12 緊急考察! 巨人の正体を追え!

 あれから一夜明けこちらの界隈はもうお祭り騒ぎだった。なにせ未知のアウトバース、それも人型。何から何まで未知数な巨人の考察動画は一晩で300以上作られ、その多くの動画でKKCの動画が無断に使用された。


 それはさておき人類初巨人と遭遇したKKCもこのお祭り、黙って座ってはいられない。その翌日の晩には緊急生配信を行った訳だが……


「なにもわかりません!」


 カケルの結論はこれだった。詳細不明、あまりにも常識から外れすぎていてなにもわからない。KKCはあまり根拠のない推測で情報を流さないようにしていた。怪獣だって災害だ、誤った情報は死者を生みかねない。わからないことは正直にわかりませんと言っていた。


 かといってそれで視聴者が納得するかは別の話。わかりませんと言うだけなら十秒で終わるので、今回は巨人のどこがわからないとこを初公開映像とともにおさらいすることにした。


「まずは巨人の姿ですね。なぜここまでそっくりな人型をしているのか?」


 実はわれわれ人間という生物はかなりいびつな進化をしている、四足歩行用の足を無理矢理二足歩行に使ったからだ。われわれの足は二足歩行にベストな形ではなく、もしも他の星の生物が二足歩行に進化するとすればもっと合理的な足の形をしているはずだ。指だってそう、なぜあの巨人は足の形から指先まで人間と同じ作りになっているのか?


「次にどこから現れて、どこに去っていったのか? これを見てください」


 カケルが見せたのは今は亡きKKC7に取り付けられていたドライブレコーダーの映像だった。メグルは目をつぶって見ていなかったあの巨人の出現をKKC7は最後の力を振り絞りとらえていたのだ。


「まあ怪獣保険に入ってるからすぐに新車になるんですけどね」


カケルが流した映像には、なにもなかった中に突然煙幕のような光の爆発が立ち上ぼり、その中から飛び出してくる巨人の姿が映っていた。


「こんな感じでなにもないところから現れて、なにもないところに消えていくんですね、まるで手品のように。多分手品と違って種も仕掛けもありませんが」


 考えられる可能性は二つある。一つ目は体積操作、つまり大きくなったり小さくなったりすることだ。例えば普段は人間の目に見えないぐらい小さくなっておき戦闘時だけ大きくなる、これで一様の説明はつく。もちろん原理は不明だが。


 もう一つ、これだった場合本当に厄介だ。それは瞬間移動、この場合あの巨人を駆逐するのは不可能と言っていいだろう。突然現れる敵の予測は難しいし、倒す前に瞬間移動で逃げられてしまう。まあ、もちろん仮定の話だが。


「最後にあの必殺技ですね。映像を解析してみたんですがどうもあの破壊光線は胸から発射されているようです」


 つまりあの破壊光線は胸から出ている炎と関係があると考えるのが自然だ。といってもあれが炎という確信もない、宇宙には酸素がないので炎は日常的な現象ではないのだ。恐らく地球外で活動しているであろうあの巨人の武器が炎とは考えにくい。


「今日の昼、アモンミムスの死骸を見に行ったんですが、ものの見事に吹き飛ばされていましたね。けっこうグロかったです……」


 というかそもそも光線というものは光の光子を物体の分子に当てて加速させ焼き切るものだ。さらにアモンミムスは熱に強い怪獣、焼き殺されたとは考えにくい。


 結局分かったのはあの光線は光線ではない何かということだけだった。


「えー長々と申しあげましたが結局なにも分からないというのとです。本当に面目ありません、何か質問がありましたらどしどし答えていきますのでどんどん下さい!」


「あ、じゃあ早速質問いい?」


 カメラの外にいたメグルが手を上げる。それを見たカケルが嬉しそうに指を指した。


「お、なんですか姉さん! なんでもか答えますよー?」


 メグルが深く息をすった。


「……あの巨人、ほんとに敵なの?」


 その質問に楽しそうだったカケルが一気に凍りつく。画面の外で新聞を読んでいたタイガも目を真ん丸にしてメグルを見た。


「ななななななに言ってるんですか姉さん! 根拠のないこというのはやめてください!」


「いや、確かに根拠はないんだけど……」


 メグルがばつが悪そうに笑った。


「何となく守られた気がして、あの巨人に」


「それはアモンミムスが至近距離にいて、僕たちに注意が向かなかった偶然の出来事です!」


「けどさ、あの後暴れなかったじゃんあの巨人」


 その言葉にカケルはつまった、確かに違和感がある行動だと思っていたことだ。通常アウトバースは好戦的で現れたときには壊滅的な被害が出ることが多い。それがあの巨人はアモンミムスを倒したあと素直に引いていったのだ。カケルはその行動に対する答えを疲れたんじゃないかというもの以外持てなかった。


「あ、ごめんね変なこと聞いて。何となく、ほんと何となくだから」


「いえ、僕もその考えを完璧に反論することは難しいですからね、立証することも不可能ですが」


 カケルがずれた眼鏡を直しながら皮肉混じりにそう答えた。

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