08 怪獣おばさん

「頼むカツコ! この通りだ!」


 きれいな90度だった。タイガがKKCを代表して免罪と譲歩を求めているのだ。


「俺たちは怪獣ハンターだ、映像が作れなきゃ食ってけねえ! そうすれば俺もあいつらも飢え死にしちまう!」


「いやそんなこと言われてもねぇ先輩。機密は機密だし……」


 そういえば言うのを忘れていた。タイガは元々Kフォースに所属していたOBだ。カツコはその時の後輩である。


「機密ってそれ言ったらほとんどの情報がのり弁当じゃないですか!」


「あーカケル君、痛いとこつくねぇ」


「ほら! 自分でも痛いとこって分かってる!」


「うるさい!!!」


 カツコがふたたび拡声器を取り出した。もともと声の大きいカツコだが、それがさらに大きくなると最早殺人級だ。声の大きさに耐えられず拡声器が音割れしているのもたちがわるい、直接耳に刺さってくる。


「とにかく! ここで撮ったものを公開したきゃ、私を説得してみなさい!」


「くそっ相変わらずだなぁカツコ。カケル、ブツを」


 タイガが悔しそうに顔を上げ、カケルから何かを受け取った。タイガがそれに目を落とし、物惜しそうにそれを渡す。


「昨日のドゲラの録画、無編集版だ。最初から最後までまるまる60分超」


 タイガが渡した物、それはドゲラという文字と日付が書かれたDVDだった。


「はい、確かに受けとりましたよー。じゃあこれ、撮影許可証。それ持ってたら捕まることはないから」


 普段KKCは怪獣動画を娯楽向けに撮っているが、それの価値はエンターテイメントに止まらない。研究用や報道用、学者やテレビ局、そしてKフォースなんかは喉から手が出るほどほしいだろう。だからこそ独占しておきたかったのだが……


「じゃあみんな、お気の向くままに」


 DVDを受けとると、カツコはそそくさと規制線の奥へ去っていく。それをメグルが恨めしそうな目で送っていった。


「うぅ……せっかくの収穫が……」


「まあへこむなへこむな! 捕まるよりましだろ!」


 うなだれるメグルの背中をタイガがバシバシと叩いた。こんな感じて映像をむしりとられること行く知れず、カツコはいつのまにかKKCの天敵になっていた。


「あいつも悪いやつじゃないんだよ! な?」


「うん……知ってる……」


 本当はメグル達もわかっていた、あれがカツコの仕事なのだ。多分渡した映像は日々の怪獣対策に使われている、だからメグル達は恨みこそすれ憎みはしない、そういう気持ちで割り切っていた。


「特殊情報部隊ってなんなのよ……いっつもふらふらしてるくせに……」


 気紛れに現れ暴れまわり、嵐のように去っていく。黄土勝子、彼女もまた怪獣なのかもしれない――

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