後
ちんちんと口にする、というこの世界のタブーを我々に犯させようとしている。
となると、肝心なのは「誰が」という点だ。
一体誰が、我々にちんちんと言わせようとしているのか。
これを考えるには、我々がちんちんと口にしたらどうなるのかをシミュレートすれば明らかになる。
*
例えば。例えばだが、これは例えばの話だが。
私が、「ちんちん」と言ったとする。駅のホームで――あるいは昼下がりの公園で、その響きの心地よさに「ちんちん」と言ってしまったとする。
すると、その周囲の人間がする行動はただ一つ。通報である。
そして私は捕まる。その結果として、ちんちんと言わされたことによって前途ある若者の未来が一つ潰えたことになり、日本の経済が私一人分の損失を受けたことになる。
これが何人もいたら――十人や百人ではない、数万人も発生したらと考えると……ぞっとしない話だ。警察は「ちんちん発言者」の対処に追われることになり、他の凶悪犯罪者の対処が遅れることになる、ああ、刑務所を新たに建設する土地のために豊かな自然が伐採されることにもなる。
このように、湾曲的だがしかし確実に、じわじわと日本の未来を奪っていくのである。
経済だけではない。
読者皆様はちんちんという言葉を発したことがあるという話だったが、主にそれをしていたのは何歳位のことだろうか?
これは推測だが、きっと六歳から十歳の間だったと思う。
……そうだろう、図星だろう。
そしてこの時期とは小学校の低中学年の期間。つまり教育的基礎と人格形成が完成されるまでの期間なのである。
そんな時期に「ちんちん」を刷り込まれたら。「ちんちん」と口にする快楽を覚えてしまったら。
人格がちんちんで形成されてしまい、日本国民の学力に致命的な打撃を与えることになる。
学力ちんちんになり、ちんちんと口にする喜びを潜在的に刷り込まれてしまい、その結果は先程述べたとおり。ちんちん発言者となって終了だ。
*
では、この具体例を踏まえて、一体誰が――どの組織が、日本をちんちん国家にしようとしているのか。
しかし――しかし、非常に申し訳ないが、具体的な固有名詞はこの中では示すことはしない。
大変申し訳ないが、これはしょうがない事なのだと理解していただきたい。
具体的に私がその名前を出せば、これは高度に政治的な話題になってしまし、何より危険なのである。私だけではなく読者の皆様も、だ。
この世界の闇を――陰謀を知ってしまったと、みなされてしまう。
それに、情けない話だが、私には具体的にどこの誰だ、どこの組織だという証拠を掴んでいない。
私が非力なのもあるが――それ以上に、可能性のある対象が多すぎるのではある。
しかし、ここまで私の主張を読んでいただいた読者皆々様は、それぞれ予想をしていることだろう。例えば経済競争国やテロ組織などが内側から破壊するため、例えばある大企業が日本経済をぼろぼろにして経済を牛耳る為、例えば大物政治家が――おっと、これ以上は危険だ。
しかし大事なのは「誰が」ではない。好奇心としてはそこが一番気になるところだろうけれど、それは我々のような小市民にはどうでもいいことなのだ。日本を破壊しようなどと計画し、それを行動に移せてしまうほどの力を持つ――そんな相手に対抗する術を、我々は持っていないのだから。
勝てない。ここまで蝕まれている時点で、もう日本は終わりなのだ。
しかし、だけれど、悪足掻きは出来る――私はそう考える。
日本は終わりだが、終わりなりにできることはあると私は思うのだ。
なに、難しい話ではない。「ちんちん」と口にしないだけでいいのだ。
日本は終わりだが、せめて抵抗している意思を見せようじゃないか。悪足掻きだとしても、それでやつらが悔しい思いをするならそうしてやろうじゃないか。
「ちんちん」と言いそうになったら、「陰茎」とあえて難しい言葉にしてしまうのもいいだろう。「ペニス」と医学用語にして、えっ下品な話なんてしてませんけど何を言ってるんですか的な顔をしてしまうのもいいだろう。「ポケットモンスター」と一件大人気ゲームのタイトルのようで、アメリカでちんちんを意味するスラングにしてしまうのもいいだろう。
とにかく、我々はまだ戦えるのだ。
負け戦だが、しかし指をくわえて見ているしかないよりはずっとマシである。
勝てないことは、戦わない理由にはならない。
非力なことは、非力に苦しむ理由にはならない。
さあ。
私と一緒に、日本と共に滅びようじゃないか――。
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