第147話 行く当てのない魂

「もう一度聞くぜ。……お前は何者なんだ? えぇ? 偽者野郎さんよ」


 俺は有りっ丈の殺気を込めて目の前の偽者に、ただ言葉を投げ掛ける。

 奴はその言葉を受けた途端バレたとでも思ってのか、微動だにせずその無防備な姿を晒していた。

 丁度俯いて地面に手を掛けたところだった為、その表情は窺い知る事は出来ないが、恐らくばれた事に悔しがって唇を噛んでいるだろう。

 クソッタレ! その姿、匂い、そして抱き締められた時の力強さ。

 全て記憶通り、しかも当時そのままだ。


 有り得ねぇだろっ!

 俺がこの世界に降り立ってから二十四年経ってんだぞ!

 二十八歳の時に覚醒してから老化しなくなった俺でさえ、そこまでは普通に年取ってんだよ!

 なのに今目の前に居る偽物野郎は、何もかも……何もかもあの頃のままだ!

 二十四年前のあの日の父さんそのままなんだよ! くそ野郎!

 神か魔族か……いや、両方共ロキの仕業か……。

 もうそんな事はどうでもいいが、父さんが記憶の中の存在だからと言って手を抜き過ぎだろうがよっ!

 ぜってー許さねぇ! 神に造られていようが、この世界の両親の記憶は俺の大事な大事な宝物だ。


「おい! 何を固まってやがる! 何とか言いやがれ!」


 顔を伏せたまま固まったままでいられちゃ埒が明かねぇから偽物を挑発して次の行動を促す事にした。

 さぁ、どうする? 偽物さんよぉ?

 まだ嘘で誤魔化そうとするか? それとも正体を現して襲い掛かって来るか?

 さっきは油断して成す術無く捕まっちまったが、今の俺はそんな油断はしねぇよ。

 バリッバリの戦闘モードに頭切り替えたしな。

 今度は逆に雷光疾風斬のオーラで吹き飛ばしてやんぜ。


 俺は相変わらず動かない偽物を見下ろしながら風の勇者の奥義って事らしい雷光疾風斬を無詠唱で発動出来る様に体内に形成した魔力経路に魔力を通す準備を整えた。

 これならどれだけ高速で襲って来ようと、即時発動してカウンターをかませる事が出来る。

 こいつの属性が『城食い』みてぇに陰陽五行に則っていたとしてだ、仮に木気である雷光疾風斬の相克関係にある金気だったとしても相克関係抜きにしても陽の気、即ち光の精霊力は有効な筈だ。

 怯ませる事は出来るだろうぜ。


 さぁ、早く動け! 俺のを穢そうとした罰は受けて貰うぜ。

 俺は更に殺気を込めて偽物を睨んだ。

 俺の殺気に呼応したのか、偽物野郎はピクリと身体を震わせた。

 そして、臥していたその顔をゆっくりと上げる。


「なっ! なんだと……」


 もう日の出の時刻だ。

 朝日に照らされた偽物の顔を見た俺は、その想像だにしなかった表情に驚愕の声を上げた。

 な、なんでそんな顔をしてやがるんだ?


 喜び……まぁ、正体がバレた悪役は大抵不敵に笑うだろう。「ふっふっふ、バレたらしょうがねぇ」とか定番の文句だな。

 怒り……これも納得だ。騙せたと思っていたのにバレたんだからな。「おのれ! 神の使徒め!」ってなもんだ。

 哀しみ……これも怒りと似た様なもんだな。「上手くいったと思ったのに~」って悔し涙を流すなんて奴も居るだろうぜ。

 楽しい……戦闘狂の奴なら笑うだろうな。「はっはっはっ! こんな小細工など俺には合わないのだ。さぁ戦いを楽しもう」とか言いそうじゃねぇか?


 しかしながら、今こいつが浮かべている表情は、喜怒哀楽全てに属さねぇ。

 まるで純粋無垢な少年の様にキョトンとした顔して首を傾げてやがるんだからよ。


「……偽物……? 何を言ってるんだ正太?」


「えっ、何……って」


 その言葉からも含んだ感情を読み取れねぇ。

 心から俺の言った事が分からない……そう問い返している様にしか聞こえねぇ。


 これも演技だってのか? ……違う!!

