16 空の贈り物

 怪獣と地球の気候時刻との因果関係は有るとも無いともハッキリとされていない。カケルいわくインバースに関してはあるかも知れないということらしい。例えば地虫怪獣ドゲラ、あの怪獣は春先から秋にかけて出現率が高く、冬はめっきり下がるとのことだ。ただそれも精々30回程度の観測、すべての怪獣と地球のそれらを結びつける結論はいまだ出ていない。


 ただ、この研究はKフォース含め世界中の研究機関で調べられている、怪獣の予知に繋がるからだ。将来的には台風の予測みたいに怪獣予報とか出来るかも、とメグルは期待を膨らましていた。ちなみにこの研究機関で出ている確かなことがある、それはアウトバースの出現には規則性がなく予測は困難ということだ。もしかしたらだが、怪獣ハンターの嗅覚のほうが現在の研究を上回ってるのかもしれない、もちろん科学的な根拠はないが。




「ギンギラ来た! ギンギラ来た!」


 深夜の閑静な住宅街に突如非常ベルの音か鳴り響く。音の元はもちろんKKCのオフィスだ。叩き起こされた二人を連れてメグルが車に転がり乗る。


「えー現在、超人ことギンギラが三週間ぶりに出現しました! 今回もKKCはギンギラの撮影に挑みたいと思います!」


 メグルがいつものようにカメラに語りかけるが今回はいつもと違う、生配信されていないのだ。というのも新しくなったKKC7だが、過酷な環境で生配信するための機材が間に合わなかったのだ。なのでしばらくは録画映像で我慢してもらうということを視聴者にお願いしていた。その間に怪獣が現れないことを願いながら……


「あーっもう! 早く出すぎ! もうちょっと待ってよ!」


 ギンギラが突如現れた40mを越えるビル群だが、そこはKKCのオフィスから眺めて見れるほどの近い場所にあった。実際ギンギラが現れた時も居住スペースになっている三階からは光輝くギンギラの光がビルの隙間から確認できた。


「さぁでやがったなギャラクシーマ」


「ギンギラ!」


 いまだに未練たらしくその名を呼ぶタイガ、その運転は新車に傷が付くのも知ったことかと言わんばかりに飛ばしている。


「父さん! 飛ばしすぎ!」


「はっ! 飛ばさねえわけにはいかねえよ! あの巨人は金になる、他のメディアに取られてたまるか! カケル!」


「はいはい、今回は本格的にギンギラとKフォースの正面対決になりそうですね。夜戦ですしさっそくあれを使いましょう」


 そうこうしてるうちにKKC7がビル街に到着する。その間15分、ギンギラは暴れることも破壊もせず空を見つめていた。まるで何かを探しているかのように。


「ねぇ、なんでなにもしないの?」


「さぁ? こっちには好都合だからいいじゃないですか。確かに興味深いですけど」


 メグルの疑問をカケルがトランクから何かを取り出しながらそれを横に流す。


「さあ初出陣てすよ~、言い仕事してくださいね!」


 カケルがトランクから取り出したもの、それこそカツコからの金をほぼ全てはたいて買ったKKCの新兵器、熱感知カメラだった。


「カケル! いつ停電してもいいようサーモ構えときなさいね!」


 メグルが使っているカメラもそこそこ高いやつだが、やはり市販用の域を出ない。真っ暗の状態では何も写らないことが多々あった。ライトをつければいいのでは? その疑問はナンセンスだ。例えばあなたは真っ暗やみに光が一点ぽつんと光っていたらどうするだろうか? 多くの場合その点に向かって歩いていくだろう。怪獣の場合も同じ、そのことをわかっていない多くの怪獣ハンターが命を落とした。


「もうつけてますよ! ギンギラの胸部、温度上昇中、光速水素砲、来そうですよ!」


「え、もう!?」


 その時、ギンギラの胸から出ている水素ガスが渦を巻き、胸部の一点へどんどん収束していく。アモンミムスの時微かに見たものと同じだった。


「さあ姉さん! しっかり撮ってく―――」


「おい待て! あれなんだ!?」


 カメラを構えるメグルの肩をタイガが叩き、空を指した。丁度ギンギラが見つめている空の先、そこから翠玉色の彗星のようなものが一直線こちらに向かって降ってくる。


「なにあ―――」


 瞬間、ギンギラの光速水素砲が凄まじい衝撃波を放ちながら、彗星のようなものに向かって発射された。その狙いは恐ろしいほど正確で彗星の中心ど真ん中を射ぬいている。


 だが様子がおかしい、彗星が止まらないのだ。確かに勢いこそ衰えてるが、この世界のあらゆる原子を破壊する光速水素砲を食らっても彗星は砕けることなくこちらに向かっている。まるでこの世界の外から来たように……。やがて彗星の推進力がなくなり、真っ直ぐ地に落ちてくる。そこでようやくメグルは分かった、あの彗星の正体が。


 彗星だと思われていたものの表面が正六角形に分割され消えていく、そしてその中から異様としか言いようがない怪獣が姿を現した。


 怪獣としてはオードソックスな直立二足歩行の形体。だがその純白の胴体はまるでコルセットをはめた女性のようにハッキリとした流線を描いていた。その胴体のすぐ下からは透明で光沢のあるなにかがウェディングドレスのように足元を覆っている。よく見るとその胴体もドレスのような部位も正六角形の構築されており、メグルはタイル貼りの壁のようだと思った。


 腕からは手首にかけては鋭い刃のような羽がいくつも並んでいる。そしてその手の先は三本の鋭い爪が鳥のように並んでいた。


 そして最後に頭。まるでパピヨンマスクを被ったかのように華やかな形をしてる頭部。だがその目は真っ赤に染め上げられ、一塵もの生物らしさは感じ取れなかった。


「美しい……」


 カケルはそう呟いた。確かにその怪獣の全体を見れば、バレリーナのように優雅さや気品さを感られることもない。だが細部に目を通せば、そこから確かに感じ取れる殺意でその気持ちは失せていく。これを美しいと言えるのは変態だけだろう。メグルはそう呆れた。


「おいカケル情報は!?」


「は!? ちょっと待ってください! どっかで見たことあると思うんですが……」


 カケルがタブレットをまさぐる中、二匹の怪獣が互いににらみをきかせた。ギンギラは大きく腰を落とし手を構える。一方謎の怪獣は鋭い手の羽を扇のように展開した。


「あいつら戦う気だ! カケル、情報早くしろ!」


「……出ました! アウトバース、障壁超怪獣イージス! 出現回数1回!」


 その瞬間、イージスが例えるならイルカのような甲高い鳴き声をならした。だがその鳴き声は電子音のように生物味を感じない。これがイージスの威嚇なのだろう、そこから強い殺意を感じる。


「初出現は14年前! その時には周辺が壊滅したため情報があまりありません!」


 一瞬の沈黙の後ギンギラが動いた。地面を勢いよくめり込ませ、一気に地面を蹴った。地響きをおこしながらイージスに迫り寄る。イージスはそれを両腕を大きく広げ待ち構えた。

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