第155話 かつての仲間

「創られた魔導生命体? なんだそら。お前は人間じゃねぇって事か?」


 魔道生命体ってのは何かは分からんが、要するにアメリア王国の始祖が創ったゴーレムって事なのか?

 にしちゃあまりに人と変わり無さ過ぎる。

 今の姿のシルキーにしても無表情とは言え、メアリを語る時や時折見せる年相応な仕草。

 少なくとも俺が知るゴーレムとはあまりにも別もんだ。


 ……いやいや、ちょっと待て、驚くところはそこじゃねぇ。

 シルキーの奴が最後になんて言った?

 確かデミなんとかって……?

 なんか最近そんな言葉を聞いたような?

 どこでだ? う~ん確かロキの奴が……?! あっ!


「おい、デミ……カドモンって……」


 俺がそこまで言うと知るキーは優しく微笑む。

 そして、驚く事を口にした。


「魔道生命体デミカドモン……それはかの日、ウラノス神から直接権能を与えられた大旦那様……アメリア王国国祖ヴァーミリオ様のみがお使えになった御業により誕生した偽りの神造体のことです」


「ん? ん?」


 いかん、色々と情報が渋滞して理解が追い付かん。

 まず『魔道生命体』と『デミカドモン』って単語に関しては今の説明通り『偽りの神造体』で良しとしようか。

 いや、全然良くは無いけどよ。


 偽りじゃない『神造体カドモン』とは何か? ……それは要するに俺の事だ。

 あぁ今も神殿地下に眠ってると言う『神の落とし子』とこの世界の唯一神『クーデリア』もそうだっけか?

 と言う事は、シルキー達は俺達の模造品って訳か?

 いくら神の権能を持っていたとしてもそんな事が可能なのか?


 だが理解出来ないのはそんな事じゃない。

 なんでシルキーはその事を知っている?

 そりゃ初代国王が造ったってんだから、神から権能を貰った本人と面識有って当たり前だろう。

 生まれた時にそこら辺の事情を聞いたんだろうさ。


 俺が理解出来ないって事はそんな些末な話じゃねぇ。


「なんでお前はの事を知っているんだ?」


 そう、この世界には神は一柱しか居ねぇ。

 この世界を創った神たちがそう決めたからな。

 だからこの世界の住人は神と言えば『クーデリア』しか知らない筈なんだよ。


 なのにシルキーははっきり『ウラノス神』と言いやがった。

 俺の半身を造った神、この世界におけるもう一人の『父親』と言ってもいい存在の名前をよ。


「神々によって禁忌とし秘されたこの世界の真実。それをなぜ私達お庭番衆が知っているのか……それは簡単な事です」


 俺、この秘密を守る為に結構胃にダメージ受けてたんだぜ?