 記憶の中の父さんがこんな演技なんか出来る訳ない!

 やっぱりこいつは……偽物だ!


「死んだ人間が生き返る訳ないだろうが! それにあれから二十八年経ってるんだぞ! なんでお前は当時のまま老けてねぇんだ! 有り得ないだろうがよ!」


 俺は力の限り声を張り上げて叫んだ。

 遠くから木霊が返るのが聞こえる。

 そして……こいつが偽物だって言う本当の理由。


「お前は神が造った俺の記憶の中にしか居ねぇ存在だろうがよ!! 俺の前に出てくんな!!」


「……せ、先生? 何を言っているのだ? 神様がなんなのだ? 記憶の中にしか居ないって……?」


「ハッ! しまっ……」


 頭に血が上り過ぎてコウメが居るのを忘れてこの世界の秘密に関わる言葉を叫んじまった。

 コウメは俺の顔を見て信じられないと言った表情で両手で口を押えている。


「い、いや違うんだコウメ……」


「……先生」


 俺が誤魔化そうとすると、コウメは急に俯むき身体を震わせて出した。

 そして俺の事を呼ぶ。

 その声には怒り……そして悲しみの色が混じり合っていた。

 世界の秘密に絶望したのか?

 くッ! 頭に血が上ると暴走する悪い癖が出ちまった。

 何とか説得しないと、神の娯楽の為だけに作られたって事実にコウメの心が壊れちまうかもしれねぇ。


「先生……。先生は酷いのだ……」


「へっ?」


 その口から出て来た言葉は神に向けての絶望ではなく、俺に向けての批難の様に取れる。

 この世界の秘密を喋った事による怒りをぶつけようとしているのか?

 それとも世界の秘密を漏らした事による神の制裁で、ロキの野郎がコウメを操っているとでも言うのだろうか?

 俺はコウメから向けられる怒りに言葉を失った。


「……先生。お父さんが生きていたのに……なんでそんな事言うのだ」


「な、何を……言って?」


 コウメの目には涙が浮かんでいた。

 そして、その眼に浮かんでいるのは憎悪ではない。

 それは純粋な怒りだった。


「先生のお父さんは、僕のお父さんと違って生きていたのだ! 折角再会出来たって言うのに、神様が助けてくれたかもしれないのに! なんで自分の前に出て来るなって酷い事が言えるのだ!!」


「う……あっ……そ、それは……」


 涙ながらに怒りをぶつけるコウメ。

 どうやら神に造られたって記憶って部分を、俺が両親と死に別れた事を神の所為にして現実逃避してるとでも解釈したんだろう。

 間違っちゃいるが、コウメにしては上出来な解釈だ。


 何よりコウメも大好きな父親と死に別れたんだ。

 恐らく当時よりも勇者の力に目覚めた今の方が悔しくて悲しい筈だ。

 『なんでこの力をあの時に持っていなかったんだ!』そう叫びたい筈だ、そう神を呪いたい筈だ!

 この世界のカラクリを知らねぇ、そして俺みたいに嬉々として神と契約してこの世界に降って湧いた癖に捻くれちまった俺なんかより、この理不尽な世の中に対する想いはずっと強いだろう。

 それなのにコウメはいつもニコニコと無邪気に笑っている。


 くっ! なんて酷い事をコウメの前で言っちまったんだ!

 偽物と二人っきりになる機会をなんで待てなかったんだ!


「先生のバカバカバカーーー!!」


 コウメは泣きじゃくりながら俺の身体にしがみ付き、ポカポカと俺を殴って来る。

 その力は勇者のソレでなく、年相応のモノでしかなかった。

 勇者と言えど深い悲しみの前では子供に戻ってしまうのだろうか?

