第19話 神々の宝箱3

エズノア伯爵領の第1遠征部隊に入っていた私は、発表されたあと直ぐに屋敷に帰り、支給されている収納魔法の付与された遠征バッグに荷物を詰めた。


 ザクから連絡が屋敷に来ていた様で、シルクが既に必要な物を用意し、後は詰めるだけにしてくれていた。ありがたい。

「お嬢様、決してご無理はなさらないで下さい」

「うん、わかってる、大丈夫」


 フロスティーからは、ザクは仕事で帰れないので手紙を預かっていると言われ、その手紙を貰った。


 寝る前にベッドの上に座って手紙を開いて読む。

 その手紙には、『今回の仕事のカタが付いたら美味しいものを食べに行こう』と書かれていた。よしよし、気合はいったぞ!がんばる。



 すると、手紙が形を崩し、淡い紫の蝶になった。

 ふわふわと飛んでフィアラの右肩にとまった。

 私の好きな人の気配がする。


 そっと優しくその蝶にキスをすると、突然かき消えた。


 『あれ…消えちゃった』






 翌朝、7時には朝食を紫苑城の方で食べ、直ぐに出仕し、第一遠征部隊15名でエズノア伯爵領へと向かった。


 向かったと言っても、ダイロクに近くの中継地点に送ってもらったのだ。


 第1遠征部隊の隊長は、第1師団長のニキル・マルク師団長だ。強力な水魔法の使い手で、治癒系の魔法も使える。性格は温厚。昨年前師団長が家督を継ぎ、領地へ戻る為退団されたので、まだ若いが、副師団長だった彼が師団長に上がった。


 副隊長には第二師団、副師団長のゼムス・バーキンがついた。彼は炎系の強力な魔法の使い手で、魔法師団内随一の炎系魔法の使い手と言われている。性格はさっぱりした性格だが、怒らせると恐ろしいらしい。


 本日夕方ぐらいにエズノア伯爵の兵士達が『神々の宝箱』に向かう事が分かっていたので、まずはその阻止と、エズノア伯爵の捕縛をする。


 その間にエルメンティアから、伯爵領の手入れを行う役人と文官、兵士等が送られて来る。

 また、その領地の状態によりエルメンティア城から送られて来る者達の人選などもあるだろうから、ザクも何かと忙しいはずだ。ダイロクもその間に今度は、中型の転移門を設置するだろう。


 フィアラが付いていたエズノア伯爵の館の方は、前調べ通りユルユルの結界で、結界破壊はダイロクの魔導具を使い、あとは赤子の手を捻るような状態だった。抵抗と言えば、伯爵家は水系の魔法を使える家系だった様だが副隊長の威圧だけで水を出す事も出来なかったようだ。、領主などは執務室に乗り込んだのが魔法師団だと分かったとたん、腰を抜かし動けなくなった。



 後は魔法が少しでも使える貴族はダイロク製の魔道具で封じ、伯爵とその家族、悪事に加担した者は領主館の牢に捉えられた。


 その後は、漁師町や領内の人々の様子を確認するために、まず町の町長の家を訪ね、怪我人や病人がが居ればその手当をし、不衛生な場所は浄化して回った。貧しい人々の生活をひとまずなんとかする為に支援物資を配って回った。


 すでに領主館で働いていた者達への聞き取りは始まっており、済んだ者達から家に帰る事を許されている。領主館の庭にはキャンプが張られ、炊き出しもエルメンティアから別便で送られた者がテキパキとこなしあっという間にキャンプ地が出来上がっていた。



 さて、問題はこの後だ。

 ここに来た目的の『神々の宝箱』の固定作業が残っているが、今からまた会議が領主の館で行われ、明日の予定が出るだろう。


 私は全身に浄化を自分でかけてサッパリした後にキャンプ場で食事を摂りに行った。自身に浄化能力のない者には、浄化の魔導具がダイロクから遠征用に貸し出されている。自分の魔力を変換して使えるのだ。ペンダントタイプの場所を取らない物なので遠征中は有難い。


 浄化は私自身の得意な魔法だが、やはり湯に浸かりたいと思ってしまう。この頃では、贅沢に紫苑城や、あの離れでも、たっぷりの湯に浸かり、ちゃぽちゃぽするのがお気に入りなのであった。こういうのは、やっぱり前世の記憶に気持ち良いものとして残っているからなのかも知れない。


 この世界では、庶民が毎日風呂にはいるなんて、まずない事だったからそう思う。身体を水で流す流し場はあるけれど、まずバスタブなんてものは庶民の家にはないのだ。水道なんてものがないので、手動で井戸から水を汲み上げるので、重くて桶に入れて沢山は運べない。

 

 紫苑城や離れでは、魔石が組み込まれた仕掛けがあちこちにあるので、自分の魔力を通せば、水を流したり、火をつけたりととても便利だった。



 同期の第1師団に居る、メリーアン・オーマが今回一緒だったので、彼女とトレイに順番に料理を乗せベンチに座り食べる。メリーアンは強い風魔法が使える。身を守る事も戦う事も、魔力の扱いがとても上手い。魔力の繊細な扱いが上手いという事はダイロクにも向いていそうだが、本人曰く、体を動かす方が性に合っているそうだ。


「食事班のお陰で、こういう場所でも暖かい食べ物もスープもあって、幸せですね」

 メリーアンは直毛の金髪を一つに括り、女子にしては背の高い物静かな深く青い目をした人だ。外見的には少しヘレナと似ている感じだ。


「野菜も麺も、穀物パンも魚と芋の揚げ物も美味しい。暖かくて美味しいものを食べられると、元気が出るね」

 本当に美味しくて、私はパクパク食べた。


「フィアラジェントは本当に美味しそうに食べますね、私もしっかり食べて明日も働きます」

 くすりと笑って、メリーアンもしっかり夕食を摂った。


 夕方の会議の後、明日のダンジョン固定の予定が連絡された。


「まず、ダンジョンの固定は、隊長、副隊長、浄化師2名が行く、総師団長から言われている。先ずはエズノアが汚したダンジョンを浄化しながら潜る。武器は必要ない」


 総師団長と言われて、なんかもう急にザクの元へ帰りたくなった。こんな事じゃだめじゃない、もうっ。


 アレ?浄化師2名って、それ、私入ってるよね!うーむ。

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