ほうら、狂人だと思っただろう。阿呆の戯言だと思っただろう。

 でもそれはしょうがないころだ。しかしそれはそう見えるだけだ。

 まだ私が、如何に綿密な理論の上に子の主張が成り立っているかを読者皆様に伝えていないから、それはしょうがない事なのである。

 ではこの突拍子のない主張が――突拍子がなく見えるだけだということを、理解していただこう。


*


 読者の皆様は「ちんちん」という言葉を口にしたことがあるだろうか?

 ある。あるはずだ。断言してもいい、絶対に、ある。


 つい最近――何なら今日にでも言った人もいるだろう。私なんかは三日に一度は口に出してしまっている。


 なあに、それは恥ずべきことじゃない。「ちんちん」と言ってしまうのは恥ずかしいことなんかじゃないのだ。

 ――だって、そう串にするように仕向けられていることなのだから。


*


 こう考えたことがある方はいないだろうか――「ちんちんって言葉、言いやす過ぎじゃね?」と。


 くだらないと思った方。「ふっ」と鼻で笑った方。

 なるほど、それはしょうがないだろう。何度も言うが、くだらない主張に見えてしまうのもしょうがないだろう。

 しかしちょっとだけ、少しだけで良いので私の戯言に付き合って、考えてみて欲しい。


 ちんちん。つまり、まあ、言う必要もないが、男性器のことである。

 ちんちんだけではなく生殖器というものは、繁栄の象徴であり、また豊穣を意味する者でもある。生殖器崇拝といって、生殖器をかたどった石や御神木なんかを祀っている神社も存在するくらいだ。


 しかしだからと言って、ちんちんの形をした御神木に巫女さんがまたがっている光景を見て、「ああ、あれは繁栄の象徴なんだなァ」なんて感想を漏らす者なんて、このリテラシーに支配された現代日本では一人もいないだろう。

 

 じゃあどういう感想を漏らすかというと、そうだな――「うわあ……」「下品すぎ」「やべえ……」「インスタに投稿してもBANされない?「草」――まあこんなところだろうか。


 下品――そう、下品。生殖器――ちんちんとは、下品さの象徴なのである。

 下品で、下劣で、けがらわしいもの。つまり、えっちなもの。それがちんちんなのである。


 知り合いの女性に向かって「ちんちん」などと口にしようものなら「この方は低迷する日本情勢の中で、自分のことしか考えられない人が増えているこのご時世で、ついちんちんと口に出してしまう程に口のために繁栄と豊穣のことを考えているのね……ステキですわ!」とはならないのである。


「えっ、うわっ、キモっ…………頭大丈夫?」。この反応で幸運な方である。ただただ無言で、しかし深淵の底の底の方のような冷たい目でじっと見られるのが一番つらかった。


 知り合いならまだしも、見ず知らずの女性ならそれに加えて「通報しますね」が追加されてしまうので、読者の皆々様は決してそんなことを口にしないように気を付けられたし。


*


 以上のことから私が何を言いたいか。

 つまり「ちんちん」とは、「そうやすやすと口にしてはいけない言葉」なのである。…………。


 そうだ。賢い読者の肩なら私が何を言いたいのか、私の主張の本質が何なのかを理解してくれたのではないかと思う。


 ちんちんは口してはいけない言葉だ。しかし、あまりにも言いやすい。

 そう、これはは矛盾しているのだ。

 

 ちんちん。チンチン。それの持つおぞましい意味に比べはるかに可愛らしい響きだ。つい、口ずさんでしまうような音の響きがある。ちんちん。口に出してみよう、ちんちん。なんだか楽しい気分にならないだろうか?


 死ね。殺すぞ。もちろん、これは口にしてはいけない。人を傷つける言葉だからだ。他にも口に出してはいけない言葉はいくらでもある。

 しかしちんちんだけ決定的に異なる点がある。それはあまりにも口に出しやすいという点だ。


 そして、こうは考えられないだろうか。

 つまり――まるでちんちんタブー言わせ犯させようとしているようだ、と。


 自然とそう思考してしまうのは、私だけだろうか? 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る