 痛くはねぇが、心がとっても痛ぇ……。


「すまねぇ、コウメ。父さんが死んでたと思っていた所為でちょっと混乱しちまったんだ。お前の前で本当にすまねぇ……」


「ヒック、ヒック……うわぁ~ん」


 謝りながらコウメの頭を撫でてやると、殴るのを止めて俺に縋り付いて大声で泣き出した。

 そんなコウメを俺は優しく抱き締める。

 少し前までは俺の股間くらいだったコウメの顔の位置が、いつの間にかヘソの位置になっていた。

 俺と出会ったほんの一ヶ月半程度の間に、あんなにちっちゃかったコウメの身長がここまで大きくなったのか。

 子供の成長って早いんだな。

 ったく、俺もいつまでもウジウジしてられねぇ。


「あ~すまねぇな。。さっきのは聞かなかった事にしてくれ」


 コウメを抱き締めながら俺は……偽物にそう言葉を掛けた。

 これは本心ではなく、あくまでコウメの為だ。

 偽物はどうやらすぐに俺の命を取ろうって訳じゃねぇみてぇだしな。

 その気なら隙だらけだったコウメとの会話を大人しく待つなんて事はしねぇ筈だしよ。

 何か俺に伝えたい事が有るのかもしれねぇな。

 ロキの野郎の伝言とかな。

 それまでは俺とやり合おうって気が無ぇ様だ。

 取りあえず二人きりのタイミングになるまではお預けにしてやるぜ。



「…………正太の言葉は尤もだ……」


 偽物が口を開いた。

 その言葉に驚いた俺が慌てて偽物に目を向ける。

 『尤もだ』だと?

 それはどう言う意味の言葉だ?

 俺が偽物と言った事を認めると言うのか?

 それとも……。


「と、父さん……?」


 偽物の顔を見た瞬間、俺の口から自然と父さんを呼ぶ声が零れた。

 俺の目に映ったのは、俺の事を真剣な眼差しでしっかりと捉え見詰める姿が有ったからだ。

 その瞳に映る想いは、俺を欺く意図など無くまるで大空の様に澄み渡っている……父さんそのものだったから……。


「……あの日、確かに俺は……いや村の皆全員死んだ。これは紛れもない事実……突如飛来した『大陸渡りの魔竜』ニーズヘッグによって成す術無く、……奴の吐く紅蓮の炎に焼かれてな」


 父さんは語る。

 その死の瞬間の事を。

 記憶の中の幻なんかじゃなく、その言葉にはしっかりと真実が刻まれていた。

 この人は嘘を吐いていない。

 その事だけは何故か信じられた。


「ニーズヘッグ? それが『大陸渡り』の名前? けど、死んだならなんでここに居るんだよ」


「……それは……。分からない……。今から二ヶ月くらい前の事だ。突然俺は光と共にここに降り立った……」


 な……なんだと? 光と共にここに降り立った?

 今から二ヶ月前と言や女媧と戦った頃じゃねぇか。

 なんだってそんな時に父さんが俺の記憶から現実の世界に姿を現したんだ?


「なんで……? どうして……?」


「……すまない、俺も分からない。ただ光の中で意識を取り戻した時、声が聞こえて来たんだ」


「声だって?」


「あぁ、それは人を小馬鹿にしたような軽薄な声だった……」


 人を小馬鹿にした……?

 軽薄……?

 心当たりがビンビンする。


「その声は俺に<<キミの息子がとうとうやってくれたよ。だから地上に降ろして上げよう>>。そう言ったんだ……」


「なっ! なんだって!!」


 ちょっと待て! なんだそれは!

 まず、その声の主は間違いなくロキだろう。

 それは<<とうとうやってくれた>>と言った。

 そして<<だから地上に降ろして上げよう>>だと?

 確かロキの奴は<<魔族を倒すと手に入る鍵には特典効果が有る>>と言っていた。

 加護って話だったが今の所、加護なんて恩恵を受けているとは思えねぇ。

 どっちかって言うと女難の呪いに掛かってる気がしねぇでもないしな。

 もしかして、その特典ってのは俺に対する加護ってんじゃなく、し、信じられないけど、俺の記憶の中の人達をこの世界に……顕現させるって……事なのか?


 魔族の数は四十七体、記憶の中の村の人口は確か……俺を入れて四十五人。

 俺は生きてるから入ってねぇだろうが、まぁ数的には辻褄が合う。

 あぁ、当時俺が飼っていたペットも含まれるんなら俺を抜いて四十四人と三匹か?

 女媧を倒したから父さんが……、と言う事はクァチル・ウタウスを倒したんなら他の人が?

