27 作戦開始
決戦の日。曇天の空の下KKCはカメラを構えていた。降水確率60%という高い確率だったが雨は降らず視界も良好。バッチリとポジショニングをし、イージスをフレームに捉えている。
「では今回の作戦計画を改めて解説します」
KKCは2時間前から生放送を始めていた。もちろんエイタは連れてきていない。Kフォースの作戦の邪魔になるかもしれないし、放送の手伝いもたいしてできないからだ。エイタ自信もそれで納得してくれていた。
「あいよ、KKC軍事担当のタイガだ。時間的にこれが最後になると思うからよ~く聞いといてくれよ」
今回の作戦はシンプル。地下に仕掛けた爆弾の上にイージスを誘導して爆破、これを相手が死ぬまでやる……と言いたいところだがそうは行かない。爆弾が仕掛けられる地点は七ヶ所に限られているからだ。これでも倒せなかった場合、いよいよ大量破壊兵器が使用される可能性もあるとタイガは言う。
「まあ足元で核爆発が起きれば、どんなやつでも死ぬだろうな」
もちろん、そんなことをさせないためにKフォースが全力を尽くすのだ。
時計の長針が、11の文字をいよいよ回った。どうしようもない緊張感が撮影現場に重くのしかかる。時計の針はそんなことお構いなしに、12の文字に走っていく。
そして遂に三つの針は12の文字で重なりあった。
刹那、イージスの足元のアスファルトが吹き飛び、その下から昇る爆炎がイージスの全身を包み込む。まるで火薬庫をひっくり返したような爆発。3秒ほど遅れて、花火とは比べ物にならないほどの爆音がメグルのカメラを震わせた。
「たった今Kフォースによるイージス撃退作戦が始まりました! 繰り返します、イージス撃退作戦が開始されました!」
爆音で耳鳴りが止まない中、メグルが必死にアナウンスする。一方、タイガは爆音に怯むことなくこう笑った。
「はっ、いい目覚まし時計じゃねえか!」
その爆発はイージスの目を覚ますには余りあるものだった。爆音に遅れて響いたのはイージスの絶叫、壊れたスピーカーが放つような耳に刺さる高周波音だ。今、完全無欠の障壁超怪獣は初めて痛みというものを知った。
瞬間、黒煙を打ち払うようにイージスのレーザー光線が放たれる。実際にはそこに狙いというものはない。ただ無差別に、研ぎ澄まされたレーザーが辺りに走り瓦礫を溶断していく。
「すさまじい切断力! 名称するならレーザーメスといったところですかね!」
それを見て喜ぶのは怪獣バカだけだろう。実際、横のバカはとても嬉しそうだ。
爆発により陥没した地面を踏みしめ、イージスが前進を開始した。その姿は黒く焼け焦げ、爆発をもろに食らったであろうドレスのような部位はボロボロに炭化している。だがそこも、まるでかさぶたが剥がれた後のように皮下から新しい体表が再生されていた。カケルいわく高い再生能力はアウトバースの十八番らしい。つまりそれは、この事態をKフォースも想定していたということだ。
Kフォースの誘導作戦が始まった。イージスの正面に配置されていた無人戦車『ゼッター』が一斉に火を吹いた。その狙いは遠隔操作とはいえ正確だ、イージスが障壁を展開しなければ、顔面に着弾していただろう。無論それも作戦通り、目的はイージスの注意を引くことなのだから。
イージスが眼前のゼッター隊に向かって吠えた。もはやイージスにとって、人間はとるに足らない虫けらではない。放置すれば命に関わる外敵なのだから。
瞬間、ゼッター隊がキャタピラを回し後ろに全力で後退する。直後に放たれたイージスのレーザーメスが最前にいたゼッター一台を真っ二つに切り裂いた。
「さあ始まったぞ! 俺たちも移動だ、急げ!」
ここからの撮影はスピード勝負になる。メグル達は第二爆破地点の撮影場所に急いで先回りしなければならない。ゼッターの最高時速は70kmにもなるのだから。
全速力で後退するゼッター隊。遠隔操作するのは選りすぐりの隊員たちだ。速度を維持したまま交差点を直角に曲がり、なおかつ牽制の砲撃も確実に当てていく。だがそれでも一台、また一台とイージスのレーザーメスの餌食になっていった。問題ない、第二爆破地点には次のゼッター隊が待機しているのだから。
これはリレーだ。イージスをバトンにした死のリレー。バトンの引継ぎに失敗は許されない。
「おら、早く出ろ構えろ!」
「えー、間もなくイージスが第二爆破地点に誘導されます! 果たしてイージスは――!」
メグルが言い切る間もなく衝撃が襲った。イージスに対し、二回目の爆破が行われたのだ。
「――! 見えますかあそこ!? 今、イージスが膝をついています!」
メグルのカメラが捉えたのは爆破に耐えきれず、膝をつくイージスの姿だった。すぐさま立ち上がるイージスだが、傷は先程よりも深く回復も遅い。間違いなくKフォースの攻撃はき効いていた。
「よし、いける!」
メグル達は希望を感じていた、このままいけばイージスを倒せると。タイガでさえも……
いつの世も、希望は脆く崩れるものだ。突如メグルのケータイが、けたたましい音を鳴り響かせた。
「――え!? ちょっとカケル!」
メグルに届いた通知、それは非常怪獣通知だった。そこには地中3キロメートルに巨大な熱源が出現したと書いている。
「熱源はイージスの方に向かってるって! カケルこれって!?」
「この大きさ……この速度……いやバカな、けどこれは……!」
瞬間、地震とも思えるほど地面が跳ね上がり、イージスに向かってまっすぐ亀裂が入っていく。そんなことが出来る怪獣はひとつしかない。
「地虫怪獣ドゲラ……!」
直後にイージスの背後で土煙が立ち上る。地響きと、金属が擦れるような重低音をバックに現れたのは、幾度も人類の前に現れた地虫怪獣ドゲラだった。
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