第24話 コモーナ侯爵領の幽霊屋敷4

「もうすぐ日が暮れますし、今日は出直して、取り敢えず明日午前から、屋敷の周りを探索致しませんか?」


 コモーナ侯爵の有難い申し出を受けて、若干1名ホッとしている人が見受けられたのだが、確かに暗くては、見つかるものも見つかるまい。


 と言うことで、取り敢えずは宿泊する館に馬に乗って向かった。

 日が落ちる前の湖の景色は、湖面が夕日に輝いてとても美しかった。


 振り返って屋敷の方を見ると、赤毛の少女が湖の側に立って居るのがみえた様な気がして、思わず走っていた馬を止めて、少し引き返した。


「フィアラ、どうした?」

 後ろに居たジュディも止まる。


「あ、ううん、気のせいだ、ごめん行こう」

「?ん、分かった」


 館に着くと、其々の部屋に案内された。夕食まで自由にして下さいと言われ、充てがわれた館の3Fにも客専用のサロンがあったので、皆と集まりそこでお茶を飲みながら話しをした。


 お茶を淹れてくれたメイドの女性が割と年齢が40越えている位なのかなと思い、長く勤めているのならば何か知っている事はないだろうかと思っていると、同じ事を思ったのかヴィルトさんが彼女に声を掛けた。


「あの、すいません、貴方はずっとこちらの屋敷にお勤めなのですか?」


「はい、そうですね、だいたい…23年前からお勤めしております」

 

「じゃあ、コモーナ侯爵の亡くなられたお姉さんとお会いになった事は?」


「…お嬢様とお会いした事はございます。お言葉を交わした事は一度だけですが」


「えっ、それはいつ頃のお話しですか?」


「はい、確か…勤め始めた翌年の事ですから、22年前位になります」


「それで貴女はいつ何処でお嬢さんとお話になられましたか?」


「確か…こちらの別荘に荷物を取りにお寄りになられた時です、丁度玄関周りの掃除をしていたのでお嬢様から声を掛けられたのです」


「何と声を掛けられたのですか?」


「荷物をこの屋敷のお嬢様用の部屋に置いているので取って来て欲しいと言われました」


「その時、お嬢様はどんな格好をなさってました?あと、荷物と言うのは何だったのでしょうか?」


「格好は…そう言えば、乗馬の途中でフラリと寄られたような格好をなさって居ましたが、それにしては屋敷から距離があるので少し不思議でした。普通は来られる時は馬車で、ご家族か誰かとご一緒でしたので。…それと、荷物はトランクです」


「失礼ですが、それは間違いなく此方のお嬢様でしたか?」


「ええ、間違い御座いませんよ。お嬢様は珍しい髪の色をなさっていましたし、とても美しい方でしたので人間違いなどは有り得ません」


「荷物を取りに来られた後、どうされましたか?」


「馬具に荷物を括り付ける様に仰って、下男がその様にすると、慌てて馬を走らせて出て行かれました」


「なるほど、その後お嬢様を追って誰かこの屋敷に来たりする様な事は無かったのですか?」


「 さあ、私はその後は使いに出されて買い物に出たので…ああ、その時の下男のバルクは週3日位はまだ此方で仕事をしておりますので、もしかしたら、何か覚えているかも知れません。多分、明日は朝から来ているはずです、お話をされる様でしたら旦那様にお伝えしておきますが?」


「では、お願い致します。少しお時間を取って頂けたら有難いです」


「分かりました、そのようにお伝えしておきます」


「後、他にその当時働いていた人は他にはいらっしゃらないのですか?」


「ああ、7〜8年前にこの地方はタチの悪い風邪が流行りまして、高齢者等はかなり命を落としましたので、人も入れ替わりました」


「うーん、そうか、そういう流れで様々な事が余計に分からなくなっているんですねえ」


ヴィルトさんは考え深げに顎に手を当てて首を傾ける。


「もしかしたら、お嬢さんが当時、ここに来たのは、あの幽霊屋敷の件と直接関係する話しなのかもしれないな、バルクと言う人にも聞いてみよう、なにか他に分かる事があるかもしれない」


 翌朝、コモーナ侯爵がバルクさんと言う下働きをしている50歳過ぎの男性を呼んで下さったので、話を聞くことが出来た。


 メイドの女性が言っていたお嬢様が馬に乗ってやって来た日と言うのは、印象深い出来事だった様で、彼もよく覚えていた。しかもお嬢様が馬に乗ってやって来た日にお嬢様を探しに前侯爵の寄越した領主館の私兵らしき数名が馬でやって来たと言うのだ。


「それで、バルクさんは、その男達が何か話していた事など覚えていませんか?」


「…それが、言って良いものなのかどうか…」

バルクさんは、何か迷っている様だった。


「バルク、もう父も姉も居ないんだ。何か知っている事が有れば話しなさい。責任は私が持つ」


 コモーナ侯爵が、彼に声をかけてくれた。


「…はい、厩の影に居た私に気付かずに、男達の一人が話していたんです。…お嬢様を唆した男は、旦那様の言われる様に、殺して共同墓地に埋めたと…。後は、お嬢様を連れ帰るだけだと…」


 話し終えたバルクさんは、ずっと心につっかえていた事を話す事が出来て少しホッとしたと言っていた。


 結局、その日は領主館に逆戻りする事になった。

 近くの共同墓地を探す事になったのだ。


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