第24話 謎の人物

歌織と典明を見つけたはいいが、どうしてこのような状況になっているのか。


状況がわからない雅明は、2人が休憩して寝ているとしか思えなかった。


「心配して損した…」


がっくりと肩を落とす雅明。


凛は凛で、硬かった表情が安心したのか少し和らいだ。


「とりあえず起こすか」


そう言いながら雅明は2人に近づく。


典明の肩に手を伸ばした瞬間———


ヒュンッ


雅明の耳元で音が鳴ったかと思えば、目の前の壁には小ぶりな斧が刺さっていた。


「は…?」


雅明と凛は斧が飛んできた方向を振り返る。


そこには1人の男がいた。


「悪いな。その2人に触れないでもらえるか?聞きたいことがあるんでね」


そう言いながら男は雅明と凛に近づいてくる。


「はぁ?何言ってんだてめぇ。コイツらは俺らの連れなんだ。連れをどうしようとお前には関係ねぇはずだが」


雅明も負けじと言い返す。


凛は黙ったまま男をじっと見ている。


「そんなこと言われてもなぁ。こっちは知り合いの家に勝手に入られた挙句、いろいろ物色されてるわけだ。そうやすやすと返すわけにはいかねぇな」


「…なるほど。罠だったってわけか」


男の言葉に雅明はそうこぼす。


「罠ぁ?そいつぁ心外だな。たまたま鍵のかかってなかった家に勝手に入ってきたのはその2人だろ?」


男の言い草からして罠ではなかったのか、そう雅明は考える。


しかし、こちらにも事情があるとはいえ男の言う通りである。


「だったらお前かそっちの嬢ちゃんが理由を教えてくれんのか?それならそれでこっちとしてはいいんだが」


黙り込む雅明。


「…こっちがそれを話すメリットは?」


凛が雅明の代わりに男に問う。


「そうだなぁ。理由によっては情報提供をしてやらんでもない、と言ったら?」


凛は雅明に視線を送る。


雅明もどうすることが最善か考えているようだった。


「…断る、と言ったら?」


やっぱり雅明は相手を煽るスタイルである。


「さぁ?ここでお前らまとめて殺しちゃうかもよ?」


男はあまりにも軽い態度で物騒なことを言い始めた。


2対1、歌織と典明が起きれば4対1となるのに、男は随分余裕そうだ。


「へっ、やれるもんならやってみろ、ってぇの!」


雅明がそう言い終わるのと同時に、男の近くにあった観葉植物の枝が男の体に伸びていった。


男も攻撃に備えようと構えた。




「待て」


2人の動きを止めたのは凛の冷静な声だった。


静かでありながら、しっかり部屋に響いた声に雅明が操っている植物も、男も動きを止める。


そんな凛は窓の外に顔を向けたままである。


2人は怪訝そうに凛を見る。


「…何か近づいてくる。それもかなりの数だ」


「…は」


凛の言葉に雅明はぽかんとしている。


それもそうだ。先ほどまで誰もいなかった町に突然たくさんの人が来るなんて思いもしないだろう。


一方男は黙り込んで何やら考えているようだ。


「…一時休戦だ」


黙り込んでいたかと思えば突如男はそう言いだす。


「お前何言って—」


「悪い、事情は後で話す。奴らが狙ってるのはおそらくこの家だ。ちょっとここを守るの手伝ってくれないか?」


雅明の言葉を遮り、早口で協力を仰ごうとする男。


「お前がこの2人に手を出さない保証は?」


「ある。俺の能力は斧を出すだけのシンプルな能力だ。自分の周りに出すことしかできないから、外で戦えば何も問題ないだろ?」


「…雅明、早く」


だいぶ近づいてきたのだろう、凛が雅明を急かす。


「わかった。凛、そこの窓から外に出ろ。俺はコイツと玄関から出る。お前もそれでいいな」


「了解。出たら窓は糸で塞ぐ」


凛はすぐさま頷く。


「ロイだ。って嬢ちゃん一人でいいのかよ」


男はロイと名乗った。


そんなロイは凛の心配をしている。


「今の聞いてたろ。糸を使うんだから刃物を使うお前や俺がいたら返って邪魔になるんだよ」


雅明は凛を一人にした理由を端的にロイに伝える。


凛はしゃべる必要がないと思ったのか、静かに外を見据えている。


「なるほどな。で、お前と一緒なら監視にもなる、と…」


「そういうわけだ。俺は雅明。間違っても刺し違えてくれるなよ」


ロイが名乗ったので雅明も名乗っておく。


ちゃっかり嫌味を入れながら。


「じゃ、お前ら準備は良いな?行くぞ!」


雅明の掛け声で凛は窓から飛び出る。


