第23話 合流…?
「で、そっちは何かあったのか?」
町へ続く道を歩く雅明。
その少し先を歩く凛に雅明は問いかける。
「………いや、何もなかった」
何かを言い淀んだような様子の凛は、何もないと言う。
「なんだよその間は。手がかりがなくとも何かあったって言ってるようなもんじゃねぇか」
やはり凛の言い方が気になったのか雅明は『何か』を聞き出そうとする。
「…大した話じゃない。ところどころに血痕があった、ただそれだけのことだ」
「それだけって…。動物の死骸があったりとか、あまり考えたくねぇが人の遺体とかは…」
「ない。血痕だけ、だ」
雅明は息を飲んだ。
まさか凛も同じようなものを目撃しているとは、思わず黙り込む。
「その様子じゃそっちも何かあったのか?」
「まぁ…な。手がかり、と言えなくもないものと…乾いてはいたが、バケツをひっくり返したような量の血だまりが…な」
凛の言葉に少しずつ言葉を紡ぎ答える雅明。
雅明の言葉を聞いて凛は黙り込んだ。
何かを考えているようだ。
「とりあえずこの話は後だ。まずは典と歌織と合流するぞ」
その言葉に凛は頷いた。
だいぶ町の中央に近づいてきた。
だが相変わらず町には人の気配が感じられない。
そして歌織と典明の姿もなかなか見つからなかった。
足を止め雅明はつぶやく。
「アイツらどこにいるんだ…」
2人が見つからないことに対する呆れなのか、はたまた探すことが疲れたのか、雅明の声は浮かない色を醸し出している。
「連絡したらどうだ?」
凛の言う通りである。
何も今は江戸時代や大正の時代のように文や直接足を運ぶなどしなくてもいい。
スマホというとっても便利な代物があるのだ。
凛だって雅明だってスマホはある。
もちろん歌織も典明もスマホは持っている。
だから連絡すればいいと凛は当たり前のことを雅明に言った。
凛から連絡しないのはなぜか…そこはツッコまないでおこう。
凛の言葉を聞いた雅明は首を横に振った。
「もうやってる。典にも、歌織にもな」
そう、雅明は診療所を後にしたタイミングで歌織と典明の両方にメッセージを送っていたのだ。
だが依然としてどちらからも音沙汰なしの状態だ。
「返事どころか既読もついちゃいねぇ」
雅明の言葉に凛は眉をひそめる。
「…何かあったんじゃないか?」
「まぁ、そうとも考えられるが…。2人揃って気づいてない可能性だってあるからな」
何もないといいんだが、とこぼす雅明。
「手分けするか?」
「いや、このまま探そう。万が一ってことがあるからな」
そう言って凛の提案を雅明は却下した。
「そうだな」
雅明と凛は再び歩みを進め、歌織と典明を探すも見つかる様子はなかった。
「おいおいおいおい…勘弁してくれよ…。何やってんだアイツら…」
ため息とともに愚痴のような言葉が雅明の口からこぼれる。
「連絡はないのか?」
言葉を発するのが面倒なのか、凛の言葉に雅明は首を横に振るだけだった。
「外にはいないとなると…建物の中、か…?」
「いやいや、住宅街だぜ、この辺。家はどこも鍵かかってるだろさすがに」
雅明の言う通りだ。
典明と歌織のように1軒ずつ家を訪ねて調べない限りは、鍵が開いているとは思わないだろう。
「いや、あったぞ」
「え!?」
驚いて凛のほうに振り向く雅明。
その勢いが良すぎて一瞬風が流れた。
「あそこだ」
凛が指を指している家を見る雅明。
普通の家だ。
なんで凛は鍵が開いているとわかったのか、考えながら雅明は目を凝らして家をじっくり見る。
「鍵が開いているようには見えねぇけど」
雅明の言葉を聞いた凛はすたすたとその家に向かっていく。
雅明も凛について行くが、近づいてようやく気付いたようだ。
「どうみても扉が開いているだろう」
凛はさも当たり前のように言うが、扉は若干開いていただけで遠目で見ただけでは気づかないレベルだった。
「いやいや、なんでお前あんな距離があって見えるわけ!?」
「どう見ても明らかだろう」
雅明のツッコミにも冷静に返す凛。
「お前の視力が良すぎるだけだから!普通はあの距離じゃわかんねぇから!!」
凛は糸を使う能力のせいなのか、人の何倍も視力が良い。
だから家の扉がほんの少し開いていたのも気づいたのだろう。
決して雅明の視力が悪いわけではない。断じて。
「で、どうする?」
視力の話はどうでもいいと言わんばかりに、凛は雅明に聞く。
「どうするもこうするも、行くしかねぇだろこれ」
雅明の選択肢は家に入る、その一択のようだ。
「罠って可能性もあるが」
「罠ならもっとわかりやすく扉開けておくだろ」
「わかりやすかったが」
「それはお前の視力が無駄にいいからわかっただけで!普通なら気づかねぇ」
テンポの良い掛け合いをする雅明と凛。
「とりあえず入るぞ」
そう言い扉を開ける雅明。
凛は頷き、念のため周りを警戒しておく。
「ビンゴだ。何やってんだアイツら…」
扉を開けた雅明が玄関を見て口にする。
歌織と典明の靴がそこにはあった。
だが家の中からは2人の話し声は全く聞こえない。
警戒しながら雅明と凛は玄関から先に進む。
目指すは明かりが漏れている部屋だ。
ちなみに雅明と凛は靴を脱がないようだ。
静かに足を進める雅明と凛。
「ここ、開けるぞ」
凛は雅明の言葉に頷いた。異論はないようだ。
雅明は息をのみ、明かりの漏れている部屋の扉を静かに開けた。
何かに荒らされたように散らかっている室内を見て2人は目を見張った。
「これ…アイツらがってことはねぇよな」
室内を見渡しながらつぶやく雅明。
凛はずんずんと室内に足を運んで行った。
「…いた」
部屋の奥まで進んでいった凛は歌織と典明を見つけたようだ。
その言葉に雅明も凛の場所に駆け寄る。
2人が見たのは、壁に背を預けて座り、寄り添って寝ているようにも見える歌織と典明の姿だった。
「…‥‥‥はぁ?」
雅明の拍子抜けしたような声が部屋に響いた。
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