11 アドベントデイ

両者凄まじいスピードだった。もともと軽量級に入るアモンミムスはさておき、その二倍以上の全高を持つ巨人の軽やかさ。いや軽くはないだろう、巨人が一歩一足踏みしめるたびに、地面は深く沈みこんでいるのだから。それでも足をとられないのは、巨人の高い身体能力がなせる技なのだろう。


 だがアモンミムスも負けてはいない、両者の距離が半分に縮まった時、アモンミムスの体が一瞬深く沈みこみ、次の瞬間高く、巨人よりも高く跳躍した。


「と、飛んだ!?」


「初めて見る能力です! 今までアモンミムスはティラノザウルスのような大型恐竜のインバースだと考えられてきましたが、これはその考えを改めるべきかも知れませんね!」


 体重15万トンのアモンミムスが足下の鋭い爪を研ぎ澄ませて巨人に飛びかかる。さすがの巨人も予想外だったのか、腕で受け止ようとするのが精一杯だった。アモンミムスのドロップキックが巨人の腕に命中した。爪が深く腕に食い込み、そこから頭と同じような炎が傷口から漏れ出ている。しかし倒れない。巨人はそのドロップキックをくらいながらも足は微動だにもしない。


 だがアモンミムスの攻撃は終わらない。受け止められた瞬間、口から炎が溢れだしたかと思えば、足を防いだ量腕を蹴り下げ、無防備になった顔面に特大の火球を発射した。


 先程までメグル達に発射した火球とは見た目も規模も、そして威力もけた違いな渾身の一撃。さすがの巨人もそれに耐えることはできず、横に建ってあったビルに背中からダイブした。


 まるで砂で作った城のように、容易く崩壊するビルが巨人の質量を物語っている。巨人はすぐに起き上がろうとするが、アモンミムスは攻撃を止めない。すぐさま倒れた巨人のマウントを取り、腕と上半身を押さえ込んだ。


「ねぇ、あの巨人ピンチじゃない?」


「ええ、珍しいですねここまで弱いアウトバースがいるなん――」


 その時アモンミムスが口に再び蓄えていた炎を今度は火炎として吐き出した。火球ではなく火炎、そこからはアモンミムスが巨人を確実に焼き殺そうとする強い意志を感じ取れる。巨人はその火炎を防ぐことすらできず、ゼロ距離から受け止めた。


「よ、弱いですね……これはもう勝負ありかも……」


 その時メグルは見た、火炎の中から何かが白い光を放っていることを。その光はだんだんと大きくなり、カケルやタイガもそれに気がついた。


「ねぇ! なんのひか――」


 その直後だった。その光が一気に収束し、次の瞬間凄まじい破壊光線としてアモンミムスの上半身を襲った。言うならは光の竜巻。その光は更に太く強くなり、アモンミムスの細胞を、骨を、一塵も残さず消し飛ばしていく。


 僅か五秒ほどの照射、残ったのは巨人と、下半身だけが残ったアモンミムスだったもの。メグル達はそのあまりの威力と衝撃に、なにもしゃべることはできなかった。


 巨人がアモンミムスだったものをどけ、起き上がり空を見た。その方向から何機も戦闘機が、爆音をならしながら編隊を組飛んでくる。


「まずいな、空爆が始まるぞ。あいつが本気で暴れればここら辺は壊滅だ」


「早く逃げなきゃ……」


 ふと巨人が振り向きこちらを見た気がした。相次ぐ死地で感覚が壊れたのか恐怖は感ない。巨人はすぐに向き直し、そして次の瞬間まばゆい光が巨人からあふれでたかと思えば、その姿を消していた。


「消えた……?」


 そこにはもう巨人の姿はない、ただ残ったのは巨人が残した破壊の跡とアモンミムスだったもの、そして悔しがるカケルだけだった。


「あーっもう! あまりに常識から外れすぎていてなにも言えない!」


 これが私達人類と彼の出会いだった。ここから私たち人類と怪獣の間に起きている一種の戦争は大きなターニングポイントを迎える。


 アドベントデイ。このとき上げた動画は恐らく、百年後でも見られ続けているだろう。

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