第32話 運命の輪

 氷の水晶宮と呼ばれる美しい宮殿は、精霊障壁と言うオーロラの様にきらめく薄い膜に覆われれている。

 そして、宮殿の外にそれを取り巻く様に立ち並ぶ、貴族、商人、庶民の住む街を包む市壁もまた精霊障壁に包まれ、二重に守られている。王都は北の国という事を忘れさせる様な恵まれた環境にあった。


 だが、長年の王族による精霊の酷使により、精霊は消滅し始め、すでに王都以外の領土は荒れ果て、北の国の存続自体危ぶまれた状態にあった。国土の半分以上が永久凍土と言われる北の大国は、実に精霊の命を酷使して成り立っている国に過ぎなかったのだ。


 では、何故その様な国の在りようにしてしまったのか、それにはとても馬鹿馬鹿しい理由が有った。


 この世界オリジェントを造った双子の兄妹神、妹神のゼクライエは、自身の兄に対する盲執のあまり世界を二等分し、ノワイエごと世界を飲み込もうとして負け、北に引きこもったと言われる。そして残りの力を振り絞り、呪いを放ち、眠りについた。


 実際には、その呪いさえ成就すれば彼女はノワイエを手にいれられたのだ。果たして、その心が手に入れられなかったとしても。


 ゼクライエはネクシーズの王女として生まれ変わった。

 何も知らない者達は、白銀の髪に、薄紫の瞳を持つて生まれた彼女を神の再来と崇め奉った。


 北の国、ネクシーズの現女王は、先祖がえりと言われる。

 だが、成長するにつれ、その中身は破壊と殺戮を好む、常軌を逸した存在だと知った。ネクシーズはその時既に、滅亡へと突入していたのだ。


 王族も民も逆らえば首を刎ねとばす。執着は遠い西に向かい、精霊の力を使い、西へ西へと手を伸ばし、叩き潰され、それでも諦めきれない。




   ※   ※   ※




 それはもうすぐだった筈なのに……

 全てはノワイエを手に入れる為の道具でしかなかった。

 生まれ変わった後世で、ノワイエを自分の物にする為のもの。

 そして、自分も血肉を持つ者として生まれ変わり、時を待った。

 北の国の領土など、民の命など、王家の血筋など、そんなものはここまで来れば何の用もない。

 後はノワイエを、兄上様を、私と同じ様に真っ黒に染め上げて、手に入れる筈だったのに……。

 



 128年前にも手に入れ損ね、今度も又、邪魔が入り、怨念と盲執と愛憎のドロドロに混ざって腐臭のする瘴気を撒き散らしながら、城の中で喚き散らす。

 すでに城の中から残っていた王族も、貴族も全て逃げ出していた。


 救われないことに、それほど求める相手は、綺麗さっぱり前世の事など忘れ、何の憂いもなく、前世に愛した小娘とまた共にいる。

 憎きはその巡り合わせ。






 憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、

 憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、

 憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、

 憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、

 憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、

 憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、

 憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、

 憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、

 憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、



 誰を憎む?


 あの娘が、憎い!


 だが、私を見てくれぬ、兄上様は、もっと、憎い!


 黒い怨念の塊となった穢神ゼクライエの成れの果て。城の床を這いずりながら怨嗟の言葉を紡ぐ。





 既に、精霊達は、己の王を守る為に間違った選択を重ね、その殆どが消えかけていた。残る王都も氷の柩に囚われているフェリアノールの命を吸い取りながら永らえている。


 小さき精霊達は、フェリアノールが黒い女神に呪縛されたとき逃げ出した。

 自分達では、黒い女神が近くに居るだけで、消滅させられてしまうだけだ。でも、強い精霊達は強いが故に残り、フェリアノールの命を盾にとられ言うことを聞かされてきた。


 だけど、結局は強き者たちも逃げられず、酷使され、力を吸い取られ消えてしまった。


 何とかしたかった、でも何も出来なかった。


 西にはもう一人の神の気配がして怖かった。だから行けなかった。

 ーーーー 小さき精霊達の断片の記憶 ーーーー





   ※   ※   ※




 フィサリス辺境伯の領地に設置された転移の門から、第1魔法師団 50人、第2魔法師団 50人、第5魔法師団50人、第6魔法師団 50人が城から転移して来た。フィサリス辺境伯の領地で予備演習後、南の大陸、ロードカイオスの国境に出向き、合同演習を行う為である。


 ロードカイオスは王制ではなくそこにある全ての小国が特色ある商業都市になっており、代表は選挙により選ばれる。全ての国から決められた割合の数の兵を出し、連合軍として、エルメンティアが統制を取りはかっている。また移民の受け入れも行なっており、東からの移民も受け入れている。もちろん、エルメンティアでの128年前の対戦前のような裏切りや内通者を防ぐ為、移民は魔法契約書を交わし、国への裏切りは行えないシステムになっている。対外的に代表国はハサドとなっているが、全ては、代表会議で決裁される。



 軍隊の合同演習目的は、東への“兵力の見せつけ”で有るが、小出しにして、向こうが手を出したらついでに叩き潰す気は満々だったりする。


 特には、ジクバの竜騎兵と、ドーサの獣人兵には注意が必要だ。東には支援事業として結界に関する魔道具の導入を東に展開している。

 魔法使いの敵ではないが、もしも、結界を破り、庶民から狙われれば国民の大半を失う事となる。



 この、ロードカイオスの合同軍事演習にザクとフィアラも参加していた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る