ど庶民の私、実は転生者でした レアな浄化スキルが開花したので成り上がります 【WEB版】
吉野屋桜子
第一章
第1話 前略、ブチ切れましたお母さん
家には私を含めて子供が3人いる。兄と私と妹。
兄は15才で、今年から別の街の学校に行っている。
容姿端麗で頭も良く、この町の学校から推薦を貰い、奨学生として、王都に近い商業都市のスレントの全寮制の学校に入ることが出来たのだ。それは、結構凄い事らしく両親も鼻高々って感じだった。
妹は12才、私と一つ違い。金髪と碧眼は、誰もが口を揃えて美人だと言う母譲りで、それは兄と同じだ、兄妹はよく似た容姿をしている。
私は、父親似でこの国で珍しくも無い茶色の髪とほんの少し緑がかった薄茶色の瞳をした、まあ、取り止めて語る事のない普通の容姿をしている。
たぶん、ブサイクでは無い。
もう一つ付け加えると、母親は子爵家の四女だったが、友人を介して知り合った学校の教師で庶民出の私達の父親と出会い、親に黙って勝手に遠くの街で結婚したらしい。子供も生まれて、結局は子爵家では認めるしか無かった様だが、そのまま疎遠になっている。
金髪碧眼は、庶民にはめったに居ない。
何故ならば、この国の庶民は多少の濃い薄いは有れど、皆、茶色の髪に茶色の瞳だからだ。
もし金銀の髪や特別な他の髪色や瞳の色を持つ庶民が居るとすれば、それは貴族の血縁者であるという事になる。
だから、庶民にとって金や銀のキラキラしている特別な髪色は憧れだったりするのだ。
家の母は、自分の金髪が自慢で髪の手入れに余念がなかった。
だから同じ金髪の、兄や妹の髪もいつも母に手入れされキラキラしている。
母は全く家事はしないけど、金髪の手入れや私以外の兄妹の衣服を選ぶのはとても好きなのだ。
そして、この世界には魔法があった。でもそれは貴族に限られた能力で、能力の強さは遺伝によるらしいので、高位貴族ほど魔力の強さは強く、家の母親の実家の様な底辺貴族では、生活魔法程度の魔法を扱うのだという話だが、それでも、全く魔力を持たない庶民からしてみれば、夢の様な力には違い無い。
でもまあ、そんな魔法の知識は、庶民の中で言われている話を、あちこちで聞きかじった程度の話なので、どこまで真実かもわからない事だった。
容姿の良い兄と妹を私の両親は溺愛している。特に母にとっては、目に入れても痛くない様子だ。
兄と妹の為ならちょっとくらい無理しても質の良い衣料品を買い与える。
私が切り詰めて食料品等の買い物をしている努力は、いつもそれでパアになるのだ。
私?私には似合わないので必要ないらしい。性格もサバサバしていて親については諦めも早かったし、よく愛想のない可愛げの無い子だと、事あるごとに母親に言われたものだ。
良いものは上と下に与えられ、私には無いよりマシ程度のモノが与えられる。
幼い頃からそうで、とにかく見目の良い者は特をするのだと言う事が身に沁みた。
ただ、私は学校の勉強が好きで、兄ほどでないにしても幼い頃から成績はとても良かった。
だから、奨学生にもなれると先生にも言われていたので、13才で基本教育が終わったら、この町の上の学校に行くつもりでいた。
最終学年の今年、先生に上級学院の奨学生の基準に達しているので、親に相談してみなさいと言われ、その事を母親に言った。
けれど、母が言うには、妹が14才になったら兄の居るスレントにある女子学校へ入れるつもりで、お金がかかり大変なので、その学費等の為に基本教育が終われば、私は上の学校を諦めて働かなくてはならないのだと、そう母は私に言った。
父の学校教諭の給金であれば、兄は奨学生なので、普通に暮らせば十分にやって行ける筈である。しかも私がこの町にある上の学校に奨学生として通うのであれば、お金はそれ程かからないではないか。
庶民が、学校推薦の奨学生として上の学校に行けるというのは、普通の親ならば有難がって大喜びする話である。
実際、過去に兄が学校からその話を持って帰り母に言った時、母が躍り上がって大喜びしたのを見た覚えがある。
だから、私の時にも喜んでくれると思ったのに、それは大きな勘違いだった様だ。
意味が分からない、妹は勉強が好きではないので成績はいつも下から数えた方が早い。どうして私でなく妹が街の学校に通う必要があるのかと問うと、あの子はとても容姿が良いので、上の学校に行かせればより良い結婚相手が見つけられるからだと言うのだ。
じゃあ、私は? 私はどうなの?
