第86話 開拓者


「あ~、カイ」


 俺は、地下の訓練場への階段を降りる前に振り返り、カイの名前を呼んだ。

 カイは血だらけの服のままだが、ギルドの治癒師達のフルコースにより既に立って歩く事が出来ており、こちらに向かっている所だった。


「教官どうしたんです? 藪から棒に?」


 急な俺の呼び止めにカイはキョトンとした顔で俺を見詰めている。


「良くやったな。仲間の為に身を挺して守ったんだ。冒険者たるものそうでなくちゃな。俺も嬉しいぜ」


「教官……」


 カイは俺の言葉に勘当して目が潤んでやがる。

 まっ、俺もこんな他人を素直に褒める様な事滅多に言わねぇしな。

 急な事でビックリしたんだろうぜ。

 周りの奴等も言葉を失ってるが、ビックリを通り越して天変地異が起こったみたいな顔してやがるのはどう言う事だ?

 ここまで驚かれるのは逆にビックリ何だが……。

 さすがにここまで人を褒めない奴と思われていたってのは心外だぜ。


「だが、大怪我するってのは話が別だ。パーティーの主力が、ゴブリン如きにそんな怪我していちゃ話にならねぇぞ。下手したら全滅してたかもしれねぇんだ。グレンに感謝しろよ」


「はいっ! 教官!」


 返事は良いが、正直不安だ。

 仕方無ぇ、後で直接剣の指導をしてやるか。

 俺は仲間を助けた事によって全てを失っちまったが、こいつらにはそんな思いさせたくねぇからよ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あ~、皆集まって貰ったのは他でもねぇ。このギルドの教導役としてお前らに聞きたい事がある。まず、ここ最近。そうだな、火山が噴火した後から魔物の様子が変わったって思う奴。挙手してくれ」


