29 私たちに出来ること

 刹那、すさまじい量の水がメグル達を襲った。例えるなら消防車に水をかけられている感じ、海外でデモ隊とかが食らっているあれだ。

 もちろんドゲラの水線をもろに浴びれば原形なんて残っていない。水が勢いを失い、溺れそうになっていたメグルががむしゃらに息を吸った。そして目を開いた先に映っていたもの、それは悠然と構える、水素の巨人の姿だった。


「なんで……?」


 メグルの口からそんな言葉がこぼれ出る。あれだけ来るなと言った、あれだけ戦うなと言った。だが超人は、誰かの叫びに答えるようにそこに立っている。


「ギンギラ!? 生きていたのか!?」


 水に襲われる中、カツコはその一部始終をハッキリと目撃していた。ドゲラが水を吐き出す直前、突如現れたギンギラがその勢いのままドロップキックで頭を蹴り飛ばしたのだ。結果として、水線は反れてメグル達は直撃を免れた。


 両腕をもがれとどめに頭部への重い一発を食らったドゲラは、倒れたまま起き上がることはできない。そしてその場に立っている二体のアウトバースが相対する。


 嵐の前の静けさだ、しかしそれはすぐに破られる。


 突如、ギンギラの背後に何かが着弾した。ギンギラにとってはちっぽけな物だがそれでも侮れない。爆炎を食らいよろめくギンギラ、続けてイージスの障壁にも同じように何かが着弾する。Kフォースの攻撃だ。低空を飛行する戦闘機『エンバー』隊が対獣ミサイルを二匹の怪獣に向けて次々と放っていく。


「着弾確認、これ以上被害を広げるな!」


 メグルの後で、カツコが無線機片手に淡々と命令していた。そこにはメグルの知っているカツコはいない、まさしく正真正銘歴戦の兵将の姿だ。


 だがKフォースが攻撃している相手はただの怪獣ではない。人間の心を持つ、たぶん幼い少年なのだ。


「カツコさん! 攻撃やめて!」


 メグルはカツコの無線機にしがみつき叫ぶ。


「ちょ、メグルちゃん!? どうしたのみんなもう乗ったよ。ほら、パンピーはさっさと帰りなさい!」


 カツコはいつもの調子でそう言うが、メグルとしてもここは引き下がれない。感情に任せて真実を放とうとしたとき、何者かがメグルの口をふさぐ。


「すまんなカツコ、このバカは俺が預かる! 撮影に戻らせてもらうぜ!」


 タイガだ。タイガがメグルを羽交締めにして、無理矢理カツコから引き離したのだ。タイガは抵抗するメグルの頭にチョップを叩き込み、そしてカメラを無理矢理押し付ける。


「いいかメグル、今自分に出来ることを考えてみろ。ここであいつのことを話しても信じられると思うか? 違うだろ。じゃあ俺たちにできるのは、この手で真実を伝えることだ!」


 その言葉にメグルははっとなる。真実、つまりそれはギンギラが無害だということを世界中に拡散させること。それができるのは、すべてを知っているKKCだけだ。


「やるぞ!」 


「……うん!」


 いつだって世界を救うのはヒーローだ。しかしヒーローを救うのは、いつだって人間だ。

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