私はあんた達にとって何なのだ、兄や妹にはさせないような冬の水仕事や家の力仕事、食料品の買い出しから食事の支度。風呂掃除、家の掃除も。
まるで、タダで使える家政婦じゃないか?
私がある程度の年齢になり使える様になると全てを私に押し付ける様になった母親。いつもそうだった。
こっちを見て欲しくて、初めは聞き分けのいい良い子でいた。
でも、それはムダなのだと分かってしまった。
今までの積み重なった鬱憤が吹き出しそうになり、何とか飲み込んだ。
ここで怒鳴っても、泣いても、結果は変わりはしないのだ。妹と一緒に使っている部屋に戻る。妹は遊びに出ていてまだ家に帰って居ない。
部屋を見回せば、半分けにしている妹側の華やかな小物や装飾品に比べて、淡白で味気ない、飾りも何もない自分側の部屋が悲しかった。
本当なら、学校から帰れば夕食の買い物に行かなければならないが、そんな事はもうどうでも良くなった。
私が居なければ、母か妹がしなければならない事が沢山ある。
2人で仕分けしてやってみれば良いのだ。2人ですれば一人でやる半分の時間で出来るだろう。
でも、両親も妹も、私が居れば必ず私を当てにする。もう、いいように使われてなるもんか。
学校の事は、少しだけ残っていた親への信頼も何もかも私から根こそぎ奪って行ったのだった。
上の学校に行けないのならば、学校の先生になると言う夢も見るだけ無駄だ。だったら、もういい。
私はずっと、早く自分で働いて自立出来るようになるのが夢だった。それだけを楽しみに頑張っていたのに・・
あまりの怒りでグルグルと頭の中にとりとめもない事が回り、心の中を嵐が吹き荒れて立っていられなくなり、それが静まるまでしばらく床に座り込んだ。
その間に、私の頭の中には、此処ではない世界の白昼夢の様な映像を見ていた。
その世界では日本という国で暮らし、大人になるまで生きた時の記憶の断片が、今までの私の可愛げのないと言われて来た確固たる、ものの分別に繋がっていた事に気付いたのだ。
それが通り過ぎると、私は立ち上がり、素早く使われていない兄の部屋へ入ると、兄の服に着替えた。
この家を出なくてはならない。
今は使われていないリュックに着替えを詰め、左右で三つ編みにしていた髪の根元にハサミを入れ切り落とす。
切り落とした三つ編み二つは巾着に入れ持っていく事にした。髪はお金になるっていうしね。
ついでに兄の帽子も拝借する。どこから見ても普通に居そうな少年姿だった。
それに兄の物を私が少々頂いたからといって、後で母親がアレがないコレがないなどと気づく事も無いだろう。
家の中の片付けすら全て私が行って来たのだ。
母が客間で訪ねてきた父の姉と話しをしているのを確認して、台所に向かい、食器棚の奥に隠された母親のヘソクリを取り出す。
昔から母親があそこに結構な金額のヘソクリを隠していたのを知っていた。
給金替わりに頂いて行く事にする。
そうして、裏口から家を出てすぐに乗合馬車の乗り場に向かった。
何人かの知り合いとすれ違ったが誰も気づく者は居ない。
それはそうだろう、エルメンティアでは女性は庶民でも皆、髪は長く伸ばしているものだからだ。貴賤は関係ない。
女の子がこんな風に髪を短くするような事はまず無いのだ。それで、こんな風な恰好をしていれば、男の子にしか見えないという訳だった。
今からだと馬車の最終便で安全な街道沿いに夜走り、朝、ミレアニスと言う町に着くだろう。
そうすれば其処からは、王都方面に向かう馬車か、川下りの船で河口近くまでのいくつかの町に立ち寄るコースがある筈だ。
そのどちらでも良かった。気の向くままに行けば良い。
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