 地下の訓練場の壁に設置された講習用の黒板の前に立ち、床に座っているギルドメンバーにそう尋ねた。

 受付嬢の嬢ちゃんと、なぜかメアリもその後やって来て一緒に端っこに座っている。

 チコリーもその横に座っているな。

 メアリに気付けの魔法でも掛けて貰ったんだろう。

 顔色が幾分マシそうだ。

 そう言えば最近あいつら等三人仲が良い。

 よく嬢ちゃんの休憩時間に三人で喋っている所を見掛けるぜ。

 同い年だから気が合うのかもしれねぇな。


 そして、俺の質問に七割強の奴等が手を上げた。

 残りの三割はチコリーとか基本戦闘しねぇ採取系ハンター達も混ざってたりしてるんで、ほぼ全員と言ってもいいだろう。

 この様子だと気の所為って訳でもねぇって事か。


「他のギルドの奴等とこの件について話した事がある奴は居るか?」


 次の質問に数人が頷いていて声を上げた。


「昨日南のヴェルパ公国から帰る時にたまたま一緒の馬車に乗っていた冒険者の話ですが、公国内でも最近は普段見ない所での魔物の目撃が増えているって言ってました」


 中堅パーティーのリーダーがそう答えた。

 因みにこいつはダイスの後輩に当たる俺の教え子だ。

 こいつには俺が治癒魔法が使える事を知られちまっている。

 採取訓練の時に、一人で遠くまで行きやがって崖から落ちて死に掛けやがったんだよな。

 俺の監督不行き届きの所為でも有ったから仕方無ぇ。

 自分の身で体験した事なんで、メリーを治癒した事についても、エリクサーではなく俺の魔法だったって事は気付いているだろうな。

 まぁ、ダイスみてぇに理を破る者って事までは知っている訳じゃないが、それでも俺が普通じゃねぇ事は分かっているし、内緒にもしてくれている。


 いや、先輩には一応報告していたみてぇだったな。

 俺がはぐれ治癒師容疑に付いてよ。


 まぁ、これについては責められねぇか。

 なんせ、無免許の治癒師を匿ってるって事になれば、うちのギルドさえ簡単に吹っ飛ぶスキャンダルだ。

 教会に密告されなかっただけでもよしとするしかねぇよ。


「なるほどな。少なくとも噴火にビビッた魔物がトチ狂った訳ってでも無ぇと言うことか」


 う~ん、噴火によるパニックでルーチンプログラムのバグであって欲しかったが……。

 噴火の影響なんて、ほぼない筈の公国でも同様な例が有るって事ならば、その可能性は低いだろう。

 どうやら、嫌な予感が的中しそうだぜ。

 全てがイレギュラーに進んでいる。

 それは俺だけじゃないって事か。


「お前らっ! 今から俺が言う事を聞いてくれ!」


 俺の言葉に皆真剣な顔をしている。

 所々から息を呑む音が聞こえてきた。

 そりゃあそうだろう。

 なんせ俺自身、皆の前でこんなに真剣な顔なんてした事無ぇからよ。

 この不測の事態も相まって皆も緊張するだろうよ。


「いいかっ! これから討伐依頼に関しては、どんな相手だろうと三パーティー以上で当たれ! 街道の護衛依頼に関しても最低でも二パーティー、モンスター遭遇の可能性が高い場合はやはり三パーティー以上で望め。あぁ、チコリー! 近隣の採取と言えども先日の様な事もある。絶対に一人では行くな」


 さすがにこの言葉を聞いた皆からブーイングの声が上がった。

 これも想定内だ。

 なんせ、依頼主が出す報酬は決まっている。

 それを自分のパーティーだけで分けるのは当たり前だろう。

 しかし、他のパーティーが増えていけば、それだけ分け前が減るんだ。

 そりゃ皆も納得出来ないだろ。


「ソォータさん、そりゃないぜ。ただでさえ安い報酬の依頼しか受けられないってのに、分け前減るんじゃやってられないよ」


 Dランクパーティーのリーダーがそう愚痴を零した。

 周りの皆もそれに同意して文句を言っている。


「あ~、お前らの言い分は分かる。そりゃそうだろう。俺だって嫌だぜ、そんな事報酬減額。だから、それ相応の追加報酬を用意するぜ。まず、追加パーティーに関しては報酬と同額を支給する。護衛に関してもだ」


 皆から歓喜のどよめきの声が上がった。

 当たり前だな。

 パーティーが増えればその分任務が楽になる。

 それなのに報酬額は据え置きだ。

 そりゃあ、喜ぶだろう。


「えーーーっ! ソォータさん! うちのギルドにそんな余裕は無いですよ! それにお父さ……ギルドマスター不在ですし、勝手に決めて貰ったら困ります!」


 俺の追加報酬の話に、皆とは逆に嬢ちゃんが悲鳴を上げる。

 これも当たり前だ。

 追加報酬は依頼主が出す訳じゃ無ぇ。

 まぁ、俺がそんな金を持っていないのはここに居る全員が知っている。

 と言う事は、その追加報酬ってのはギルドが払うって事になる。

 そんなの、ギルドマスターの娘である嬢ちゃんじゃなくともギルドの職員は許容出来ないだろう。

 その証拠に他の職員達も憤慨した表情で俺を睨んでいる。

 大丈夫だ、資金に関しては当てが有るんだよ。


「嬢ちゃんも他の職員も心配するな。それにはちゃんと心当たりが有るんだぜ。そんな事より、お前ら! 魔物と遭遇しても深追いは絶対するな! 今までのノウハウは忘れろ! 初対面の敵と思って慎重に当たるんだ。そして、もう一つお前らにやって欲しい事が有る。とても重要な事だ」


「やって……欲しい事? 重要ってなんですかそれ?」


 カイが俺のお願いにキョトンとした顔でこちらを見た。

 おいおい、何の見返りも無しで報酬だけ貰う気じゃねぇだろうな?

