第7話 私は名前を呼んでみたい。

ガラッ。


演習室が急に開いた。

そこには少し汗ばんだ大塚くんがいた。


「翔太、もうここにいたのか」


「ああ、蒼太が来るまで数学の提出物やってた。

分からないところがあったから釣畑に教えてもらってた。」


「そうか」


大塚くんはそう言うと中に入って、南川くんの席の近くに荷物を置いた。

教え終わると南川くんは

「釣畑、わかりやすかったよ。ありがとう。」

と言った。

私は「いえいえ。それなら良かった。」と言った。

南川くんが自分の席に戻る。

私も自分の問題に戻った。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


~大塚蒼太 side~


そう言えばさっき、翔太に放課後、演習室で勉強をしようと誘ったんだった。

そう思い出して、演習室に向かう。

階段を上がり、ドアを開ける。

そこには釣畑もいた。釣畑が翔太に何かの問題を教えているようだった。

本人達は真剣だから気づいてないのかもしれないが、距離が近い。

あまり2人のことを見られなかったが、変に思われても嫌なので平常を装って話しかける。やはり、釣畑が翔太に教えていたようだ。

話を聞くと、翔太は俺より早く演習室に来ていて、分からないところがあったから釣畑に聞いていたらしい。

なぜか胸の当たりがざわざわしたが、演習室に来たには勉強しなければならない。頭を勉強モードにして、数学のテキストを開いた。


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~釣畑美羽 side~



このクラスになってから3ヶ月が経つ。

私はまだ、クラスメイト全員の名前を覚えられていない。

席が遠かったり、接点がないと喋りもしない。

だから私は名前を知らないのに、相手は知っている、ということが多々あり焦っている。

特に男子は。

中学生の時は普通に喋りかけていたが今では男子にも全くと言っていいほど、自分から喋りかけることが無くなった。

まず、なんて呼んだらいいのかが分からない。もう、3ヶ月が経ってみんな馴染んでいる。なのに今更、「なんて呼べばいい?」とか聞けない。


……特に大塚くん。

話しかける時、私はいつも後ろから「トントン」とする。

みんなと同じように「大塚」と呼べばいいのだろうか。中学生の時はみんな下の名前で呼び捨てだったので、苗字で呼ぶのは抵抗がある。

大塚くんにも1度しか名前を呼ばれたことがない。

しかもその時は苗字だった。

高校生になったらみんな苗字で呼ぶのかな?

でも、松野(響一)くんはみんなのことを普通に下の名前で呼ぶ。

どうしよう…。このまま1年間、名前を呼ばずに終わるのもな…。

多分、他の人から考えたら、「そんなんみんなに合わせとけばいい」とか「なんでもいいじゃん!」みたいな感じだろうけど、私には大きな問題。どうしよう…。


自分でもおかしいなぁと思いつつ、

眠気に耐え、生物の授業を受けていた。









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