 いや、そんな馬鹿な……そ、そんな事出来る訳が……魂の総量だって……特典が世界を滅ぼすなんて事は……しないと言い切れねぇのが悔しいぜ。


 だが、ロキはこの世界にはデッドストック状態の魂が有ると言っていた。

 それで、クーデリアや魔族を造ったと。

 魔族を倒した……、ならその魂は何処へ行く?

 行く当てのない魂はどうなる?


 仮説でしかねぇが、もしかして魔族の魂が俺の記憶の中の大切な人へと転生してるんじゃねぇのか?

 魔族を倒したご褒美って奴だ。

 そりゃ年を取っていない筈だぜ。

 何せ俺の記憶からトリミングしたんだからよ。


「父さん!! ほ、本当に、父さん……なの?」


「……あぁ、そうだ」


 父さんの言葉は俺の中の幻想を、現実の物とする存在感に満ち溢れていた。

 俺の腕の中のコウメも「神様の奇跡なのだ」と言って泣き止んでいる。

 あぁ、奇跡……そうだ奇跡って奴だな。

 やるじゃねぇかロキ……いや、よく考えたらあいつがこんな粋な事する筈ねぇか。

 と言うか、この特典に関しては最初から仕組まれていた可能性が高いだろう。

 各国の魔族の伝承に関しちゃ各神が担当していたって言うし、その頃から織り込み済みだったかもしれねぇ。

 くそっ! 俺の身体にアダマとか言う奴を提供してくれた神達に感謝したくなっちまうじゃねぇか!!

 そうならそうと、ロキの野郎もこの事を言ってくれれば最初からやる気になってたって言うのによ!!

 あっ! もしかしてこの出会いをサプライズする為の演出って事なのか?

 だとしたらとんだトリックスターだぜ。

 しっかりと驚いちまった自分が腹立たし……くは無いな。


 最っ高の気分だぜ!!





 ……いや、一つだけ納得出来ねぇ事が有った。

 これ確認するまでは信用出来ねぇな。


「父さん……これだけは納得出来ないんだけど、確認させて貰っても良いか?」


「ん? ……なんだ?」


 俺の言葉に父さんはまたもやキョトンとした顔で俺を見ている。

 この表情も俺の中の父さんその物だ。

 とても懐かしい。

 けど、やっぱりこれだけは確認しとかねぇと気が済まねぇ。


「麓の町のさ、薬屋のおばさんに聞いたんだけど、父さん『息子は必ずこの町に戻って来る。だから俺はここで待つのさ』とか格好つけて言ったらしいじゃないか。あれはどう言う事なんだ?」


 そうだ、俺の記憶の中と唯一違う所。

 今喋っているのだって当時でも殆ど無かった言葉数なんだよ。

 それなのに『~のさ』なんてスカした言い回しをするのだけは納得いかない!


「うっ……。そ、それは……その」


 父さんは顔を真っ赤にしてうろたえだした。

 お、おい、なんか怪しいな?

 やっぱり……偽物?


「……恥ずかしかった……」


「んん? 恥ずかしかった? そんなスカした言い方が? まぁ、恥ずかしいと言や、恥ずかしいけど」


 今のモジモジしてる様の方が見てるこっちとしては恥ずかしいけどな。

 と思ったら、父さんは首を振っている。


「ち、違う……」


「違う? じゃあ何が恥かしいんだよ?」


 俺がそう問い掛けるとまたもや黙ってモジモジとしている。

 正直こんな巨漢の厳つい男がモジモジとしている様は、幾ら父さんだからって……違うな、父さんだからか?

 なんか凄く嫌だ。


「……お前が可愛すぎて……上手く喋れ……なくて……」


「え? 今なんて?」


 小さくて聞こえにくかったけど、なんだか嫌な言葉が聞こえた気がしたぞ?