 さすがにそんな美味い話は無ぇってのは冒険者なら分かるだろ。

 ちゃんとカイ以外の冒険者は『あぁ、やっぱり』って顔してるしな。

 カイの奴、先が思いやられるぜ。


「カイっ! 当たり前だろ。無償の奉仕なんて有る訳ねぇだろ! まぁ、お前らそんなに緊張するな。なぁに簡単な事さ。だが、一番大事な事だ。いいか、どんな事でもいい。魔物と対峙した時に気になった事を報告してくれ。それに関しても後から報酬は払う。道で立ションしてたとか鼻くそほじってたとかそんなんでも良いぞ」


「もう! ソォータさんって下品!」


 最後の発言には嬢ちゃん含む女性からブーイングが上がった。

 まぁ、女性の前ではそりゃちょっと下品だったかもしれねぇが、実はこれは奴等の現状を知るに当たりかなり重要な事なんだ。

 ルーチンプログラムで動く魔物と言えども排泄等の生理現象は存在する。

 但し、ルーチン通り決められた場所でしかしない。

 人が通るような道すがらで立ションなんかは絶対にしねぇんだ。

 鼻くそほじりにしてもそうだ。

 これはある意味快楽の行使であり、そんなものはルーチンプログラムには含まれていねぇ。

 その行動は明確に意思と言う物が介在する。

 今までの魔物達では絶対に有り得ねぇ行動なんだよ。


「そ、そんな簡単な事でいいんですか? う~ん分かりましたけど、ソォータ先生が言うその資金の当てって本当なんですか? 信用しない訳じゃないですが口約束だけじゃ生活かかっていますし心配です」


 ある冒険者がそう声を上げた。

 うん、尤もだ。

 ここですぐに『分かりました!!』と言える奴は、良い冒険者には成れねぇさ。

 それに引き換えカイの奴は普通に喜んでたしな。

 やれやれだぜ。


「そうだろう。なら安心させてやる。金の出所はな……この国の国王だよ」


「えぇぇーーーーーーーー!!」


 この場に居る全員の驚きの声が地下訓練所中に響き渡った。


「ちょっと、教官! どう言う事ですか? 教官如きが国王から金を引っ張って来るって正気ですか?」


 カイの奴、後で徹底的に扱いてやるから覚えておけ。


「お前らも晩餐会での俺の噂を聞いているだろ? それに先日までここでダンス講師をしていたしな。それのお陰で国王に面識も有るし、ちょっとばかり貸しが有るんだよ。それを今返して貰うだけさ」


 とは言ったが、この事は貸しを返して貰うと言うより新たな借りになっちまうだろうな。

 断った報酬分じゃとても足りねぇだろ。

 二三無理難題を突き付けられそうだが、それに関しては仕方無ぇ、婿入り以外は受けてやるよ。

 とは言え、この事はこの国の……いや、人類の存亡にも関係するかもしれねぇんだ。

 ルーチンプログラムのアップデートだけなら良いが、もしプログラムからの解放なんて事ならマジでやべぇぜ。


 意思が魂になる……か。


 確か九十九年使われた道具が付喪神になるって話があったな。

 この世界の魔物達もそうなのかは分からんが、魂の増加は世界の崩壊に繋がると神は言っていたんだ。

 それなのに……。

 ふぅ、考えたくはねぇが、これは痺れを切らした神達のカウントダウンって奴じゃねぇのか?

 俺が逃げ出さねぇ為に、この世界を人質として俺を脅迫する為のな。


「小父様っ! それはもしかして、ご自身の身を売ると言う事ではないですの? そんな事……」


 メアリが、国王から金を出すって言葉に反応してそう言って来た。

 周りの目がメアリに集中する。

 俺が国王に身売りすると言う意味に関して、この場に居る皆の中で俺が神の使徒と言う事を知っているメアリは勿論、魔法を使える事を知っている一部の者達も有る程度の事情を理解しているだろう。

 それ以外の者達にとっては、ダンスが上手くて教導役として最近有名程度でしか俺の事を見ていないので、メアリの言葉に素直に驚いている。

 まぁ、ただ単に『買い被り過ぎだろ』と言う呆れの意味合いが強いんだが。

 ん? 嬢ちゃんだけは俺の顔を何やら悲痛な顔で見てるな?

 なんでだ?

