第12話 女子らしい筆跡。

~大塚蒼汰 side~


自分宛に送られたかもしれないその紙を見る。

この字、どっかで見たような…。

綺麗でわかりやすく、女子らしい丸文字。

普通より少し大き目に書かれている。

しばらく考える。

見たことがあるってことは近くの席だった可能性が高い。

以前の席で近かったのは、

前にいた及川優愛(おいかわゆうあ)、

左どなりにいた鈴野花純(すずのかすみ)。

ほかは男子だった。


しかし、及川優愛は書道が上手く、全国にいく程の腕前。

その影響で及川の字は書道の手本のような字を書く。

だから及川ではない。

失礼だが、鈴野花純はあまり字が綺麗ではない。

男子の俺ほどきたないわけではないが、女子らしい字か…と言われれば、うんとは言えない。

だから鈴野でもない。

2人とも違う…ということは今の席の近く。


以前、名前が分からなかった隣の女子は

森河愛音(もりかわあいね)だということが分かった。

森河は女子らしい丸文字で書くが、文字が小さいのが特徴。いつも普通の人より小さめな字を書く。

俺が持っているこの紙には、結構大きめの字で書かれている。

わざと大きく書いた、ということも考えられるが、

多分それはない。

たまにもう少し、大きく書いてと森河は言われることがある。

その時に書いた大きな文字は普通のサイズだった。

だから森河が大きく書こうとしても、普通の人から見たら普通のサイズに見えるだろう。

だから森河は違う。


前の席には、古峰由結(ふるみねゆい)がいる。

古峰の字は確かに綺麗だが、明らかに手紙のものとは違う筆跡。

よって古峰も違う。


残っているのは…


後ろの席の釣畑美羽…。

どんな字だったっけ…そう思い、後ろで勉強している釣畑の字を、本人に気づかれないように見た。

女子らしい丸文字。

また、癖なのか少し大きめだ。


……これだ。この文字だ。

すごく似ている…。


ということは釣畑?

いや…待て…本当に?


文字が似ている、ということしかまだ根拠はない。

これで釣畑と決めるのは良くない。

でも、違ったとしても文字がよく似ている。

同じクラスの他の人の字は見たことがないので

断言は出来ない。


確かに、テストの時、俺の席に座るのは釣畑。

しかし、こんなわかりやすいことするか?

頭のいい釣畑は、頭の回転もはやい。

そんな釣畑が、こんなわかりやすいことをするとは思わない。

もし、釣畑が人に告白するとなったら…

こんなことはしないだろう。


そう考えると、誰かが"釣畑の字に寄せて書いた"と

言うこともありえる。

もちろん、元々似ていたという可能性もある。


1人で悩んでいると、響一が来た。

彼も考えてはくれてるが、分からないらしい。

ふいに、響一が釣畑の字を見た。

すると彼は驚いたようにこちらを見た。


「まって、美羽の字、これに似てるね」

「え?」


釣畑が驚いたように顔を上げる。


「これ、美羽が書いたってわけじゃないよな?」


響一が聞くと、釣畑はこくり、と頷いた。

やはり釣畑では無いみたいだ。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


~釣畑美羽 side~


松野(響一)くんと大塚くんがあの手紙について話してる。

あまり聞かない方がいいだろうと思って、

国語のワークの方に集中してた。

だから急に名前を呼ばれた時はびっくりした。


「え?」と間抜けな声を出してしまった。

すると松野くんに、大塚くん宛の手紙を書いていないか?と聞かれた。

私は違うよ、と頷いた。

私の字とその手紙の字は似てるらしい。

気になって見せてもらうと、本当に似ていた。


「これ…私の字に似てるね」

「うん、結構似てるから美羽が書いたのかと…」

「ち、違うよ!確かに私はテスト中、使ってたけど…。」


本当に書いたのは私ではないので否定する。

……その前に、こんなこと書く勇気なんてないし。

逆に私が聞きたい。

誰が書いたのか、本当に大塚くん宛にか、どんな気持ちで書いたのか。


本音でいえば、いたずらであって欲しいと

思っている。

これで本当にこの手紙を書いた本人が

大塚くんのことを好きで、これがきっかけで

大塚くんもその人のことを気になり始めて、

付き合うことになったら……


そんなことがあれば、私はどうなるだろう。

早く、誰が書いたのか、いたずらではないのか

知りたい。


私もひっそりと誰なのかを調べようと

思った。



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