17 障壁超怪獣イージス

 ギンギラがあっという間に間合いをつめ拳を振り上げた。だがイージスのほうは翼を広げたまま防御姿勢を取ろうとしない、まるで防ぐ必要がないと言わんばかりに。


 二匹の間合いが拳の射程内に入った。その瞬間ギンギラが腕にうなりを上げて、拳をイージスの顔面に向けて放つ。が、その攻撃はイージスに届くことはない、ギンギラの攻撃はイージスの前に展開された何かによって防がれた。


 ギンギラの攻撃がイージスに届く直前、ギンギラの前に翠玉色の透明な壁がそれを防いだのだ。これを形容する言葉は少ない、バリア、もしくは障壁ぐらいだろうか。


「カケル、何あれ!?」


「障壁としか言いようがないですね、なるほど、だからイージス……」


 イージスにとはギリシャ神話に登場する伝説の盾の名前だ。神々が作った盾、怪獣イージスはそれにふさわしい能力をしていた。


「原理は不明ですがあの障壁、恐らくあれがイージスの能力です! あの障壁で大気圏突破の熱も、ギンギラの拳も、そして光速水素砲も防いだんだと思います! 何て強度だ……」


 ギンギラが怯まず拳を叩き込むが、イージスが展開する障壁に弾かれて攻撃が届かない。ただ、拳が障壁にヒットしたさいのワブルベースのような異質な音が響き渡るだけだ。


 だが、ギンギラも次の一手に出た。ギンギラの右手に出ている水素ガスが肘まで覆われ、激しく燃え始めたのだ。そして次の瞬間、その炎の推進力を得た右腕が音速を越える勢いでイージスに突き刺さった。


 言うならばロケットパンチ。実際のロケットも水素ガスで飛んでいるのだからそうとしか言えないだろう。凄まじい火炎と衝撃、危うくメグル達は吹き飛ばせそうになる。


「な、なにが――」


 メグルがプロ根性でカメラを構え直す。そこにはハッキリと胸から大量の水素ガスを撒き散らすギンギラの姿が映った。


 結論から言うとギンギラの拳は障壁をとっばできなかった。拳が障壁に弾かれ、大きくのけぞったところをイージスは逃がさなかったのだ。


 今、イージス反撃が始まった。挨拶がわりにギンギラの胸を切り裂き、さらに一歩つめ下に潜る。さらに体当たりのように障壁をギンギラにぶつけ上体を浮き上がらせ、そして止めと言わんばかりに両腕の羽で無防備になった腹を挟み込むように切り裂いた。


「カケル、あの怪獣強すぎない!?」


「これはまずいですね……ここまで固いとKフォースもあの障壁を突破出来ない可能性が――」


「先輩! 聞こえる!?」


 その時、KKC7の無線から声が響く、カツコの声だ。


「なんだカツコ!? 今いいとこなんだ!」


「今から空爆が始まるんですよ!? さっさと離れてください!」


 メグルがぎょっとしたようすで空を見た。まだ飛行機は来ていないが、Kフォースの戦闘ヘリ、ロダンが先導するために飛行している。


「カツコ、使う爆弾は!?」


「地中貫通爆弾ボルグです!」


「よし分かった! お前ら、もうちょっと離れるぞ!」


 タイガがKKC7のエンジンをかけた。メグル達はギンギラを一目おき、車に乗り込んだ。


「父さん、地中貫通爆弾って?」


「元々は地下の目標を攻撃するために作られた爆弾だ。普通の地面でも30mはぶっ刺さって爆発する。あれで無理なら戦艦大和の主砲でも無理だね」


 いまだギンギラはイージスの翼に挟み込まれもがいている。だがそれは狙う側にとっては好都合だ。お互い動くことがないのだから。


 もがくギンギラの胸の水素ガスが再び収束を始めた。光速水素砲だ。相手との距離がつまったこの状況を逆に利用し、零距離から水素砲を食らわせるつもりなのか。20秒ほどのチャージ、水素ガスは光速で渦を巻き、その回転の空を裂くが鳴り響く。間違いなく今までで最大の水素砲。しかしそれが発射されることはなかった。


 突如ギンギラの両肩が凄まじい火柱を上げ、その直後にイージスの方でも爆発が起きる。遥か上空で投下された20発のボルグが次々と怪獣達を襲った。二匹の怪獣が炎の海に溺れていく――


 空爆が止み、爆発の残響が響く、それを破ったのはイルカのような甲高い鳴き声だった。


 イージスだ。ドーム状に形成された障壁が消え、そこから現れたのは、傷ひとつないイージスの姿だった。人類最強の貫通力をもつ爆弾でも障壁を破ることはできなかったのだ。そしてそこにはギンギラの姿はない。


「死んだ……?」


 メグルはポツリと呟いた。死骸はないがあの状況、死を確信させるには十分なものだった。


「目標無傷! 繰り返す、目標に負傷無し! 無傷だ!」


 無線の奥から聞こえる危機迫った報告がKKCを日本を絶望に陥れた。

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