルキー! 儂が先だって行ってたろ」


「仕方無いじゃないですか。私の姿を恋焦がれて寂しそうに探している正太さんを放っておけません。しかも私を見るなり奇麗だとか愛してるだとか告白されるのですもの……ポッ」


「こらてめぇ! 愛してるとは言ってねぇっての!! どさくさ紛れに傷を抉るな!!」


 怒りの矛先を逸らそうとしたら、シルキーの奴め。

 変化球から傷口にダイレクトアタックかましてきやがった。

 くそ早めにこの話題から逃げねぇとずっと言われまくるぞ。


「そ・ん・な・こ・と・よりだっ! さっき棟梁は8年前って言ったよな? それって俺がシュトルンベルクに住み出した時からって事じゃねぇか。そんな頃から俺に気付いていたってのか?」


 まぁ強引に話を戻したが、これに関してはヴァレウス王子にしてもガーランド先輩から聞いて俺の事を知っていたようだし当たり前かもな。

 と思ったが、シルキーがおかしな事を言い出した。


「それは当たり前です。特に私と父はあの街くらいの広さなら貴方が街の何処に居ようと感知出来ますし最初から気付いていましたよ」


「感知出来る……? 何だその不穏な語句は。王子に聞いたとか街を歩いていた所を見かけたとかじゃねぇってのか?」


 感知魔法で俺の居場所を特定出来るってのも違うだろう。

 なんせ逃亡生活の長かった俺は、そんな物が発動なんかしようものならすぐさま感知出来るように常時神経尖らせていたしよ。

 それにわざわざ自分達二人の名前を挙げるってのはあの街に居たからってだけじゃねぇニュアンスが混じってるように聞こえるぜ。


「そもそもだ。さっきも言ったがなんで棟梁にしてもシルキーにしてもなんでここに居るんだよ。 お前ら二人はシュトルンベルクで残ってるはずだろ。一体どうなってんだ? ウラノスの事を知っている件といい、姿を変えられる事といい、訳分かんねぇぜ」


「先程私は言いましたね? 簡単な事だと。秘された真理を解し、姿を変えてこの世界を渡り歩き、そして貴方が真なる神造体『リーヴ』である事を知っている……それは何故か?」


 そうそう、さっきもここで引っ張られたんだよな。

 まぁ、その時は俺が話を止めたんだけどよ。

 なんかシルキーの奴、凄いドヤ顔してやがる。

 ここまでイイ顔をされるとちょっと冷めるんだがまぁ大人しく聞くとするか。


「なんなんだよ。勿体ぶらず教えてくれよ」


「良いでしょう。……それは私達の元となった『アダマ』は、貴方の……『神造体リーヴ北浜 正太』の残滓ざんしだからです」


「は? えっと……え?」


 俺の残滓? さすがに俺も言葉を失った。

 簡単どころか何の回答にもなっちゃいねぇし、何より全ての辻褄が合わねぇぞ?


 500年前に造られたこいつらが24年前にこの世界にやって来た俺の残滓ってどういうこった?

 それにその残滓ってのをどこで手に入れた?

 他にも何で姿を変えたりテレポート出来るんだって話もこの際置いておこう。


 だが、俺が一番気になってんのはそんな事より……。

 

「その事はお前の創造主から聞いたってのか? じゃあヴァレウス王子も知ってるってのか?」


 まず気になるのはそこだ。

 王子はこの世界の真実を知ってる素振りなんて全くしなかった。

 知ってたとしたらあの知識欲の塊みたいな王子なら絶対俺を問い詰めてたと思う。

 しかし、初代国王がそこらへん知ってたってんなら、この国に代々伝わってるっていう建国に纏わる石碑に書かれていないわけがないだろ。

 なんたって神から直接貰った権能だぞ? 王子やメアリの先祖なら絶対書く。

 それにイシューテル国なんてあの滅茶苦茶なギャル語の預言をニュアンス含めて口伝としてそのまま残してたしよ。

 変に誤魔化したりとかしねぇだろうさ。


「いいえ、知りません。大きく言えば旦那様だけではなく大旦那様でさえ知りません。大旦那様はあくまで『女神クーデリア』から賜った『感知眼』と『賢者の石』にてゴーレムを造ろうとしただけです」


