05 怪獣退治の専門家
ロダンのガトリング砲による射撃が止まり、静寂が訪れる。そしてすぐにロダンの両脇に四つずつ備え付けられた誘導弾の一つが、火を噴きながら発射された。
それぞれから発射された合計四つの誘導弾。ドゲラは見たこともないその何かを、訳も分からず受け止めた。刹那、ドゲラの右顔面を凄まじい爆炎が包み込む。
「対獣誘導弾ゴーグ。対戦車誘導弾の火薬を増やした専用弾だ。ま、衝撃力が上がった分貫通力は落ちてるがな」
タイガが横で誘導弾、すなわちミサイルの解説を素早くした。それと同時にドゲラの顔を蔽っていた爆炎が徐々にはれ、その着弾点がカメラに映る。確かにタイガの解説通り、ドゲラの甲殻は黒く焦げてはいたものの、貫通したりひびが入るということは見受けられなかった。
「ほんとだ、効いてない!」
「いや、効いてるね」
驚くメグルとは対照的に、タイガは特に焦ることもなくに不敵に笑っていた。一見ピンチの状況、それでも笑っていられるのはそこに長年の経験と信頼があるからだ。
爆炎がはれると同時にロダンは二発目の誘導弾を同じく右顔面に叩き込む。
「いいか、どれだけ甲殻が分厚く硬質でもその衝撃は殺しきれない、ゴーグの運用方法はそこだ。相手の頭部に衝撃を与えることで脳を揺らし、ぶっ倒す。丁度ボクサーの右ストレートの様にな。だからゴーグは衝撃力重視なんだ」
再びゴーグが着弾、爆発した。その瞬間ドゲラの体が大きく左に揺らぐ。ふらつく足に電線が引っかかり千切れ、火花が上がる。横にあったビルは倒れ行く上半身に押しつぶされ倒壊し、凄まじい轟音と土煙が辺りを包んだ。
「さあどうだ、倒れちまえ!」
三人が息を呑みながら見つめる。しばらく静寂が続き、メグルが勝利を確信した瞬間、土煙の中から凄まじいジェット水流がロダンに向けて放たれた。タイガが悔しそうに声を漏らす。
「あーくそっ、健在か。カケル、解説」
水流は最も近くにいたロダンの右脇を何とかすり抜けた。直後に土煙がドゲラの鳴き声で吹き飛ばされる。
「えーあれはドゲラのジェット水線ですね。光線ならぬ水線、体内にある水を高圧で吹きかける技です。ウォーターカッターと同じ原理と思ってもらって構いません」
ロダンが後退しながら三発目のゴーグを発射した。だがドゲラもバカではない、右足の巨大な盾で射線を遮る。そしてゴーグを防ぐやいなや再びジェット水線を発射した。
「防いだ!」
「そりゃそうでしょう。そのための右足なんですから」
ロダンはさらに後退し、水線を避ける。ドゲラは一息置き、三度水線を発射した。……が、それもすぐ脇を外れる。
「……あれ? 意外と当たらない?」
最初はひやひやしながら見ていたメグルだが、微妙な方向に外れていくドゲラの水線に思わず声が漏れた。
「虫の目って細かいところまで見えませんからねー複眼ですから。ほら、僕がメガネ外してトンボに輪ゴム鉄砲撃っても当たらないのとおんなじですよ」
「……なるほど」
カケルの解説通り、相変わらずドゲラの水線は当たる気配がない。それを聞いていたタイガは、小さく笑いながらドゲラを指さした。
「なるほどな、分かりやすい例えだ。見ろ、あっちももう終わるぞ」
「え、もう?」
メグルが腕時計を見る、ドゲラ出現から一時間しか経っていなかった。そんな馬鹿なと顔を上げると、明らかにドゲラに変化があった。さっきまで元気よく吐いていた水線だが、見るからに勢いがない。まるでホースから出したような野太い水線は緩やかな曲線を描きロダンの前方で落ちている。吐く時間も明らかに短くなっているし、吐き終わった後、息切れしているのも見て分かった。
「……バテてる?」
「ええ、バテてますね」
ついにドゲラは水線を発射するのを止めて、ロダンを眺めている。それを待っていましたとばかりにロダンが再びゴーグを一斉砲火した。
「正確に言えば脱水症状です、原因は見ての通り水線の吐きすぎですけど」
ドゲラも必死に防ごうとするが、無慈悲にもゴーグはドゲラの頭に着弾していく。そしてついにドゲラが膝をつき、その場に倒れ伏した。
「そんな諸刃の剣をあんなに遠慮なく使ってたの?」
「ドゲラも仕方なく使ってたんですよ。ドゲラは近距離での殴り合いではかなりの強さを誇るのですが、かたや遠距離では水線しか攻撃手段しかないんです」
「だからそこを狙った」
タイガが双眼鏡を外し、こちらに体を向けた。
「ドゲラは比較的出現回数も多い怪獣だ。だから対処方法も確立されている、遠距離で牽制して水線を吐かせるっていう方法がな、あそこまで行きゃもう安心だよ」
タイガがヘルメットを外し、車の方へやれやれと歩いていく。それをメグルが慌てて呼び止めた。
「ちょっと! どこ行くのよ!?」
「どうせもう終わりだよ。メグルも放送のシメ考えとけよ!」
タイガが振り返らずに言う。メグルが何か言い返そうとしたその横で、カケルまでもヘルメットを外した。さらにそれに何か言おうとしたところでメグルのスマホが揺れた。
「あっちも終わったみたいですねー。じゃあ僕もあがりまーす、お疲れ様でしたー」
そう言いながらカケルも車の方へ去っていく。メグルがほっぺを膨らましながらスマホを開いた。そこには二人の言う通り、終戦の知らせが載っていた。
「もぉ、ちゃんとしてよー。……えーっと、ただいまドゲラの撃破が確認されました。これにより避難指示も間もなく解除されます。皆さま、これから暑くなる季節です、水分をよくとって下さいね! それではまた!」
これがこの世界の日常だ。怪獣が現れる日常、それを世界中の人に届けるのが彼ら怪獣ハンターの仕事なのだ。
アサヒがカメラの録画を切りヘルメットを外す。向こうの方でサイレンの音が響いていた。恐らくKフォースの処理隊が周囲の道路を閉鎖しているのだろう。メグルはその音が響く中、車の方へ歩いて行く。
「あ~帰って動画編集しなきゃな~、眠い……」
そんなぼやきが、鳴り響くサイレンの音にかき消されていった。
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