22 少年A太

「いやー悪いね急に押し掛けて」


 天敵と言うのはいつ現れるわからない、特にこの黄土勝子の場合。完全に不意打ちだった、まさかこんな朝早くに襲撃に来るとは……メグルは冷や汗が止まらない。


「いやー全然、全く、そんなことありませんよカツコさん! どうぞおくつろぎ下さい!」


「あ、そう? じゃあ遠慮なく。ところでそこの子! 隠れてないで出てきなよ、べつにお姉さん恐い人じゃないから!」


 メグルは盛大に吹き出した。カツコの階段の上がる音を聞き慌てて少年を机の下に隠して僅か十秒、なぜかすぐにバレた。妖怪かこの人!? だがそれもメグルの想定内、すぐさまプランBに移行する。


「あ、初めまして。メグルお姉ちゃんのはとこのエイタと申します」


 あのあと少年とメグル達が話し合って決めた設定、これこそプランBだ。この世界では素性がないと何事も面倒だ、なのでここで預かっている間は遠い親戚ということにしておくことにした。名前はエイタ、由来も超適当で少年A太、略してエイタ、とても分かりやすい。


「お、ご丁寧にどうも。あたしはカツコ、この街を守る超クールなお姉さんだ! よろしく!」


「いや自分で言いますかそれ」


 メグルの考えを代弁してくれるかのように、カケルが素早く突っ込んだ。一方エイタはカツコに興味しんしんだ。街を守るの方に反応したのか、それとも超クールの方に反応したのか……彼は気づいているのだろうか、彼女たちこそ自分の肩に爆弾をぶち込んだ張本人だということに。


「ちょ、エイタ君ストップ。後でじっくり話すから」


 珍しくカツコが押されている、相当Kフォースのことが気に入ったらしい。メグルは少し安心した、初めて会話した時から妙に大人びていたエイタだが、ちょっと子供っぽいところもあるんだなと思った。


「何この子、超かわいいんだけど。持って帰っていい?」


「いや勘弁してくださいよ……」


 洒落になっていない。今、カツコにエイタが渡ったらどうなるか。間違いなく正体がばれてKフォース行きである。


「まぁ、それは置いといて。見たよー昨日の映像、なんか最後の方映ってなかったけど」


 その言葉にメグルは戦慄した。やはりあの雑編集じゃまずかったか、心臓をわしづかみにされる思いである。


 昨日の映像、当然だがまだネットには公開していない。かといってKフォースに大金を積まれて提出を拒否するのもとても怪しい。そしてやっぱりカツコから動画の提出を求められた。仕方がないので昨晩メグルは少年を見守る傍ら、動画の後半部を音を消して、さらに黒塗りにしてごまかしていた。


「えっと、それは……」


「カメラが熱でぶっ壊れた」


 いままで沈黙……というより事態を眺めて楽しんでいたであろうタイガが、ここで初めて助け船を出した。


「あそこらへん熱かったからな爆撃で、ほら見てみろ」


 そう言ってタイガが昨日の撮影に使ったカメラを放り投げ、カツコがそれを両手でキャッチする。


「……確かに動かないですね。……まぁいいか、見たかった所は見れたし」


 一難去ったのか……? メグルは心のなかで大きく安堵の息を漏らした。本当にこの人は油断ならない。能ある鷹は爪を隠すと言うが、この人の場合ハゲ鷹だ。無力なものを一方的につついていくスカベンジャーだ!


「……父さんどうやったの? まさかほんとに壊してないでしょうねえ……?」


「……安心しろ、バッテリーを抜いただけだ。あんな高いカメラを壊してたまるか……!」


 部屋の隅でひそひそ会談をするメグル達をよそに、またエイタがカツコに近づいていく。


「ところでカツコお姉ちゃん、昨日の怪獣どうなったの?」


「あーイージス? 気になるよねーそれ。言いにくいんだけど……」


 カツコは言いにくそうに目を反らした。


「残念だけど、傷一つついてないよ」 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る