退却

 アポリオールは戦いの疲労から、精神を維持するのが困難になっていた。

 このイオド火山から発せられる特殊な波動で、意識が揺らぎ始めた。

 最後の力を振り絞ってアポリオールは声をあげる。


「全員退却! ここは危険だ、今すぐベースへ戻れ……」


 そう言い終えると、白馬から崩れ落ち、そのままがくりと高熱の大地に倒れた。

 その姿を火山の頂はただただ眺めていた。まるでスローモーションのように、溶岩はその円の直径を狭めていた。



 ——ふわりとした浮遊感と、激しく揺れ動く感覚。

 アポリオールは自分の体が大きく揺れていることに気付いた。

 ふと目を開けると、見覚えのある顔が横にあった。


「——ラルス? お前どうやって……」


 ラルスが自分の体を抱え、溶岩の中を歩いていたのだ。

 その光景を理解する前に、アポリオールは平地に放り投げられた。

 直ちに控えていた兵士数人に担がれ、そのまま山頂を後にした。

 背後には足を溶岩でもがれたラルスが伏せ、その光景が徐々に遠ざかっていく。


 その残像を脳裏に残しながら、やがてアポリオールはその意識を飛ばされ、再び混濁の海へと沈んで行った。

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