第6話 風が吹く音。
~大塚蒼太 side~
2限目の数学。
いつもの様に授業が始まった。
なにげなく後ろを見てみると、釣畑がぼーっとしていた。真面目な釣畑が珍しいな。
ずっと見ていると変に思われてしまう。前を向いてやっていない問題を解く。
問題を全てやったところで、先生が人を当てていく。すると、釣畑も当たってしまった。
やってあんのかな、と思って後ろを見たけど、予想通りあたふたしている。しょうがないな、と思い釣畑に答えを書いて渡す。字は読めるようにいつもより綺麗に書いたつもりだが、しっかり読めるだろうか。
釣畑は俺が書いた通りの答えを言って、なんとか乗り切った。よかった。
すると、後ろから肩をとんとん、とされた。後ろを向くと申し訳なさそうな釣畑がこっちを見ていた。
そして小声で
「ありがとう。」
そう言った。その笑顔はいつもの笑顔。
俺は平然を装って、素っ気なく「おう」と言った。
他の男と喋る時もあの笑顔をするのか。
そんなことを考えていると俺の方が授業に集中できなくなってしまった。
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~南川翔太 side~
南川翔太、硬式野球部所属で勉強は苦手。
最近、席替えをして、横は釣畑美羽になった。
それまで喋ったことがなかったが、同じクラスのやつが「結構、かわいい」とか言ってたっけ。
隣になった今でも、あまり喋ってはない。釣畑は結構、人見知りっぽい。でも、仲良くなって喋ったら楽しい人なんだろうな、と思っている。
勉強もそこそこ出来ているし、肌が綺麗で白い。そして見た目も結構いい。これは男にモテるかもな…。
本人は全然気づいてないんだろうけど。
そんなことより、問題は(大塚)蒼太。
俺は最近、思うことがある。蒼太は釣畑のことを好きになるんじゃないかって。
これはただの感。でも根拠は少しある。
たまに釣畑と蒼太は喋っているのを見るとだが、現代社会の時は前後で机をくっつける。
その時、2人は隣になる。その時の2人は他の人が入っていけない雰囲気。
蒼太は男女関係なく楽しく会話するが、釣畑の時は笑顔が優しい……かも。
これは俺から見てそんな感じがするだけ。蒼太と喋っていると、好きな人とか彼女とかいらないって感じがする。本当のところはどうなのかわからないが。
でもこれからが楽しみだ…。
俺は見て楽しむだけだけどなっ!
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~釣畑美羽 side~
次の日。
期末テストの範囲が発表された。
この日から1週間はテスト週間で部活はなし。
私の部活は元々、週に一回、金曜日しかないのでそこまで変わらない。
運動部は大変なんだろうなぁ。
いつもと同じように1限目が始まる。今日は数学の小テストがあるため数学の勉強をしてる人が多い。たまに「わからない問題がある」といって私の所に来てくれる人もいた。私はできる限り、教えていた。
数学の小テストが終わり、みんなの気が緩む。終わってすぐ「再試だぁ~」と嘆く人。「簡単だった!」と嬉しそうに話す人。
私はどちらもしなかった。今日は金曜日。あと2限終わらせれば休みだ!私は重いまぶたをしっかりと上げて次の授業の準備をした。
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放課後。
私は1年生演習室の前から3番目の窓側の席に座り、勉強をしていた。
シーンとした空間に風が吹く音と私が書く音しかしない。
トントントン…
誰かが階段を上がってる。
その足音はどんどん近くなってきていた。
足音が近くで止まる。すると、私がいる演習室の扉が開いた。
そこにいたのは南川くん。私の隣の席だがあんまり喋ったことがない。
「釣畑か。誰もいないかと思った。」
「家に帰っても勉強しないからここでやってたんだよ。南川くんもここで勉強するの?」
「ああ。蒼太と演習室で勉強しようって約束をしたんだ。蒼太来てた?」
「ううん、来てないよ。」
「そうか。待ってたら来るよな。」
そう言って南川くんは私の右斜め前の席に座った。
南川くんも勉強をし始め、また教室内は静かになった。
いくらか経って、南川くんが急に立ち上がった。そう思ったらこちらを向いて私の方にやってきた。
「ここ、教えて欲しいんだけどいい?」
数学の提出物だった。私は終わっていたので分かっていた。
「いいよ、わかりやすく教えられるか分からないけど。」
私がそう言うと南川くんは椅子をこちらに持ってきて、向かいに座った。
私が説明し始めると南川くんは真剣に説明を聞いてくれた。私もわかりやすく、丁寧に教えようとした。
ガラッ。
演習室の扉が急に開いた。私も南川くんも勉強に集中していて気づかなかった。
そこには少し汗ばんだ大塚くんがいた。
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