 まぁ、巷で評判の教導役が引き抜かれる事を懸念しているのかね。

 俺は今の所、この街から出て行く気は無ぇんで、安心させてやるか。


 ニコッ。


 あっ! 笑いかけたら口膨らませてそっぽ向いた!

 笑いかけてそんな態度取られるなんて、おじさんちょっと傷付いたぜ……。


「心配すんなって、メアリ。俺は何処にも行かねぇよ。まっ、かと言って全部のギルドで追加報酬ってのは、さすがの俺でも引き出すのは無理だろうから、取りあえずこのギルドでだけだ。だから他の奴等には追加報酬に関しては内緒にしてくれよ。ただ、一つ言っておく。お前らが集めた情報は今後絶対必要になって来る。それはこのギルドだけじゃねぇ。この世界全体に言える事だ! お前らに人類を救う為の開拓者となって欲しい」


「きょ、教官……、その言葉本気なんですか?」


 いつもおちゃらけているカイが真剣な顔でそう言って来た。

 俺は何も言わず真剣な顔で頷く。

 その様子から、周りの皆も俺が冗談を言っているのではないと言う事を読み取り押し黙った。

 今までグータラしていた奴が急に真面目な事を言い出した事に驚いているだろうが、賢い奴等は言葉の意味をある程度察した様だ。

 今はまだ小さいこの世界の変革って奴がもたらし得る人類の脅威って奴を。


「あ、あの……、教官って、何者なんですか?」


 カイが続けて恐る恐る俺の事を聞いて来る。

 今の俺は言葉の説得力を持たす為に、いつもは抑えている身体の力を少々解放していた。

 分かる奴が見たら歴戦の勇士に見える筈だ。

 頭は兎も角、カイもいっぱしの使い手だし、その事を分かっているんだろう。

 正直身バレするのは嫌なのだが、こいつらが死ぬのも、神達の気まぐれでこの世界の住人達が苦しむのも、そっちの方がもっと嫌だからな。

 多少は本気を見せてやるさ。

 ギルドの皆を安心させてやる為にもな。


「俺は、このギルドの……お前達の教導役だ。それ以上でも以下でもねぇよ」


「教官……」

「ソォータさん……」

「チュートリ……いや、先生!」

「師匠カッコいいっす」


 俺の言葉に感じ入った皆が目を潤ませて口々に俺の名前を呼んでいる。

 チコリー、そう言ってくれるのは有り難いが、別に格好を付けた訳じゃねぇ……、いや、ちょっと中二病っぽかったか?

 実のところ結構ノリノリで格好付けて言っちまったぜ。


「さっきも言った通り、お前達が集めて来た情報はこれから人類にとって必要になる。それらは随時傾向や対策付きで各ギルドやその関係各所に回す。まぁ最初は受け入れられず変な目で見られるかもしれねぇが、そんな事は放っておけ。冒険者の中には心当たりが有る奴が出て来るだろう。その内広まるだろうさ」


 皆が力強く頷いた。

 自分達の行動が世界を救う助けとなる。

 さすがのカイもその事に気付いた様だ。

 まるで目に炎が宿っているかのように燃えてやがるぜ。

 ……こいつの場合、それが逆に心配になって来るんだけどな。


「んじゃ、俺は明日朝一に王都に向かって出資の件について国王に頼んでくる。職員達! 王都ではギルドマスターとも落ち合う事になっているから話付けて来るから、ギルドの事務関係等の手続きに関して先行してさっき言った事を行ってくれ」


「え? お父さんってバース農場から王都に向かうって話なのに、ソォータさんっていつの間にそんな約束を?」


 うっ、嬢ちゃん鋭い突っ込みを入れやがるぜ。

 先輩の無事に関しては既にこのギルドに届いている。

 俺は西の国に行ったって言う話の辻褄を合わせる為に、先輩と別れたあと大きく西に迂回して途中の宿場町の寄り合い馬車に乗ってこの街に帰って来たんだが、その間に先輩達はちゃんと使者を送って俺抜きの嘘の状況説明をしてくれていた。

