07 インバースとアウトバース
今の学術的見解では怪獣はまず最初に二種類に分別できると考えられている。それはインバースとアウトバース、中で生まれたか外で生まれたか、怪獣達は出現と同時にそれを調べあげられる。何故ならそれらによって対応がまるっきり違うからだ。
「――このように地虫怪獣ドゲラは、地球の生物の特徴を色濃く残している典型的なインバースと言えるでしょう」
あれから二十分ほどたちようやくカケルがドゲラ談義を終えた。ドゲラは出現回数が非常に多いメジャーな怪獣なので、語ることが山ほどあるらしい。多分無制限にしゃべると三時間はしゃべっているだろう。
「じゃあ次質問コーナーね」
メグルが片手に持ったメモ帳を読み上げる。KKCは視聴者参加型のチャンネル、なので質問や企画のリクエストを積極的に取り入れていた。
「はい! みんなが気になる怪獣クエスチョン! 姉さん、今日はどんな質問が来てますか?」
「はいはい、ちょっと待ってねー……」
ちなみにこの質問コーナー、普段はテーマを絞っている。そうしないとカケルが永遠と話し続けるからだ。
「今回はインバースとアウトバースの質問を受け付けました、最近やってなかったからね」
「インバースとアウトバース! 怪獣の基本中の基本にして最大の謎ですね! テンション上がります!」
「いつも上がってるじゃない……じゃあお便り一問目、そもそもインバースとかってなに? 超怪獣初心者さんから」
「ようこそ怪獣の世界へ超怪獣初心者さん! お答えしましょう、インバースは地球で生まれた地球産怪獣、アウトバースは宇宙で生まれた宇宙産怪獣です! これらが区分されたのは――」
「はい、次の質問」
「ちょっ――」
「インバースとアウトバースって何が違うの? 鉄壺怪獣大好きマンさんからの質問」
「私もフォートポット大好きですよ~鉄壺怪獣大好きマンさん! ずばり何から何まで違います! 細菌とウィルスぐらい!」
カケルの例えは置いといて、インバースとアウトバースはそもそも生物として別物だ。
インバースは地球産の名の通り、タンパク質を主軸にした二重螺旋の塩基配列、すなわちDNAを持っている。さらに多くのインバースは地球上に存在する何らかの生物と共通の遺伝子を持っていて、インバースが地球の生物との何らかの関係性がうかがえるのだ。
「最近出た論文のなかには、むしろ我々こそインバースから分岐した生物だ! というものまでありますね。真偽は不明ですが」
一方アウトバースは宇宙産……と言われているが、実は確信はない。もしかしたら宇宙じゃなくて別の次元から現れたのかもしれないし、未来からやって来たのかもしれない。ただ間違いなく言えるのはインバースの構成物質やその能力は今の科学では説明できない未知のものということだ。とにかく何から何まで常識と外れすぎていて、とりあえず宇宙産というジャンルに放り込まれているのが現状である。
「ちなみにアウトバースは一見インバースとあまり変わらないものから、一目にして宇宙! とわかるものまで様々です。前者を見抜けられたら上級者の仲間入りです!」
「はい、そろそろ次の質問行こ~。……お、おぉ、これは荒れそう……アルティメット麒麟さんからの質問、ずばりインバースとアウトバース、どっちが強いの?」
怪獣の強さ談義は怪獣オタクの間でもめんどくさい話題として有名だ。何故なら怪獣同士が戦うことはたまにしかなく、結局想像でしか話すことができないからだ。
「え~あくまで僕の考えなのですが……アウトバースの方が強いです」
「ほう、その心は?」
「僕の考えではアウトバースには共通点があります。これは実際に生で見たことある人にしかわからないのですが……」
アウトバースは出現回数が非常に少ない。なので二年間本業として怪獣を追い続けているメグル達でも、アウトバースと遭遇したのは一回だけなのだ。
「それはその狂暴性、及び殺意です。アウトバースは明確に人を、及びこの星の生物を標的として攻撃してます。僕が出会ったアウトバースは顔が半分吹き飛ぼうが殺戮をやめませんでした。インバースならそうはいきません。彼らは人間をそこらにいるアリ程度にしか思っておらず、積極的に攻撃しようとするものは三割程度にとどまります。その三割でも、顔が吹き飛ぶ前に逃げるでしょう。これらは今までの被害のデータからも読み取れます」
「結局それらが戦ったら?」
「インバースはそそくさと逃げますが、アウトバースは決して白旗を降りません。つまりアウトバースのコールド勝ち」
「だそうですよアルティメット麒麟さん。アウトバースが出たらすぐに逃げてくださいねー。じゃあ、そろそろ次の質問――」
「――――ち?」
ふと、声が聞こえた気がした。メグルにとって親の顔ぐらいよく聞いていて、できればあまり聞きたくない声が。
「次の質問はTHEアマダムさんからの――」
「――――達?」
「あーもう! さっきから誰!? 今撮影中なんです―――」
「君達!! ここは撮影禁止です!! 速やかに撮影をやめなさい!!!」
メグルが振り返っだ瞬間、爆音の叫び声が彼女を襲った。明らかに人間に出せる声量ではない、拡声器だ。爆音をほぼゼロ距離で浴びたメグルの耳は本来の機能を失い、キーンとした耳鳴りだけが聞こえて止まない。思わず千鳥足になるメグルの後ろで、カケルがひきつった笑顔で金髪の彼女を見つめていた。
「げぇ、カツコおばさん……」
爆音の女は口元から拡声器をおろし、ものすごくきれいなにっこり笑顔でカケルを見た。
「はーいカケル君久しぶりー。ダメだよー、許可もとらずに撮影したら。そのうち捕まっちゃうよ? とりあえず今日は動画消したら見逃してあげるから、ね?」
彼女の名は黄土勝子。Kフォース特殊情報部隊隊長、KKC最大の天敵、および協力者である。
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