第19話 人がいない町
雅明と凛に続いて、歌織と典明も町を探索している。
「なんというか、時間が止まっているみたいですね」
「ああ。歌織の言う通りこの町だけ時間が止まっているみたいだ」
その町は、廃村というにはあまりにも綺麗すぎるのだ。
店や家の外観を見る限り、老朽化している様子はない。
通りにある大きな時計は依然動いている。
雅明が言ったように、埋め立て工事か何かで退去命令が出て、ほんの数日前に町の人間が退去したとも考えられる。
それでも違和感はぬぐえなかった。
歌織と典明はそれぞれ近くの家に人がいないか訪ねることにした。
「すみませーん。どなたかいらっしゃいませんかー?」
歌織はインターホンを推した後、ノックをしながら声をかける。
少し先の家では典明が同じようにしている。
歌織が訪ねた家からは反応がなかったため、典明がいる家のほうに足を運ぶ。
「典明さん、どうですか?」
「ここは誰もいないようだ。歌織のほうはどうだった?」
典明が訪ねた家も歌織が訪ねた家と同じようだった。
「いえ、やっぱり誰もいないようです」
歌織のほうもダメだったことを伝える。
「そうか…。でも人がいないと決まったわけじゃないし、大変だけど1軒ずつしらみつぶしに当たっていくしかないね」
「そうですね。雅と凛は他の方法で調べてくれてるだろうし…。私たちはこの方法で続けましょうか」
先に行った雅明と凛の姿は全く見当たらない。
歌織と典明と同じようにしていたら、遠かれど姿を見かけてもおかしくないのだ。
それがないということは、2人は家を訪ねる以外の方法で町を調べていると歌織は考えた。
「うん、それじゃあ次に行こうか」
「はい」
歌織の返事を聞いた典明は、次に向かって歩き出す。
歌織も典明について行く。
次も、その次も、そのまた次も、家から人が出てくることはなかった。
ますます怪しさが増していくばかりだ。
それぞれ町を調べに動いているが、雅明とも凛とも合流することはなかった。
ということは、どちらもまだ調べている段階で、何も見つかっていないのだろう。
そう考えた典明は、次にどこを調べるか悩んでいた。
一方の歌織もまた悩んでいた。
再度典明と二手に分かれて家を訪ねた時、鍵が開いていた家があったのだ。
歌織はそれを典明に伝えるか悩んでいた。
(――あの家のことを典明さんに伝えるということは、そういうことだよね…。どうしたものか…。)
物語の中では、典明が鍵の開いた家に入ってから何かが起こるのだ。
何かというのは、物語を知っている歌織でもわかっていない。
典明が家に入っていった段階で、そのあとはしばらく雅明の視点になるからだ。
そのため、典明が何か危険な目に遭う可能性があるなら避けたいと歌織は思っている。
だが典明の様子を見ても、考えているばかりで他の案は出てこないようだった。
(――ええい、なるようになれ!)
歌織は意を決して典明に言うことにした。
「あの…典明さん…」
「ん?何かあったかい?」
「実は、さっき訪ねた家…どうも鍵が開いているみたいなんです」
歌織の言葉を聞いた典明は腕を組んで考えている。
「どう…します?」
言いたいことは伝わっていると思うが、いくら人がいないとはいえ勝手に家に入るのはさすがに歌織も抵抗がある。
そのため歌織は恐る恐る典明に相談していた。
「そうだね。家の人には悪いけど、少し調べさせてもらおう」
典明の答えは予想していたが、歌織はやはり複雑な気持ちだった。
もう決定してしまったので、あとは何も起こらないことを祈るばかりである。
(――いざとなったら私が典明さんを守らないと!)
歌織も気合を入れた。
「じゃあ、行きましょうか」
2人は鍵が開いている家へ向かった。
「ここの家です」
鍵が開いていた家は、他の家と似たような造りだった。
特別豪華でもなく、シンプルな一軒家である。
そのため、この家だけ空き巣が入ったというのも考えにくい。
人がいないこの町で空き巣が入るなら、もっと大きな家を選ぶだろう。
実際にこの家より大きな家はいくつかあった。
だが鍵が開いていたのはこの家のみだった。
「この家だけ鍵が開いているなんて不思議な話だね。他はちゃんと鍵が閉まっていたのに…」
「何かあるのでしょうか…」
典明が静かに扉を開ける。
玄関に続く廊下は真っ暗だが、1カ所から明かりが漏れていた。
人がいるかもしれないと思った典明は、家の中に声をかける。
「誰かいらっしゃいますかー?」
だが声をかけても何も反応がなかった。
2人は意を決して、家の中に足を踏み入れる。
一度顔を見合わせてお互い頷くと、静かに靴を脱ぎ明かりが漏れている部屋へ向かっていく。
部屋の目の前まで来た2人は立ち止まった。
中からは特に音は聞こえない。
「僕が先に行くから、歌織は下がっていて」
典明の言葉に頷き、一歩下がる歌織。
扉の隙間から中を覗き、ゆっくり扉を引いた。
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