04 地虫怪獣ドゲラ

「この鳴き声! 地虫怪獣ドゲラだ!」


 カケルがその音を聞くや否や、その名を叫ぶ。土煙がはれ、その姿をカメラが捉えた。


「ほら、ドゲラです! やはり僕の――」


「うるさい! 今いいところなの!」


 メグルがカメラをズームさせ、地虫怪獣ドゲラの姿をできる限り大きく映す。ドゲラは地虫怪獣の別名の通り、虫の姿を大きく残していた。


「地虫怪獣ドゲラ。平均全長41メートル、体重37万トン。出現回数二十八、そのうち日本が八回ですね。虫のオケラと共通する遺伝子を持ち、外見にもその特徴が随所に現れています」


 カケルの解説通りドゲラはオケラを巨大化させたような風貌をしていた。茶色い体表に六本の足、そしてモグラとバッタを合わせたような、人によっては愛くるしいと思える顔。だがそこは怪獣、ドゲラはただの巨大化したオケラではない。大きな特徴が三つある。


 一つ目がその体勢。ドゲラはまるでカマキリの様に四本の足だけで体を支え上体を起こし、二本の前足でファイティングポーズをとっている。二つ目、やはりドゲラの前足はカマキリの様に独特の進化をしていた。なんてことは無い、自然界に生息するオケラも地面を掘るために独特の前足をしている。それを少し特化させただけだ。


 ドゲラの前足は右足が巨大な先割れスプーン、もっと凶悪な言い方をするなら半身を守る爪付きのショベル。そして左足が、硬い岩盤を砕くための杭。工事現場のドリル、分かる人にはパイルバンカーと言えば通じるだろうか。ドゲラは地中で暮らすうちに、何とも合理的で凶悪な武器を手に入れていた。


 そして三つ目、ドゲラの体表は確かにオケラの様に土色だ。だが、その表面は光沢を放っている。それもそのはず、ドゲラの甲殻には金属が混じっているのだから。


「何が混じっているかは地域によってもまちまちですが、過去にあった最悪な例としてラジウムやウランといった放射性金属が混じっていたこともあります。皆さん、ドゲラが倒されたとしても決して近づかずKフォースの発表を待ってください!」


「え? それってあたしたちもやばいんじゃ……」


 メグルがぎょっとした様子でカケルを見るが、タイガがそれを鼻で笑い飛ばした。


「そんなもんにビビッてられる仕事かよ! 見ろ、あっちも始まるぞ」


 再びタイガが双眼鏡を構える。メグルも斜めの方向からヘリコプターとドゲラ、双方をまとめて映した。ドゲラはアスファルトを踏みつぶしながら一歩一歩、ヘリコプターの方へ向かっていく。そしてそれは突然始まった。


 ロダンの両脇に備え付けられたガトリング砲が空転し始め、そしてすぐに砲火と爆音と巨大な薬莢をまき散らし始めた。オレンジに光る砲弾がドゲラの頭部に向かって吸い込まれていく。


「ほーら始まった、35mmガトリング砲だ、これは痛いぞ~」


 双眼鏡を覗きながらタイガが実況する。その横でカケルが、メグルが映しているカメラの映像を食い入るように眺めていた。


「父さん、ドゲラの甲殻を侮ってはいけませんよ! たとえ頭部でもあんな豆鉄砲通じま――」


「二人とも! もっと視聴者にも分かるように、具体的に!」


 メグルにそう言われ二人が顔を見合わせる。そしてお互い深々とため息をついた。


「殺獣35mmガトリング砲、この35mmっていうのは弾の直径のことだ。分かりにくかったらちっさい牛乳瓶ぐらいだと思えばいい。それが毎秒六十五発、マッハ3で飛んで来る。俺が怪獣だったら痛すぎて帰っちゃうね、ほんと」


 それを聞いたカケルのメガネがキラリと光る。


「残念ですが父さん、そうはいきませんよ! 先ほども言いましたが、ドゲラの甲殻は金属が混じっていて、そこらの岩盤よりはるかに硬いんです! さらにその厚さ100mm! 十円玉の直径の四倍の厚さなんです! 恐らく、あんな豆鉄砲では少し凹む程度の効果しか見込めませんね!」


 その言葉通りロダンの弾丸はドゲラの甲殻の表面で甲高い音をまき散らし、ボトボトと落下していく。しかしドゲラの方も、何かしらの刺激はあるのだろう。ドゲラは下からロダンを睨み、再び大きく腹から揺れるような重低音を放った。その音は、まるで火山の噴火の様に周りの塵や煙を吹き飛ばし、ロダンの機体を激しく揺らす。300メートルも離れた場所にいたメグル達の肌をも、ビリビリと震えさせた。


「ドゲラの空振! 貴重な体験です! ちなみにこの鳴き声、ドゲラが直接声を発して鳴いている訳ではありません、そもそもドゲラは虫なので喉というものは無いのですから。この鳴き声はドゲラの背後にある硬質な羽を擦り合わせて発しているのです。丁度スズムシとかコウロギとかと同じ原理ですね」


「な、なるほど……で父さん? カケルの言う通り、全然効いてないんだけど」


 メグルが冷ややかな横目でタイガを見つめる。しかし双眼鏡から離したタイガの目は、それがどうしたと言わんばかりにギラついていた。


「そう焦るなメグル、こりゃ威力偵察、戦はまだ始まってすらないんだぜ? ほーら、そろそろ来るぞ」


 その時、タイガの言葉通りメグルのスマホが鳴り響く。そこに書かれていたのはKフォースからの連絡だった。即ち開戦の合図。メグルが慌ててカメラを自分に向ける。


「ただいま警戒レベルが4に引き上げられました! これよりKフォースによる撃退作戦が始まります!」

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