第18話 久しぶりだね。

~富田洋介 side~


俺は美羽を見ているとあることに気づいた

美羽が無理をして明るく振舞おうとしている。

俺にそんなに会いたくなかったのか…と思ったけど

俺だと気づく前から、少し落ち込んでいる声だった。

俺はどうしたのか聞こうと思ったけど、

気持ち悪がられるかもしれない…。


俺は迷った結果…


「美羽、何かあった?

あった時から落ち込んでるように見えるけど…」


美羽は少し驚いて

「ちょっと…ね…」と落ち込んだ顔をした。

何があったのか、さらに気になったけど、

自分から言わないということは、言いたくない

んだろう。

このまま、そっとしといた方がいいかな…と

思った時、美羽から話しかけてくれた。


「洋介ってどこの学校行ってるの?」


「宮瀬高校だよ。美羽は桜丘南高校だろ?

頭いいからもっと上に行けたでしょ」


「えー、そんなに勉強したくないよー。

洋介はどうなの?部活とか。」


「んんー、高校でもテニス部入ったよ。

練習、結構きついけど、まぁ、楽しいよ。」


「そうなんだー、他に勉強とかは?」


「まぁまぁって感じかな。

この前のテストは結構よかったよ。」


「へー!すごいね!」


たわいもない話をしていると自然に

笑顔になる。

美羽もさっきまでの落ち込んだ表情は消えていた。


「美羽はどうなの?やっぱり高校でも

モテるのか?」

と冗談めいて聞くと、美羽は

「全然だよー」と笑っていた。


すると「洋介は?」と聞かれたので俺は

「モテないし、彼女いないし」と笑いながら

返した。


美羽は少し驚いたような顔をして

「えー?そうなんだ。意外だね。

洋介って意外とモテるのに。」


「そうか?俺、全然女子と喋ってないし。

中学校の時ももててなかったし。」


「あー...。まぁ、洋介って鈍感だからね···。」


美羽は独り言のように、ぼそっとそういった。

俺が「え?」と聞き返すと、美羽はこういった。


「それは私がいたからね。

さすがに付き合ってる人に告白なんてしても

断られるってみんな分かってるから。

ほら、洋介って結構、かっこいいんだよ?

運動も出来るし…、勉強だってそこそこじゃん?」


俺は急に褒められて、恥ずかしくなった。

それは褒めた美羽自身も同じらしく、

少し頬が赤くなっていた。


「そうだったのか?

全然そんな感じしなかったけど…。」


「これでもあの時は大変だったんだよ。

嫌がらせなのかわかんないけど、わざわざ

私に『洋介のこと好きなんだけど、どう思う?』

とか聞いてくる人が結構いたんだよ。

なんて言ったらいいのわかんなくて、

ほんとに困ってた。」


懐かしむように言う横顔は少し嬉しそうで、

その反面、少し迷惑そうな顔をしていた。


「そんなことあったのか…。

相談してくれればよかったのに。」


「そうだったかもね…。

たぶん、洋介にその話をすると、洋介はそれを

気にしすぎて、その子に対して普通に

対応出来なくなるかな…って思ったのかな。

だから相談しなかった…。

今となっては面白い思い出だけどね。」


冗談交じりに話して、苦笑いする美羽。

その声は最初あった時の声とは違って、

楽しそうな声。

俺と話して、前向きになってくれたならよかった。


そう言えば、俺は美羽の連絡先を知らない。

今、仲良くしゃべったとはいえ、

一応、元カノだし…。

そう迷っていると美羽がこういった。


「あれ?洋介、なんか悩んでるでしょ。」


俺はびっくりして「へ?」と変な声が出た。

美羽は、「やっぱり!」と嬉しそうに笑った。


「なになに?何を聞こうとしてるの?」


バレてるのか…。

これで誤魔化すのも難しいし…。

悩んだ末に


「そう言えば、美羽のLINE知らなかったな、

と思って。」


そう言うと、美羽は納得したようで、スマホを

取り出した。


「あー、そういう事ね。はい、これだよ。」


思いのほか、さらっと交換してくれたので

びっくりした。


すると、美羽がスマホの画面を見て、

「あ!もうこんな時間だ!」と言う。


「ごめん!私、今から用事あるんだった!

また今度ね!」


そう言って、リュックを背負い直し、美羽は

行ってしまった。

俺はもう少し、喋っていたかった…と思ったが

美羽が「また今度ね!」と言っていたので、

また会ってくれるのか、と思うと

嬉しくなった。


しかし、最初あった時の声が暗かったことも

気にかかって仕方がなかった。


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