 まぁ、噴火調査に向かった先に『城喰いの魔蛇』が現れたんだから、普通に考えてギルドの奴等が最悪の事態を想定するのは自然な成り行きだ。

 帰って来た時にギルドがそんなパニック状態だったら、気まずい所の話じゃねぇよ。

 西から帰って来た設定なんてほっぽらかして、皆を安心する為に洗いざらい喋っちまってただろう。

 先輩ナイスだぜ。


「あっ、そうそう、アンリ。その事ですけど、アンリのお父様から私のお父様にも使者が来まして言伝を貰っていたんですの。帰ってきたら王都に来るようにって。ねっ小父様」


「あっ、あぁ。そうなんだよ。さっきヴァレン学長んちに寄った時に聞いたんだ」


「え? そうなの? そんな内容なら別にギルド宛でも良かったのに」


「まぁ、俺達三人は古い知り合いだしな。仕事じゃねぇプライベートな用事でも有るんだろ。だからついでに今回の話をして来るぜ」


 嬢ちゃんは古い知り合いって言う事で納得した様だ。

 メアリ! 助かったぜ。

 俺は目立たない様に腰のあたりでメアリに向けてサムズアップをして、メアリの心遣いに感謝の意を返した。


「よし! 話は終わりだ。皆よろしく願うぜ」


「はい!」


 ギルドの皆が元気よく答えた。

 そして各々立ち上がり一階に戻ろうと階段に向かって歩き出す。


「おいおい、話は終わったが解散なんて言ってねぇぜ?」


 俺がそう言うと皆が驚いた顔で一斉に俺の方に振り返った。

 そう、このまま返す訳にはいかねぇよ。


「え? 教官? まだなんかあるんですか? なんかすごいやる気満々って顔してますけど……?」


 俺が良い笑顔で指をポキポキ鳴らしている姿を見たカイが冷や汗垂らして怯んでいる。


「今から皆には地獄の特訓に付き合ってもらうぜ。剣使う奴等は俺と模擬試合。あぁ、纏めてかかって来ても良いぞ。それで魔法使いは特訓方法を教えてやる。治癒師はメアリが直々に指導するぜ」


「えぇーーーーー」


 今日何度目になるだろうか? またもや皆の驚きの声が綺麗にハモった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その後数時間、地下の訓練場に数多の悲鳴が響き渡った。

 剣士に対してはビシバシと木剣でシバキあげ、魔法使いは魔力の集中に関するコツを教え、魔力が尽きてぶっ倒れるまで繰り返させた。

 治癒師に関しては俺が直接教えると問題が有り過ぎるんで、メアリにこっそり伝えた回復速度や回復力強化のコツを代理でレクチャーして貰い、ぶっ倒れている皆をサンプルとして実施訓練を行っている。

 さすがメアリだ、コツしか教えてねぇのにすぐにマスターしやがった。

 しかも、他人が分かり易いように、段階を分けた学習方法まで構築したってんだから、俺なんかより先生に向いてるんじゃねぇか?

 王子も魔法学園の学長やってるんだし、血がなせる業って奴かね。

 大したもんだぜ。


「きょ、教官。無茶苦茶強いじゃないですか……。全員でかかっても剣が掠りさえしないなんて反則ですよ〜。なんで今まで隠していたんです? それに魔法に関してもすごく詳しいですし、本当に何者なんですか?」


 地面に這いつくばっているカイが俺に聞いて来た。

 ほうほう、まだ喋れる元気が残っている様だな。

 もう少し扱いてやるか。


「あ~それはな。お前ら『二人のケンオウ』って話を知っているか?」


「知ってますよ。俺が冒険者になった切っ掛けですもん。吟遊詩人の語る剣士と魔法使い二人の勇ましい活躍の数々。痺れますよ~。勇者パーティー相手に単身で無双する場面は、今でも冒険者達の憧れです」


 周りからも口々に似たような回答が出て来る。

 うん、お前らまだまだ元気だな。

 扱きが足りない様だ。


「知っているなら話は早いな。実はその二人は俺の両親なんだよ」


「は? え? えぇーーーーーーー!」


 俺の言葉にトドメのハモりが訓練場に響き渡った。

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