第19話 嘘と嘘

~釣畑美羽 side~


よかった…バスに間に合った。

私は発車ギリギリのバスに乗り、後ろから2番目の

空いている席に座った。

あまり人がいなくてよかった…。


ふぅ、と落ち着いていると、さっきのことが

頭に浮かんでくる。


洋介と久しぶりに会ったなぁ…。

変わってなかったけど、やっぱり大人っぽくなってたなぁ…。


一人でいる時よりも、明らかに心は軽くなっていた。

また会えるかな…。


会えたらいいな…。

私はそんなことを考えながら、外を眺めていた。


私が着ていた、懐かしい制服を着ている中学生が歩いていた。


私は微笑ましく、彼女たちを見ていた。


~大塚蒼太 side~


翌日、俺はいつもよりそわそわしていた。


釣畑になんて言えばいいのか…。

別になんとも思っていないなら、

こんなこと考え無かっただろう。


もう、自分でも分かってる。

きっと俺は…


頭の中でそう考えていた時、

教室のドアが空いた。


釣畑が入ってきた。

今日は珍しく、髪の毛を下ろしていた。

いつもと雰囲気違ってかわい……じゃなくて!


釣畑が自分の席に向かう。

俺は「お、おはよう」と少し不自然に

話しかけてしまった。

釣畑は「おはよう」と明るく返してくれた。


今しかないよな…。


「釣畑…、昨日の手紙のことなんだけど…」


「…あ~、あれね。嘘ってことは知ってるよ。

新田百花さん、だったっけな。

私のプリント持ってきてくれたんだよ。

だから、新田さんがその手紙書いたのかなぁって。

大丈夫、その事は誰にも言わないから。」


釣畑は作ったような笑顔で、早口にそういった。


俺が弁解しようと口を開くと、

釣畑は「職員室に用事あるから、行くね!」と

小走りで言ってしまった。


しまった…引き止められなかった。

やっぱり、わかっていたのか。

どうしようか、付き合ってると思ってるかも

しれない。


それはいろいろとまずいなぁ…。

あぁ…まじでどうしよう。


俺はそんなことばかり考えていて、

南川に体を揺さぶられるまで気づかないくらい

ぼーっとしていた。


授業の内容も全く頭に入らず、

その日は終わって行った。


~釣畑美羽 side~


放課後、私は調理室にいた。


同じクラスの友達、林 梨乃(はやしりの)ちゃんと

舞花ちゃんとクッキーを作っていた。


焼いている時、私は教室に忘れ物をしたことに

気がついた。

明日出す課題だったので、今日必ず持って帰らなければならない。


私は2人にそう伝えて、教室に向かう。

教室に着くと、誰もいなかった。

シーンとした教室はいつもと雰囲気が違っていた。


私は課題を手に取り、出ようとする。

すると、ドアのところに新田さんがいた。

私はびっくりして何も言えなかった。


すると、新田さんが近づいてくる。

彼女は私の目の前に止まり、こういった。


「釣畑美羽さん。

あなたは気づいてると思うけど、私は大塚蒼太が

好きなんだ。

そして手紙を書いて、送ったのも私。

私は蒼太と幼なじみで、前からずっと好きだった。

だから…、私は昨日告白したんだよ。

私は蒼太の彼女になった。

だからね…、もう蒼太に近づかないでね。

喋りかけられても、もちろんだめだよ?

よろしくね…釣畑さん?」


彼女は不気味な笑顔でそう言うと、

教室を出ていった。


大塚くんはOKしたんだ…。

付き合ってるかもしれない、とは思って

いたけど、それが本当だと知ると、

涙が出そうになる。


でも泣いちゃいけない。

祝福しなきゃ…。


でも、心がついて行かない。

私は涙をぐっとこらえて、調理室に戻る。


2人に

「ごめん、用事あったんだ…。帰るね。

クッキーは2人で食べていいし、

持って帰っていいよ」

と嘘をついた。


2人は私の異変に気づいていたんだろう。

止めようと来てくれたが、私は気づいていない

フリをして背を向けたまま帰った。




もう、何も考えなくなかった。


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