「いや、さっきウラノスの権能とか俺の残りカスとか言ったろ。なんで話が変わってんだよ」


「だぁーかぁーらぁー! 変わってねぇってんだよ。儂達デミカドモンは小僧……要するに47柱の神が自らの血肉を別けて精魂込めて創ったお前の一部……もっと言えば神々の一部って訳だ。そこには勿論神々の英知も宿っとるって訳よ」


「あっ! お父さん! 私のセリフを取った!!」


「がはは! さっきのお返しじゃわい」


 横入りして来た棟梁にシルキーが抗議の声を上げる。

 えっと……? 今のちゃんとした説明になってるか?

 神々の英知……と言っても俺にはそんなもん宿って……もしかして母さんや父さんのチート知識の事か?

 いや、助かってはいるが神々の英知とまでは流石に言えないか。

 

「もう! じゃあちゃっちゃと説明しますよ。正太さんは相変わらず鳩が豆鉄砲食らったみたいなマヌケな顔で分かってないようですしね」


「うるせぇー! 一々俺を貶す言葉を差し込んでくるな」


 くそっ! シルキーの奴、俺の反応にほくそ笑んでやがる。

 なんか変な性癖に目覚めやがったみたいだぜ。

 ったく、ゴーレムとか言ってる癖に皆人間臭すぎなんだよ。

 もしかしてロキが魔物に手を加えたように皆も付喪神みたいになっちまってるってとか言うんじゃねぇだろうな?


「先程言ったように大旦那様は単に珍しい材料を使ってゴーレムを造ろうとしただけなのです。なにしろ自らの力を『ウラノス神』の権能『創造』と言う事も知らず、ただ単に魔力の流れを見極め意のままにする力だと解釈して、自らの事を付与魔術師と認識しておられました。そして権能と一緒に与えられた『アダマ』も正体を知らずに『賢者の石』として己が力に導かれるまま『神造体』を創られました」


「要するに取り敢えず何も知らずに頑張ったら神レベルの物が出来ましたってことなのか?」


「えぇ、その解釈で正しいです。最初に生み出されたのは私の父であるブラウニー。かつて父は大旦那様の片腕として魔族討伐隊に参加したんです」


「懐かしい話よのう。あの頃はまだデミカドモンとしての自覚は無かった。ただ単に大旦那様……覇王の末っ子であったヴァーミリオ様の仲間として付き従っていたんじゃよ。何しろ儂は元々ヴァーミリオ様の乳兄弟じゃったからの」


 またなんかややこしい言葉が出て来たぞ?

 なんだ乳兄弟って? 本当の兄弟って意味じゃなかった気がするが?


「乳兄弟?ってどう言うこった。 棟梁はヴェーミリオってのに造られたんだろ?」


「カーーーッ! 察しが悪いのう。だから儂は元々ヴァーミリオ様の乳母の息子で幼馴染じゃったと言う事じゃ。そして儂はある日魔族からヴァーミリオ様を護り命を落とした。その事を悲しんだヴァーミリオ様が儂の依り代としてゴーレムを造り、そこに魂を移したから今こうして儂が存在していると言う訳よ」


 相変わらず情報量多いな。

 だが、大分分かって来たぞ、棟梁の身体に人間の魂が宿ってる事か。

 そりゃ人間臭い筈だぜ。

 魂の総量超過による世界崩壊も心配することはねぇって訳だ。

 しかし、死んだ幼馴染を助けたくて、紛い物だとしても神の創造物であるカドモンを造ったなんて、ヴァーミリオってのは仲間思いのいい奴だったんだな。

 ロキの話じゃ神達総出でも完成まで苦労したってのによ。


「なるほどな。じゃあ他の皆も元人間って訳か?」


「うむ、皆魔族討伐隊の者達や、王国建国に携わった者達の魂じゃ……一人を除いてな」


 やっぱ親子だな。

 棟梁も勿体振る言い方しやがって。

 ……だがこの答えは簡単だ。

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