 この世界の住人達が神々の享楽の為に造られたただのおもちゃだったとか知っちゃうと狂っちまうだろうって、気にしながら生きて来たってわけよ。

 この秘密を墓の下まで持って行くつもりでな。

 それなのにいくら俺相手とはいえ、誰が聞いてるか分からねぇ庭園の真ん中でそんなあっさりと口にするなんて……。


「おい! その話はこんな所で喋るんじゃねぇって。誰が聞いてるか分かんねぇんだぞ」


「大丈夫ですわ。だって今この庭園には貴方としか居ないのですから」


「私達? それは一体……え?」


 シルキーがそう言ったあと。いつの間にか俺の背後に複数の気配があるのを感じた。

 いつの間に……? 大消失を起こした一次覚醒からこれまで、こんな簡単に不意を突かれて接敵された事なんざなかったぜ。


 俺は振り返らずに後ろの気配を探ると一つ二つ……二十近く有りやがる。

 ゴクリと唾を飲んだ。

 だが、戦闘態勢は取らなかった。

 何故ならその気配は俺が良く知る奴等の気配だったからだ。


「よう! 久しぶりだな小僧!」


 その言葉によって胸にこみ上げてくる感情を俺は押しとどめるのに必死となった。

 この声は知っている。


「元気にしてたか?」


「突然来るからびっくりしたぜ」


 次々と俺の背中に声を掛けてくる皆。

 あぁ、あの頃のままだ。

 嬉しさがこみ上げてくる。

 俺は今どんな顔をしているのだろう。

 ふと目の前のシルキーを見ると、とてもやさしい顔で俺に笑顔を向けていた。


「ほら、正太さん。達が待っていますよ。顔を見せてあげて下さい」


 俺はその言葉で跳ねるように振り向き大きな声を上げた。

 あぁ、懐かしい顔振れだ。

 当時冒険者仲間の成長に置いて行かれちまい自分の弱さに落胆していた俺が唯一心安らげた場所。

 そこでここに居る皆に励まされて何とか生きる事を頑張れたんだ。


「皆!! ただいま!!」


 それだけ言うと俺の事を笑顔で迎えてくれている庭師の皆に向かって走り出した。





   ◇◆◇





「んじゃ庭師の皆がお庭番って訳なのか?」


 20年振りの再開の喜びを暫し分かち合った俺達は、ようやく落ち着いたので有耶無耶になっちまったシルキーとの会話を進めることにした。

 どうやらシルキー含め皆も自分達の事を語りたいらしい。


「あぁ、儂達お庭番衆は大旦那様の力によって仮の生を受けこの地に降り立ってより、アメリア王国建国の礎となり庭師としてこの国の成り立ちを見守ってきたのじゃ」


 そう語ってくれたのは庭師の棟梁。

 茶色の髪ともっさりとした口ひげに所々白髪が混じっている爺さんだ。

 背はあんまり高くないがガーランド先輩並みの筋骨隆々な体躯。

 当時はドワーフかと思ってちょっとわくわくしたんだが、聞いてみると「そんな訳なじゃろ!! 儂の方がイケメンじゃ」と怒ってたっけ。

 まぁ実際は人間ですらなかったんだけどな。

 元々は棟梁が怪我した所為で人手が足りねぇからって臨時募集に俺が応募して庭師の手伝いを始めたんだ。

 足の怪我で満足に動けねぇってのに、時に厳しく、時には優しく俺の事を庭師として鍛えてくれた人だ。

 あっ人じゃねぇのか……もうどっちでもいいや。


 ちなみに通路にあった異様な数の仁王像。

 あれ全員目の前の庭師達。

 なんか秘かに俺の歓迎会しようと思ってたらしいが、突然俺がふらっと庭園に現れたんでやり過ごす為に彫像化したんだと。

 いくら何でも使者の仕事で来ている俺がいきなり庭園に来ないだろうと思っていたらしい。

 それどころか俺が当時の事を忘れて庭園に近寄らなかったら、逆に引き摺ってでも連れて来ようと思っていたと、当時俺の年齢より少し上だった先輩が言っていた。

 まぁ見た目だけの設定で実年齢に関しては俺の上どころじゃなかったんだけどな。


 それより神の野郎達め……まぁ恐らくガイアの責任割合が多いと思うが。


 お庭番ってのは庭に居るやつらの事じゃねぇぞ!!


 庭師だからお庭番とか全然意味わかってなかったろ!!

 ったく、最初にシルキーから『お庭番』ってワードを聞いた時から怪しいと思ってたんだよな。

 絶対響きだけで追加した設定だと思ってたわ。

 流石に庭師の事と勘違いしているとは思わなかったけどよ。


「ん? そう言や、王子の側仕えしてるブラウニーさんもデミカドモンで良いんだよな? 一体誰なんだ?」


 現在王子の側でシルキーの父として執事をしているブラウニーさん。

 元ニンフ像として俺と会っていたシルキーにしても庭師と言う訳ではなかったし、ブラウニーさん自身は俺の事を知っていたらしいが、当時の庭師仲間は棟梁を含めて目の前に全員いる。

 んじゃシルキーと同じく庭にある彫像だったのか?

 ニンフ像みたいに印象的かつ俺と接点の有った彫像は記憶が無ぇんだが、向こうが俺の事を知ってるって言ってるしなんか近くをすれ違ったりしてたんだろ。


「ん? 小僧。気付いておらぬのか?」


 俺の疑問に何言ってんだと言う顔した棟梁が首を傾げる。

 気付いてないって何のことだ?

 俺がそう思ってぽかんと棟梁の顔を見ていると、そんな俺の間抜け顔に満足したのかニヤリと笑い立ち上がった。


「わしじゃよ」


「は? ワシ? 鷲の彫像って事?」


 なんかメガネの少年が出て来る漫画の嘘バレみたいなセリフを吐いた棟梁だが、純粋にどの彫像か考えてたのでワシ=鷲と思ってしまった。

 あぁなるほど、そういう事ね。

 俺のトンチンカンな回答に更に満足したのか良い笑顔で棟梁はその姿を変えた。


「驚きましたか? ショウタ殿……て、あれ?」


 うん、目の前には先程まで棟梁の姿していたブラウニーさんが立っていた。

 でも俺のスン……って顔になんか戸惑っている。

 ごめん棟梁……そのオチさっきシルキーでやったから。

 何度も同じネタで驚くほどもう子供じゃねぇんだ。


 まぁ素直に驚いてあげた方が優しさだったのかなぁ? と思わなくはないが別にいいか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る