第18話 町に着くまで
寝台列車で一夜を明かし、4人は目的の駅に着いた。
だが医者がいたとされる町は、駅から遠く、バスを乗り継いでようやく着くようなところだった。
「えっ!?凛って18歳だったのかい?」
町までの道中、4人以外乗客がいないバスの中で声を上げたのは典明だった。
凛が18歳ということに驚いているようだ。
「意外だなぁ。まさか俺より年上だとは」
雅明も典明と同様に驚いている。
歌織は漫画を読んでいるため、凛の年齢ももちろん知っている。
だから2人と違って驚くことはなかった。
「確かに凛の見た目だと、もう少し下に見られてもおかしくはないですよね」
歌織の言葉に頷く典明と雅明。
凛は童顔で小柄な見た目に、華奢にも見える細さだ。
だが胸と尻には程よく肉が乗っているため、全体的に見て、可愛い女の子の理想像と言えるだろう。
「…気にしてるんだがな」
それを良しとしないのは凛自身だ。
気にしている故に、顔の半分を前髪で隠しているし、服は体のラインが目立たないようなものを着ている。
凛が自分の見た目を気にしている理由を知っているのは、漫画を読んでいた歌織だけである。
「でも私は凛の見た目、うらやましいと思いますよ」
それでも歌織にとって凛のスタイルは羨ましいものだった。
顔立ちが年相応な歌織の身長は、166㎝と女性の平均を余裕で超えている。
体は決して太いほうではないが、いろんな部活の助っ人をしているだけあって、全体的に筋肉質である。
胸もないわけではないが、凛に比べると幾ばくか小ぶりだ。
背が高いのは不便ではないが、歌織としては160㎝を切るくらいの身長がよかったと思っている。
「…逆に俺は歌織がうらやましい」
154㎝と比較的小柄な凛からしたら背の高い歌織がうらやましいようだ。
歌織にしても凛にしても、所詮ないものねだりである。
女2人がスタイルの話をし始めたため、男2人は下手に口が出せない。
今の時代何気ない発言がセクハラになりますからね!
だがそうは言っても、歌織と凛がそんな話をしていれば、典明と雅明の視線は女2人の体に自然と向いていく。
「おい」
突然凛が低い声を上げる。
歌織はその様子にキョトンとし、男2人はギクリとした。
「人の体をじろじろ見るんじゃない」
凛はそんな男2人の邪な視線に気づいていた!
凛の言葉に歌織は苦笑い。
典明と雅明はバッと歌織と凛から目を逸らした。
2人はそのまま同じような方向を見ている。
さすが兄弟、完璧にシンクロしている。
やっぱり兄弟なんだなと思いながらも、歌織は苦笑いを浮かべたままだった。
そんなこんなで4人はバスに揺られ、目的地に到着した。
バス停の周辺は、都会に比べると自然が多い場所だった。
「こっちだ」
典明の案内に従い、3人はついて行く。
「なーんか田舎って感じだよなー。こんなとこに医者が住んでたのか?」
雅明の言う通り、田舎という言葉がふさわしい場所だった。
進んでいく先に家のような建物が見え始めるが、それ以外は緑が広がっていた。
「そういう特殊な奴だからこそ、目立たないこんな田舎に住んでいたのかもしれないな」
そう言う凛も、緑が広がっている景色が珍しいのか、歩きながら周りを見渡している。
典明も雅明や凛の言葉に頷きながら歩いている。
一方歌織は、周りを警戒していた。
襲ってくる敵がいないか警戒しているのかと思えばそうではない。
(――夏に比べたらマシだけど、油断してたら絶対なんか飛び出てくるんだから!)
歌織が警戒していたのは虫だった!
歌織は大の虫嫌いである。
蜂など攻撃してくる虫はもちろん、クモなど比較的害が少ないものも、ただ舞っているだけの蝶でさえダメなのだ。
なぜそこまでダメなのか、それは毎年夏に母親の実家に帰省するたびに虫が関係して何かが起こるからだった。
時期が時期なのもあるが、毎年必ず何かに遭遇し、ひどいときは被害に遭う。
外に干していた布団をしまおうとしたら、布団にひっついていたカマキリが歌織に向かって飛んできたり、家の玄関のすぐ近くで大きいクモを見たり、窓から入ってきた虫がご飯の中にダイブしたりなど…数えだしたらキリがない。
このように過去に数々の被害に遭っていることから、歌織は虫がダメだった。
そんな風に歌織が周りに警戒しつつアレコレ考えていたら、何かに鼻をぶつけた。
「おっと…。大丈夫かい?何か考え事していたようだけど」
歌織がぶつかったのは典明の背だった。
「あ、いえ…。ぶつかってすみません。急に立ち止まって何かあったんですか?」
「うん。どうもこの町、人がいないようなんだ」
典明の言葉を聞いた歌織が町を見る。
家や店などの建物を見た限りではそれほど寂れているようには見えない。
だが、昼間だというのに全くと言っていいほど人の気配がないのだ。
「参ったな…。やっぱりちゃんと調べてから来るべきだったかな…」
典明が困ったように呟く。
「埋め立て工事とかで退去命令が出たのかもなぁ。とりあえず手がかりがないか調べてみようぜ!」
典明の言葉をフォローするように雅明が提案した。
「それぞれ分かれて調べよう。念のため歌織は1人になるなよ」
そう言って町へ歩いて行ったのは凛だった。
凛に続くように雅明も走り出す。
「典!歌織のことは任せた!」
そんな言葉を残しながら。
雅明と凛の切り替えの早さに呆気にとられた典明。
2人を見送った歌織も典明に声をかける。
「典明さん、私たちも行きましょうか」
「そうだね」
歌織と典明も2人に続いて町に足を踏み入れた。
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