 ちょっとばかし理由を聞きたくなくなって来た。


「あ~、もう良いや父さん。この話はこれまでにしよう」


 これ以上つつくとなんだかおぞましい言葉を聞く羽目になりそうな予感がヒシヒシとする。

 そりゃ、成人前の頃なら嬉しかったかもしれねぇが、二十八年間を飛び越して出て来た父さんと違って今の俺は当時の父さんの年齢なんてのをとっくの昔に越えてる訳だ。

 さっきの抱き合ってたのでさえ今考えると十分おぞましいんだよ。

 もう止めよ……。


「いや! 正太! この際はっきり言わせてくれ!」


「ひっ!! と、父さんがシャキシャキ喋った!!」


 話を終わらそうとした俺だが、父さんは急に立ち上がって大声を上げた。

 いつもの様なボソボソ声でなく、その巨体に相応しい野太く遥か麓まで届きそうな程の激しいモノだった。

 その声にビビった俺と、泣き止んだコウメは揃って父さんを見る。


 ……これアカンやつや……。


 俺の頭にそんな言葉が乱舞する。

 それ以上聞きたくないと思わせる程、父さんの目はランランと輝き、その表情はとても良い笑顔をしていた。


「と、父さん。気持ちは分かった。なにも言わなくていい」


「いや、言うぞ! やっと待ち望んだ息子との再会なんだ!! この際全部ぶちまけたい!」


 ひ~! 父さんが鼻息荒くしてじりじりと近付いてくるぅ~。


「俺は!! 息子の!! 正太が!! 大好きなんだーーーっ!!」


 とうとう父さんは聞きたくなかった言葉をその口から放った。

 まるで龍の咆哮の様に凄まじい音量。

 下手したらどころか確実に麓の町まで届いてるんじゃねぇのかこれ?


「と、父さん落ち着け!!」


 ちょっとロキ!! もしかして父さんの配合間違えてんじゃねぇだろうな?

 俺は心の中で神界から見てるであろうロキに対して文句を叫んだ。


「ずっと羨ましかったんだ。テレスの奴はいっつも正太の事を『私の可愛い正太ちゃん』と言ってべたべたしていた。俺だってしたかったけど、父親としてどう接したら良いか分からないから出来なかったんだよ!」


 こ、こんな所で父さんの口から母さんの悪口を聞きたくなかった!!

 父親としてどう接したら分からないってのは、もしかしたら父さんも孤児だったのかもな。

 いや、俺の記憶から転生した父さん達こそ自分の親なんて者が存在しない筈だ。

 そう考えると俺以上に神の被害者と言えるかもしれねぇ。


「と、取りあえず落ち着こう、父さん。と言う事はだ、父さんは俺の前だと恥ずかしくて上手く喋れなかったと、そして普段はスカした言葉を吐くって事か?」


「あぁ! そうだ!」


 父さんはとてもいい笑顔だ。

 こりゃ魔族じゃないのは確かだろう。

 こんな曇りの無い笑顔を晒すなんてのは魔族になんて出来っこないわ。

 とは言え、父さんとも認めたくないんだけど……。


「そんな元気良く言われても……。けど、各地に伝わってる父さん達の逸話じゃ、寡黙な男って話だぜ?」


「え? あ……いやそれは……麓の町の人達は知り合いだから……」


「そ、それってもしかして父さんは重度の人見知りって事?」


 急にモジモジとしだした父さんに恐る恐る尋ねると、コクリと頷いた。

 マジか……、このガッカリ感は恐らく俺が先輩やジョン達に父さん達の真実を語った時と同レベルかもしれねぇな。

 あの時、ああは言ったが身内の謙遜みてぇな物で父さんの事をダンディーな男と思ってたんだ……。

 ……本当になんか配合間違えてねぇよな?


「もう我慢はしないぞ!! 成長した息子をもう一度抱き締める!!」


「や、止めてくれ……。ほらみろ、俺はもう昔と違っておっさんだぜ? 親子の抱擁なんて年じゃねぇっての」


「構わない!! それに昔と違って今のお前なら思いっ切り抱き締めても大丈夫なのはさっき分かったんだ! 今までの分を取り戻すぞ!!」


 取り戻すぞじゃねっての!!

 俺はコウメを抱えて走り出した。

 そりゃ手を広げて俺目掛けて走り出した父さんから逃げる為だ。

 ちっ! ロキの野郎! やっぱり配合間違えやがったな!


「なんで今の俺より早いんだよーーー!!」


 あっと言う間に捕まった俺をコウメごと抱き締める理不尽な父さんの存在に疑問を呈する俺の叫び声は、恐らく麓にまで届いただろうな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る