21 彼の血は赤色だ!

「参ったなぁ……」


「参りましたねぇ……」


「だよねぇ……」


 事態は思ったより深刻だった。というのもこの少年、ほんとになにも覚えていないのだ。覚えているのは世間的な一般常識だけで、住所、名前、年齢、そして自分が人間かでさえ覚えていなかった。わかっていることは一つ、この少年がギンギラだと言う事実だけ。


「名前まで覚えてないと不便よねぇ……」


 当の本人は特に気にしたようすもなくメグルが作った朝御飯を胃袋へ流し込んだ。さっき出した日本式朝御飯を一瞬で平らげ、今はシリアル入り牛乳を巨大なボウルに入れて食べている。


「おいしい! おいしいです!」


「お、おう……そんな安もんでいいならいくらでも食ってくれ!」


 正直に言おう、とても困った。タイガの考えではこの少年は宇宙人とかその類いのアウトバースで、怪獣と敵対するスーパーマンのような存在だと考えていた。で、あわよくばその少年にインタビューすることで大スクープを得る。これがタイガが少年を連れて帰ったあとに考えたプランだ。そう全部ポシャンである。


「改めて君。覚えてる事もう一回話してくれる?」


「はい! 何度でも話しますよ!」


 少年の話によると初めて記憶があるのはアモンミムスが出現したときの事らしい。なんと最初の記憶は巨人としてアモンミムスに向かい合ったときからだそうだ。なんであんなに戦いなれてるか聞くと――


「なんか体が覚えていました」


 で、どうやって光速水素砲を出したのか聞くと――


「胸をグーってやるとドシャーって出ました!」


 うむ、さっぱり参考にならん。そのあと、少年は気がついたら人間の姿になっていたらしい。帰るところもわからないので公園で寝泊まりをしていた。飲食はというと、最初はお腹が減っていたけどだんだん空いてこなくなった、ということだ。そのあとよくしてくれるホームレスのおじさんに拾われ過ごしていたそうだ。


 そして昨日。怪獣の出現を察知した少年はギンギラへとその姿をかえたのだ。


「どうやってギンギラになるの?」


「なりたいって思ったらなれるんです」


 で、そこからは知っての通り。見事に撃退されKKCに拾われていまに至るというわけだ。


「うーん……やっぱり人間じゃないのかなぁ?」


「あ、そこなんですけど、たぶん半分くらいは人間です」


 カケルから意外な言葉が返ってきた。


「ほら、昨日の包帯いっぱい使いましたよね? それをちょっと拝借して調べてみたんです。ルミノール試薬で」


 ルミノール試薬とは警察で血痕を探すときによく使われる薬だ。血痕がありそうなところにこれを一吹き、するとたとえ拭き取っていても血があった場所が青く光る。


「で、光ったんですよ。彼の血も」


 実はルミノール、けっこういろいろなもので光る。大根やセイヨウワサビ、さらにはキュウリでも……なので断定はできないが恐らく彼の血にはヘモグロビンを含んだ赤血球が流れている。彼の血が赤いのが何よりもその証拠だ。


「この事から少なくとも彼は、赤い血が流れる人間……に近い生物だと考えます」


「へぇー僕人間なんですか?」


「わかんない。少なくとも人間はあんなに早く傷は治らないし、鎖を千切るれないからね」


「あはは……やっぱりそうですよね」


 何だか当の本人よりこっちの方が真剣に正体を考えてる気がする。メグルは少年の能天気な笑顔を見て余計に頭が痛くなった。

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