14 黄土勝子の本気
「じゃあとりあえずあの巨人の映像ちょうだい、全部」
「いやいやいや」
開口一番無理難題をふられ、メグルが首を振り断固拒否する。そりゃそうだ、あんな貴重なものおいそれと渡せるか訳がない。
「分かった、じゃあ買い取るから」
「いや買い取るって――」
メグルが言い終わるのを待つこともなく、カツコが制服の内ポケットから少し厚みのある茶封筒をとり出し机に放り投げた。茶封筒はそこそこ大きな音をたて机の上を滑る。
「買い取る? え!?」
机の上に静止した茶封筒に門谷一家が飛び付いた。まるでビーチフラッグのように真っ直ぐ手が伸びていく、タッチの差で勝ち取ったのはタイガだった。
「ほ~うどれどれ~? ひぃふぅみぃよぉ……メグル! 明日もピザ食うか!」
はじめてみる厚さの札束だった。メグルは声を失い、カケルは目を見開いて動かない。それとは対照的にタイガはそれはもうニヤニヤしながら一万円札を数えている。確かにあんなもの数えたら誰だって楽しいだろう。
「どうぞ、これ! お受け取りください!」
カケルがいつの間にか記録映像のケースをとり出し、訪問販売のようにひざまついて中のDVDを見せている。
「おお、くるしゅうないぞ! じゃあ頂いていくから」
な、なるほど……これが国家マネー……メグルははじめてカツコの凄さを思い知った。
カツコが巨人のDVDを懐にしまいこむ。そして今度はもっと大きな紐付きの封筒を酎ハイのビニール袋から取り出した。
「じゃあ今度はこれ。見たい?」
「まあ、見たいか見たくないかって言われれば見たいけど……なんですかそれ?」
「え? Kフォースの巨人に対する公式見解だけど」
「見ます!!」
今度はカケルがすごい勢いで飛び付いた。どうやらカケルにとっては金よりも怪獣らしい、さっきより1.5倍ぐらい速い。あわててメグルがカケルを羽交い締めにする。
「落ち着きなさい! どうせ中身はいつもののり弁文章よ! そうやってまた私たちから何かむしり取る気なのよこの人は!」
「ひどい言いようだなぁ……別に何もいらないよ。欲しいものもらったし、お礼にちょっと無修正の資料見せようかなって?」
「見せろぉぉぉ!!」
凄まじいパワーだった。このひ弱なモヤシのどこにこんな力があるのか? カケルはメグルを振りほどき、茶封筒を奪い取る。そして紐をぐるぐるほどき、中の資料を取り出した。その1ページ目には『<超人>名称未定 全長役53m 体重不明』とだけ書かれている。
「え? これだけ?」
それを聞いたカツコが威張るように笑った。
「その通り! 御用学者は役にたちませーん!」
結論からいうとKフォースにも、学者たちにも何も分からなかったらしい。もちろん超人の特異な能力のせいもあるが、Kフォースの場合その発言や見解が公式文書として残るため下手なことをみんな言えなくなるという。
「それ意味あるんですか……」
「いやーうちも頑張ってるんだよ? いろいろ録って、計って、観測して。それを上が活かさないだけで」
「ていうか<超>ついてるんだな」
札束を数え終わったのかタイガがカケルがめくってほったらかした資料を拾いながら言った。
<超>とは怪獣に与えられる一種の称号で、一定の危険性があると判断されれば怪獣の二つ名にそれが追加される。ようは大雨警報に対する特別大雨警報みたいなものだ。
「あぁ、そこだけは全会一致で決まりました。あの光線はヤバイって」
「ほんと何もわからないのによくこんなに分厚い資料作れるな? 何書いているんだよ?」
「だからいろいろ調べてるんですよ。体温とか、噴出物とか――」
「分かりました!!」
資料を読み込んでいたカケルが突如立ちあがりそう叫んだ。突然の事にみんな呆気に取られている。
「分かったって何が?」
「超人! 超人の事です!」
「だから超人の何!?」
「ずばり、あの光線の正体です!」
カケルは眼鏡を輝かせ、そう答えた。
「鍵は水素です!」
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