第31話 銀の小鳥

 夜になると、領主の館の近くまでザクとやって来た。

 周りは石壁で囲まれた石造りの古い城だ。傭兵や兵士が配置され、巡回もされている。そっと物陰から辺りを伺う。ザクに守られているので全く不安は無かった。


 あの部族の人質には、部族長一人が人質として連れて行かれていた。部族名はハヅチ族だった。


「ザクはどうやって助けるつもりなの?もし、ザクに危険な事がある様だったら私は嫌」


「ん?危険な事など何もないぞ。大丈夫だ」


 そう言って、ザクは自分の長く美しい髪をひとつまみ取ると、その中から一本選びプツリと抜き取った。

 指先に摘ままれた一本の銀の糸がキラキラと輝いている。それに向かってフッとザクが息を吹きかけると銀の糸は宙をクルクル舞いながら次第に鳥の形に変幻していく。


「わぁ、小鳥だ」


「フィ-もコツを憶えれば出来る様になる。自分の髪の毛や爪等の身体の一部が必要だがな」


 なるほど、小鳥を作るなら髪の毛一本程は必要になるわけかと感心する。

 ザクの白銀の髪の毛は、銀の小鳥になるとパサリと羽をはためかせた。その小鳥は私とザクの周りを旋回し、領主の館へと飛び去って行った。




 銀の小鳥は、ハヅチ族の部族長が囚われている岩牢を直ぐに見つけてくれた。

 地下ではなく外の山の壁面を利用した牢で、地下に比べれば、衛生的にマシではあるが、それでも食事も最低限だった様で、部族長はとても痩せていた。小鳥に案内され、ザクの魔法で牢に行くと、牢番も他の罪人も部族長以外は全て眠っていた。


 ザクと私が突然現れた事で、最初は腰を抜かしそうなほど驚いたが、何を思ったか大体想像つくけど地面に這いつくばって頭を擦り付けた。


 ハヅチ族の部族長には、ザクが要点をかいつまんで説明して、部族の村に送る事を伝えた。


 銀の小鳥は牢の鉄格子の隙間から入り込み、部族長の足元に口から植物の種の様な物をぺっと吐き出すと、そこを中心に魔法陣が構築され、発光し始めた。すると不意に部族長の身体はその中に沈み込んで行き、驚きに歪んだ表情のまま、姿はかき消えた。


「さあ、最後の確認に行こうか。彼らがどちらを選んでも、フィーは後悔は無いな?それとも選択は見ずに帰るか?」


「後悔とかは無いよ、ありがとう、ザク。そうだ、ミニくん、君はどうする?彼らについて行く?それとも森へ帰る?」

 ミニ君は、イヤイヤをして、私の足元にくっ付いて来た。


「でも、西の国にはミニ君の仲間は居ないよ。それでも平気なのかな?」

 ミニ君はウンウンと頷く。


 どうするのが良いのかわからず、ザクを見る。

「お前は精霊に好かれる気を持っているのだろう。小さき精霊は気まぐれで人懐こい。だから気に入れば憑いてしまう。だが、フィーが嫌なら取り捨てて帰れば良い。そのモノ達は後は自分で思うように行動するだろう」


「そっか、じゃあ、一緒にザクの家に返っても良い?」

 捨てて帰るのは可哀そうだし、連れて帰っても良いのかな?


「フィーがそれを望むなら受け入れよう」

「うん、ありがとう」


「ああ、だが、その土の身体は連れて行けない。帰ってから、何か他の身体を与えてやれば良い」

「じゃあそうするよ」


 そうして、ザクに縦抱きにされ、ハヅチ族の村に転移した。


 すると、ハヅチ族の村の広場に開かれた転移門の前に、皆んなが勢ぞろいしていた。どうしたのだろうかと思い、ザクと寄り添い宙に浮かんで皆んなの近くに行くと、気づいて皆んなが平伏する。いやいや、もうホント、ご勘弁願いたい。


『大神様、森神姫様、大変に感謝致します。生活が、落ち着きましたら、必ず祭壇を設け、毎日感謝の祈りを捧げます』


 ツチ族の族長の挨拶が済むと、最初に屈強な男達が門を潜り、その次に子供を連れた母親達、そして年寄りと続いて門を潜って行く。最後にもう一度頭を下げ、族長が門を通り抜けると、いくつかの光の玉が追うように門の向こうに消えた。


「彼らが行く南は、西の国から国境を越えれば直ぐだ。過去の西の国と帝国軍戦争の戦場となり、大半の国民を失い、128年かけ復興に力を入れて来た。エルメンティアが復興援助に携わっている」

「じゃあ、住む場所もあるの?」


「身一つで行っても、移民の受け入れにも力を入れているので大丈夫だ。もし次に北や東の国との戦いがあっても、戦場となるのは東の国だ」

 それならば、安心だ。少しほっとした。



 全て見届けて、ザクと小さな光の玉と帰路につく。ほの青く光る魔法陣に2人向き合って両手の指と指とをを絡めた。グルグルと景色が変わり、そう時間はかからず戻ってきたのはザクのお家だった。お家と言うにはちょっとアレだが、ここが今や一番落ち着く我が家なのだった。


 その屋敷の離れで二人ソファーに寄り添い、そして向かい合ってお互いの魔力を流し、受け取り、相手の体調を確認し合う。

 ザクは、沢山魔力を使ったから、小さな魔力の澱(おり)でも溜まりかけているかもしれない。そう思うと不安になるから、丁寧にゆっくり浄化をかけていく。

 小さな光の玉もまだ身体を決めていないので、屋敷の中でふわふわと好きに飛び回り楽しそうだ。


 その内に、思ったよりも疲れていたらしい私は、うとうとし始めてしまい、最後にはザクにもたれて眠ってしまった。その私に魔法で浄化をかけ、ベッドまで運んでくれたのはザクだった。


 なんかもういろいろあったけれど、今日もザクと一緒に過ごせてとても幸せでした、まる。


 ああそうだ、一つ言うならば、今日ザクが飛ばせて見せてくれた銀の小鳥がとても可愛くて綺麗で良かっので、ミニ君は小鳥さんにしてあげたいな。





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