第154話 正体
「いや、まだだ。まだ違う可能性はある」
俺は今アイアンクローを噛ましているニンフ像の正体について、別の可能性を模索した。
まだロキの可能性が完全に消えたとは言い切れねぇしな。
ただロキだったとすると、正体を言い当てられたらあんな下手な言い訳をしないと思うんだよな。
<<ヒヒヒッ。おやおや当てられてしまったねぇ。さすがは僕のおもちゃだよぉ>>とか言って俺をおちょくるだろう。
あとはなんだ? 俺の正体を知っていて、王国時代の事まで把握している奴なんて先輩と姐御、それにヴァレウス王子にフォーセリアさん、あとはレイチェルくらいか?
だが、そもそもニンフ像についての想いはその中の人達でさえ知らねぇ筈だ。
いや、実はもう二人居る……んだよなぁ。
一人はヴァレウス王子の執事であるブラウニーさん。
まぁ一方的に向こうから俺の事を知っているだけで、俺は存在知らなかったけどよ。
そんでもう一人。
同じく現在問題に挙がっているメイドのシルキー。
こいつも昔の俺の事を色々知っているらしい。
レイチェルは当時のシルキーの事を知っていたようだが思わせ振りな感じで話を切られたよな。
ん~~じゃあ仮にこいつがメイドのシルキーだとしよう。
そんなん有り得るのか? そんな訳ないだろ、まず容姿が違うし……いやいや、本人自身が今の姿は昔と姿が違うとか言っていたな。
ただ昔の姿が石像ってのはなんか違うだろ。
それに何より今あいつは海を隔てた東の大陸の更に東の端にある『城郭都市シュトルンベルク』に居るんだからこんな所に居る訳がねぇや。
よし! この方向で否定してやる。
「シルキーな訳ねぇだろ! メアリーん家に居るお前がなんでここに居るんだっての! 正体現せ魔族め!」
いや、魔族じゃねぇのはもう分かっちゃいるが、こいつがシルキーだってのだけはやっぱり認める訳にはいかねぇ!
だって認めちまうと可愛い可愛い言いながら身体中弄ってた過去がこいつに知られちまってるってこったねぇか。
それだけは……。
「痛たたた! いくら自分の黒歴史だからって暴力に訴えるのは良くないと思いますよ!」
「グハッ!」
シルキーを名乗るニンフ像は俺の心にクリティカルヒットを放った。
◇◆◇
「……で、本当にお前はシルキーなのか?」
致命的な精神的ダメージを受けつつも何とか復活を果たした俺は、目の前に居る半裸の少女に問い掛けた。
先程まではただ単に真っ白い大理石そのままな肌も、人間の肌の様になっている。
ただどう見てもその姿は俺の知るヴァレウス王子んちのシルキーとは似ても似つかない。
髪を下すとか化粧をしていないとかそんなレベルじゃなく、髪や目の色から顔付も雰囲気が違うし全体的に幼くなっている。
一体どうなってんだ? 幻術で姿を変える魔法はあるが、俺にはそんな魔法は通用しねぇ。
それに肌触りや硬さも喋りだすまでは大理石そのままだった。
自身を石像にする魔法なんてのは母さんからの魔法知識にも存在していなかった。
それに隣の大陸に居るはずのシルキーがここに居るってのがそもそもおかしい。
テレポートの魔法なんてのが有るんなら俺があんな恥ずかしいセリフとポーズを晒してまで世界の穴なんか通らずに済んだじゃねぇか。
これも敢えて情報を伏せたガイアの罠……? かも知れないが、俺の恥ずかしい格好を見るだけにしては局所的で地味すぎる。
どっちかと言うと神達の罠は『あれれ? 俺また何かやっちゃいました?』的な無自覚チート展開を仕込んでくる傾向にあるしよ。
これはどちらかと言うと単純に悪意を感じる……ロキならやりそうか?
分からない事だらけの俺はシルキー? からの回答を待った。
「本当にシルキーですよぉ。正太さんが可愛い可愛いと毎日私の身体中を艶めかしい手付きで磨いてくれていたシルキーです」
「ブフォォ!! や、やめろ! 昔の傷をさらに抉るな!! と言うか艶めかしい手付きってなんだ! ふ、普通に磨いていたってのっ!」
目の前のシルキーと名乗る少女の更なる追い打ちで膝から崩れそうになるのを何とか耐えて反論した。
くそっ! シルキーかどうかは知らんが少なくとも目の前の少女があのニンフ像なのは間違いなさそうだ。
「シルキーってんなら見た目も性格も違うじゃねぇか。何よりなんでここに居るんだよ!」
俺が知るシルキーはメアリに関すること以外なら基本無表情で淡々とした物言いのはずだが、こいつはその面影も無く表情豊かな普通の少女って感じだ。
さっきの俺への追い打ちの時には寸前まで涙目だった顔だったのに急に小悪魔チックな笑みでほくそ笑んでいたしな。
「あぁ、そう言う事ですか。では失礼して……」
そう言うと少女はすっと立ち上がる。
それによって身体に巻いていた純白の布がハラリと落ち裸体が露わに……。
「ちょいっちょいっ! そのまま立つなって! 見えちまう」
俺は咄嗟に目を背けて注意する。
女の裸なんて見る機会なんて数えるくらいしか無い人生だったが、目の前の少女は十二、三歳そこらの外見だ。
普段なら子供過ぎて気にする事も無いのだが、なまじ昔恋焦がれた
「これでよろしいでしょうか?」
「へ? あれ?」
何がよろしいんだって思い、ちらりと目を向けるとそこには俺の知るメイド姿のシルキーがいた。
あまりの事に頭が暫しフリーズする。
「ど、どうなってんだ?!」
「クスッ。その驚く姿が見れて僥倖ですわ」
そう言うとシルキーはメイド然としたお辞儀で俺に応えた。
いやいやいや、全然分からん。
なんだ? ドッキリか? ドッキリなのか? 実は世界の穴なんて嘘で俺はまだ隣の大陸にいて、そこの生垣の陰から『ドッキリ大成功!』とか書かれた看板持って皆が出てくるとかねぇだろうな?
まぁそんな訳ないんだが、そんな現実逃避するくらい分からん。
「せ、説明してくれ。何がどうなってお前がニンフ像でメイドなんだ?」
「私……いえ、私達御庭番は初代国王であるヴァーミリオ様によって創られた魔導生命体……デミカドモンです」
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