4、無抵抗

 残留思念を辿っていくうちに、フィーネ達は街中へとやってきていた。

「どう? 見つかりそう?」

「今、探しているところ」

 何かに集中しているような表情でそれだけ答えて、フィーネは辺りを見回す。

 黒猫を肩に乗せ、ゴスロリファッションで町を闊歩する少女に道行く人は振り返るが、フィーネはそんなものは一切気にせず、目指す対象だけを探す。

「……いつものことだけど、すっごい注目だね」

 クロがそう呟くが、周りの人間にその声は届いてはいないようで、驚くものは誰も居ない。

「もうすぐ着くと思う」

「もうすぐ? それじゃ、もうすぐ近くに……」

「見つけた」

 そう言うとフィーネは、クロが転げ落ちるのも構わずに、突然走り出す。

 肩から転げ落ちたクロは、上手く着地を決められず、身体をアスファルトに打ち付ける。

「痛ッ! ちょ、ちょっとフィーネ、見つけたって……」

 フィーネはクロの声には答えず、夜なのに煌々と電気がつく一軒の店に入っていく。

「ゲームセンターかよっ!!」

 クロの声など気にせず、フィーネはゲームセンターの中に嬉々として入っていく。

 そんな後姿を呆然と眺め、クロは大きな溜息を吐いた。

「まったく、いつもこうなんだから……。僕は猫の姿じゃ入れないんだからさぁ……」

 そう言いながらも、フィーネのこういう行動には慣れていたので、クロは大人しく店の裏路地で待つことにした。


 一方のフィーネは、店に入るなり、色々なゲームを満喫していた。

 UFOキャッチャーで大きなぬいぐるみをたった100円でゲットし、レースゲームではオンライン最高スコアを記録。

 そうして色々なゲームで遊んで、これが最後と格闘ゲームの卓につく。


 フィーネの隣の卓では、一人のスーツ姿の男がゲームをしていた。

 だが、その様子はあまりにも奇怪だった。

「……?」

 その奇妙な行動を、フィーネはゲームを始めずにじっと見る。

 男はじっと黙って、スティックとボタンに手を置いてこそいたが、スティックは軽く動かす程度で、ボタンは一切押す素振りを見せない。

 ゲームはしっかりと開始されていて、中のキャラクターは、防御も攻撃もせず、敵キャラクターに袋叩きにされている。

 まったくの無抵抗のまま、男が操るキャラはあっというまにHPが尽き、画面に大きく「GAME OVER」の文字が映し出される。

 そうして男は小さく溜息を吐き、続けて機械に100円玉を投入する。

 だが、折角お金を入れたというのに、やはり男は攻撃を繰り出す素振りを見せない。

「お兄さん、やる気ないの?」

「え?」

 フィーネが見かねて声を掛けると、男は慌ててフィーネの方を見る。

 目には生気がなく、髪もぼさぼさで、とても仕事帰りのようには見えない。

 年齢は若いようで、恐らく大学を卒業して就職したくらいだろう。

 だが、目の下のクマと、痩せこけてやつれたその風貌が、その男の外見年齢を20ほど老けさせていた。

「無職?」

「……ま、まぁ、そうなるかな……」

「ニート?」

「う……」

「会社に馴染めなくて、人と付き合うのが嫌で、そうかと言って家にいることも出来ず、こうしてゲームをやっている?」

「あ、あの……」

 一般人なら絶対しないであろう質問を繰り返すフィーネに、男は表情を曇らせる。

 普通なら怒っても良さそうな場面だが、男はそうはせず、小さく頷き、またゆっくりとゲーム画面に視線を戻す。

「君の言うとおりだよ。……でも君も、こんな時間なんだから、お巡りさんに補導される前に、早めに帰ったほうがいいよ」

 男は抑揚の無い声でそう呟き、ゲームオーバー画面が表示されたゲーム機に再び100円玉を投入する。

 そんな姿をフィーネはどこか冷めたような目で見て、正面のゲーム機に向き直る。

「……私、こう見えても17歳」

 フィーネは無表情のままそう答えて、慣れた手付きでゲーム機に100円玉を投入した。

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