第18話 神々の宝箱2
その日、第5師団のミーティングで、『神々の宝箱』の説明が有った。
まず、『神々の宝箱』とは、そもそもは貧しい土地に贈られる、神からの祝福の様なものであり、付属で付いて来る『古(いにしえ)の魔道具』は、領民にとってはどうでも良いものだという事が分かった。
なぜならば、『古の魔道具』とは使う者を選ぶのだ。
古(いにしえ)の魔道具は王族の中の、選ばれた者のみが扱える魔道具である。
その威力、効力は使う王族の魔力により稼働し、変化するのだ。
つまり、もし、その魔道具をどこかの貴族の魔力の高い者が使おうとも、扱える訳でもない。それは王族の血に反応するのだから。
しかも、王族であれば誰でもが使えるという訳ではないのだ。
近年では、三代前の王が使っていたという記録があるそうだ。
あれ、でもこれってそうだよね……。
私の身に着けているチョーカーと、指輪がそうだ。
それは強い、ザクの魔力(ちから)により、私を守っている。
だが、エズノア伯爵の様に、人の欲を『神々の宝箱』に持ち込めば、神の怒りを買う。ダンジョンの中には、効力の高い薬草や、珍しい果物、滋養の高い野菜、そして、鉱物など、季節によって移り変わる、その地に住む善良な人々を豊かな暮らしにするものがあるのだ。
その神からの恵みを欲で汚せば、その土地ごと奪われるらしい。
古い記録によると、過去、そのような事が起った時には、大雨や地滑り等の自然災害が起こり、その土地ごと崩壊してしまったという話も残っているようだ。
― 神の恵みを汚す勿れ ―
だが、エズノア伯爵はそんな言われ等とうに忘れ、古(いにしえ)の魔道具に目が眩んだ様だ。
かの魔道具が王族以外の貴族に渡ることが無かったために、自分たちの都合の良い様に曲解してしまったのだろう。
「まず、やらなければならない事は、エズノア伯爵を捕縛する事。『神々の宝箱』が現れ、エズノア伯爵が初めの私兵を送ってから既に3日経過している。全滅しているのに、また次の私兵を送るつもりでいる。それを阻止しなくてはならない」
エズノア伯爵領は、さすが僻地に在るだけあって、まるっきり魔法師団の実力がどういうものなのか分かっていないものと見える。自分たちの悪行が筒抜けになっている事さえ気づいていないのだ。
『神々の宝箱』を確認した時点で、王都に報告を送ってさえいれば、魔法師団が危険のない様に処理し、ダンジョンを固定してくれたのだ。
後はエズノア伯爵領の物となるだけだったのに、何も分かっていない。
聞いていた、魔法師団の皆は『阿保だな』という表情をして、近くの同僚達と顔を見合わせていた。
古(いにしえ)の魔道具が出た場合、それは王家の物となる。だが、それは当たり前の事だ。貴族が持っていても使えはしない。エズノア伯爵のしている事は王家に対する反逆罪になるのだ。
「今日中に、遠征メンバーを選び出し、明日朝には何箇所か経由し、クプッカに跳ぶ」
その後、クプッカの地理、領地の情報を共有し、第5師団遠征用の薬や荷物を皆で手分けしてダイロク管轄の地下に運んだ。後方支援に回る事になるのだ。自分達の得物(まどうぐ)も用意しておかねばならない。
※ ※ ※
一方、エズノア伯爵領ではー
まず、『神々の宝箱』の出現に、エズノア伯爵は小躍りした。
地震かと思われたが、近隣の領民が、岩山付近に大きな洞窟が口を開けて居るのに気づき、中に入ると、不思議な事に、淡く光るコケで洞窟の中は明るく、中にはとても良い香りのハーブや薬草らしき物が生えていた。それを摘んでもまた新しく直ぐに生えて来る。
驚いて、近所の者達を呼び、もっと奥に入って見ると、地下に降りる迷路の様な階段があり、降りて見ると見たこともない珍しい生り物が成る樹が生えて居る。一口齧ると甘く、えも言われぬ甘い芳香がした。
皆で分け合おうと、大喜びで村の者を呼び集めていると、騒ぎを聞きつけた領主が、兵士を連れてやって来た。
領主の税の取り立てで、貧しい暮らしをする領民は喜んだのも束の間、領主の物に勝手に手を出すとは何と不届きな事だと、領主の命令で、集まっていた漁村の者達は兵士に酷く打ち据えられた。その中には幼い子供も居た。
そして、兵士に洞窟の入り口を見張らせ、誰も近づけない様にした後に、古(いにしえ)の宝を手に入れる様に命令し、10名の兵を洞窟に入れた。
すると不思議な事に、洞窟の中は一転真っ暗になり、松明を灯している間に中には緑色の小さくて凶暴な魔物が出て来て、あっという間に兵士は皆食い殺されてしまった。中では逃げ回り断末魔の叫びを上げる兵士達の悲鳴が響いた。
生き残りがたった一人、腕や脚を無くして這いずりながら出てきたが、力尽きて死んでしまった。
だが、エズノア伯爵は諦めなかった。
次は魔物対策で武装して洞窟に入れば大丈夫だと、松明(たいまつ)に武器、食料を持たせる。
その第二陣が領主の館から送られ、洞窟まで来た時、突然、大量の水が洞窟から吹き出る様に発射された。
何が何やら分からぬうちに、水圧に飲まれ、巻き込まれてその殆どが気を失っている。
「う、ううっ」
その中でまだ意識を保って居る者がいた。
「成る程、少しは魔力がある者も居るのだな」
第1師団長のニキル・マルクは感心した様に言った。
だが、魔法師団の攻撃部隊の者ならまず避けているレベルだ。
さっきのはちょっとしたニキルからのご挨拶だった。
『本来なら、今日は愛する坊やの一歳の誕生日を家族で祝うはずだったのに、邪魔をしてくれてーどうもありがとう!』
と、一発お見舞いしてみた。水色の隊服がとても爽やかだ。
「よし、皆、捕縛しろ」
洞窟入り口に居た見張りはさっさと片付けて縛って転がしてある。
「さて領主の方は、どうなったかな」
洞窟前で待機しているのは、ニキル含めて5名だった。
領主の館には、10名行っている。
そちらには浄化師2名、治癒師2名が居て、その中にはフィアラも居た。
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