その瞬間窓は糸で覆われ真っ白になる。


雅明とロイは玄関に走って向かう。


「俺が扉を開ける!いいな!」


ロイが雅明に声をかける。


「あぁ!頼んだ。こっちも出たら扉を植物で塞ぐ」


ロイが扉に手をかける。


それと同時にもう片方の手には光が集まったと思えば片手で扱えるサイズの斧が握られていた。


斧の刃渡りは30センチほどと大きく、柄の先端には突き刺せるようになっているのか鋭い槍のようになっている。


そんなファンタジーさながらの斧を見て、少しワクワクしている雅明だった。




ロイが勢いよく扉を開けて外に出る。


それに続いて雅明も外に出た。


「思ったよりも多いな…」


数がいるとは凛から聞いていたが、ロイは驚いているようだ。


「っていうか甲冑?おいおい…いつの時代だよ」


雅明たちがいる家を取り囲んでいたのは、中世ヨーロッパの騎士を彷彿させるような甲冑姿をしている兵士だった。


雅明はすぐさま扉を閉め、入り口を植物で塞ぐ。


兵士たちはじりじりと2人に近づいてくる。


「左は任せた」


そう言いながらロイは兵士の集団に突っ込んでいく。


そんなロイはいつの間にか両手に1本ずつ斧を握っていた。


手始めに近くにいた兵士を右手の斧で横に一閃、吹き飛ぶ兵士。


迫ってくる他の兵士の攻撃を避け、蹴りも交えてどんどん崩していく。


そんなロイの戦闘を見てテンションが上がる雅明。


「って人の戦い見てる場合じゃねぇな」


自分が任されたほうの兵士を見ながら雅明はつぶやく。


一体どう調理してくれようか、そんなことを考えながら雅明は辺りを見渡す。


雑草から木まで、幸い植物はたくさんある。


だがネックなのは一瞬でもいいから植物に触れなければならない。


手持ちの種を使うのはぶっちゃけもったいない、なんて考えている。


ならば方法は1つ、突っ込んで植物に触れればいい。


雅明は集団に向かっていった。


兵士の攻撃を翻しながら、目的のポイントまで一気に走り抜ける。


どんどん雅明に攻撃を仕掛けてくる兵士、それを軽々と躱していく雅明。


ポイントにたどり着いた雅明は立ち止まる。


次の瞬間雅明に攻撃をしてきた兵士たちは動きを止めた。


周囲の植物が兵士たちに絡みつき、身動きが取れなくなっている。


「ま、こんなもんか。おーい、そっちはどうだー?」


雅明はロイに声をかける。


「終わったぞー!」


そんな言葉が聞こえたのでロイのほうを見たら案の定すべての兵士が地面に倒れていた。


お互いが駆け寄る。


「で、何なんだコイツら。誰でもいいから適当なやつ尋問してみるか」


雅明は事情がわからないためとりあえず兵士に話を聞こうとしている。


「ちょっといろいろあってな。その前に嬢ちゃんは大丈夫なのか?」


ロイはまだ警戒しているのか詳細を話さず、凛の心配をしている。


「あぁ、それならほれ。あそこ」


雅明がいるところから凛の姿が見えていたので、その方向を指し示す。


「…わーお」


そこにはただ一人立っている凛と、糸でぐるぐる巻きにされたたくさんの兵士が倒れていた。


あの華奢な姿の女の子がまさかここまでやるとは思っていなかったのだろう。


ロイの顔は引きつっていた。


「で、コイツらどうする」


雅明の声で我に返ったロイは考え始める。


「ちょっと引っかかることがあってな…」


「おいおい嘘だろ…」


ロイの言葉にかぶせるように雅明がつぶやく。


そんな雅明の慌てたような声にロイは辺りを見渡す。


すると雅明によって植物に動きを止められていた兵士たちが、ロイによって倒された兵士たちが動き始めた。


あっという間に千切れていく植物。


凛のほうを見れば同じような状況だった。


「…なぁ、コイツら中身あったか…?」


雅明が恐ろしいことを言う。


中身がない、すなわちそれは、どれだけ動きを止めようが攻撃を入れようが何度でも起き上がってくるということになる。


「ないって可能性が高そうだな…」


ロイは頬に冷や汗を垂らす。


「仮に操ってるやつがいるとして、とりあえずコイツらどうにかするか…」


雅明とロイは背中を合わせ、再び迫ってくる兵士たちと対峙する。


「やるぞ」


「おう」


ロイの言葉に返事を返す雅明。


2人は再び兵士に向かって行った。

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